日本人からすれば、「何をいまさら」という思いがするが、ついに10月14日、「タマネギ男」こと韓国の曹国(チョ・グク)法務長官が辞任した。9月9日に任命されてから、わずか35日の「短命長官」に終わった。

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 この電撃的な曹国法務長官辞任が巻き起こすであろう今後の状況について、4つの側面から考えてみたい。

韓国の検察改革は進むか

 まずは、「これで検察改革が進むのか」という点についてだ。

 曹国長官は辞任を表明したが、それは言ってみれば「検察との差し違え」を求めたものだった。14日の辞任発表時に読み上げた声明は、A4用紙で3枚に及び、検察改革についての具体的措置が盛り込まれていた。要約すると以下の通りだ。

・現在7カ所にある検察の特捜部を、ソウル中央地検、大邱地検、光州地検の3カ所のみとし、3カ所も縮小する。

1973年からある特捜部の名称を反腐敗捜査部に変える。

・捜査対象を、公務員の職務関連犯罪、重要企業犯罪などに具体化する。

・人権保護捜査準則の改定(1回の調査を12時間以内、8時間以上の休息、深夜9時から翌朝6時までの調査制限、別件捜査などの統制、腐敗犯罪などの直接捜査の開始、電話・メール調査などの最小化、非人権的な言動の禁止)

・検察に対する法務部の監察を実質的なものにする。

 これらの改革案が実施できるかは、次の法務長官に誰が任命されるのか、そして文在寅大統領のリーダーシップを発揮できるのかにかかっている。文大統領としては、「タマネギ男」のように自身及び家族の疑惑が出ず、かつ検察権力を抑え込めるパワフルな後継者を望むところだが、そんな適任者がいるのかという問題もある。

 9月に曹国法務長官の任命を強行し、かつここまで引っ張ったことで、検察改革が失速していく可能性も十分あると見る。そしてそうなることは、文在寅大統領がレイムダック化していくことに他ならない。

韓国社会の分断は止むか

 第2の側面は、このところの韓国社会で進んだ「分断」がどうなるか、だ。

「親文在寅派」(左派)と「反文在寅派」(右派)が、それぞれ数十万人規模の人員を動員して、ソウルでデモを行っているのは周知の通りだ。

 中でも右派の最大の主張は「曹国法務長官の辞任」だった。それを実現した現在、デモは止むのか。右派のデモ参加者の一人に聞いたところ、「すでに曹国の辞任から文在寅の辞任に要求がグレードアップしており、引き続きデモを行う」とのことである。野党の自由韓国党もこうした流れに乗る意向で、このまま来年4月の総選挙まで「左右のデモ合戦」が継続する可能性がある。つまり、左派と右派の分断は容易には止まらないだろう。

次期大統領選挙にどう影響するか

 3つ目の側面は、曺国氏辞任が次期大統領選にどう影響するかだ。

 9月17日に韓国の調査会社カンタコリアが発表した「次期大統領にふさわしい人物」調査の結果は、以下の通りだった。

1位 李洛淵(イ・ナギョン)首相              15.9%
2位 黄教安(ファン・ギョアン)自由韓国党代表(前首相)  14.4%
3位 曹国(チョ・グク)前法務長官             7.0%
4位 劉承旼(ユ・スンミン)正しい未来党前共同代表     5.3%
5位 李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事          5.0%
6位 朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長         4.5%
7位 洪準杓(ホン・ジュンピョ)自由韓国党前代表      3.7%
7位 安哲秀(アン・チョルス)正しい未来党前共同代表    3.7%
9位 羅卿瑗(ナ・ギョンウォン)自由韓国党院内代表     3.0%

 これもあくまでも私見だが、曹国候補が事実上、消滅した現在、この9人の中で真の大統領候補と言えるのは、1位の李洛淵首相と2位の黄教安前首相、6位の朴元淳ソウル市長の3人である。その他は淘汰されていく気がする。

 9位の「氷姫」こと羅卿瑗候補は、曹国法務長官追及で名を挙げたが、大統領候補にはなれないのではないか。第一に、2012年のソウル市長選挙ですでに敗れている。第二に、彼女の夫、息子、娘も「爆弾」(不正入学その他のスキャンダル)を抱えている。第三に、そもそも大統領の器ではない。

 2位の黄教安前首相も、右派の自由韓国党の公認候補にはなれるかもしれないが、大統領にはなれないだろう。第一に、印象の悪い朴槿恵政権のナンバー2だった。第二に、検察出身で地味でイメージがよくない。第三に、韓国の政権は、左派が10年(金大中・廬武鉉)、右派が10年(李明博朴槿恵)と続いたので、さらに今後は左派が10年(文在寅+α)となる可能性の方が高い。

 そう考えると、まだ2年半も先のことだが、現時点で次期大統領の「本命」は李首相で、「対抗」が朴市長ということになる。

日韓関係は改善されるか

 そして最後が、今後、日韓関係は改善されるか、という側面だ。

 今後の日韓関係を占う上で重要なのが、10月22日に行われる新天皇の即位礼正殿の儀である。韓国からは、注目の李洛淵首相が出席する予定だからだ。官邸関係者に聞くと、「安倍晋三首相は李首相との会談を嫌がっているが、外務省が説得している最中」だという。おそらく安倍・李会談は行われるだろう。

 問題は、その中身である。李首相としては、文在寅政権のナンバー2であると同時に、次期大統領候補「本命」としての外交デビューとなるため、ひと際重要な会談だ。

 これまた私見だが、与党「共に民主党」に派閥を持たない李首相は左派に従う必要があること、及び本人の慎重な性格などから、今回、日韓関係を大幅に改善する意思はないと見る。少しでも日本に妥協した素振りを見せたら即、「本命候補」から滑り落ちてしまうからだ。

 そのため、単に握手に終わる可能性が高いと見ている。もっと言えば、アメリカの政権が日韓関係の修復に積極的に動かないトランプ政権であるため、トランプ政権と文在寅政権、それに安倍政権という3つの政権のうちいずれかが変わらない限り、日韓関係改善は望み薄だろう。

 いずれにしても曹国長官の辞任で、韓国政局が収まるとは、とても思えない。

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10月14日、京畿道果川の政府庁舎で検察改革案を発表する曺国法相(写真:YONHAP NEWS/アフロ)