このコラムは台風19号が日本列島を通過した直後に公開されると思われ、執筆しているのは当然ながらそれ以前のタイミング、10月11日の夜に当たります。何を記すか本当に悩んだのですが、目をそらさず台風の問題を直球で扱うことにしました。

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 いま、金曜夜の時点で私が一番心配しているのは、もちろん台風の規模とか、大きさ強さ激烈さ、雨や風も当然ですが、その「進み方」が気になって仕方ありません(追記:実際直撃となりました)。

 いまさら言うまでもありませんが、日本列島の天気というのは、西から東へと流れて行きます。

 今回の台風19号も、上陸後は西南から東北へと、列島の背骨に沿うようにして進んで行くはずですが、この台風は、ほとんど南から北に、まっすぐ進んでいるように見えます。

 日本は「温帯」のはずです。この「温帯」を特徴づけるのは「西から東に流れる風」偏西風と呼ばれるグローバルな強い風ですが、それに流される気配が、ない。

 細かなことは地球物理学者や気象学者など、専門家に伺わなければ全く分かりませんが、間違いなく言えることは「偏西風をものともしない進路」を取って、この台風は日本に上陸しようとしていることで、これには思い当たる記憶がありました。

伊勢湾台風」です。

 1959年昭和34年9月26日に日本を襲ったこの台風は、死者4697人、行方不明401人と5000人を超える犠牲者を出し、負傷者4万人、戦後最大の犠牲を出した台風でした。

 その進路が、日本に到達する直前、ほぼ真北に向かって進んでいたのです。それから60年の年月を経て、今回の超大型台風の来襲を日本は受けている。

伊勢湾台風」の暴風域は東側約400キロ、西側約300キロ、東西合わせて700キロに及ぶという、とてつもない代物でした。

 今回の台風19号はどうなのか?

 今回の台風19号、11日夕方の時点では、八丈島の南南西約500キロ付近に中心があり、その大きさは、風速毎秒25メートル以上の暴風域だけで直径が650キロあり、ほぼ伊勢湾台風のスケールといってよい。

 ここまで大きいと「千葉県に上陸」などと地点を特定することができないサイズになります(追記:実際には中心の位置で見て、土曜日の夕刻、伊豆半島近辺に上陸したと定義されました)。

鉄道の距離で考えると
東京と京都の間は

 東京から西に測れば650キロというのは広島に届く距離になるし、近畿圏の西端というべき姫路から測れば、650キロ東は関東、福島を通りすぎて仙台まで手が届く。

 こんなエリアが一度に暴風に巻き込まれてしまったら「安全な場所」に避難するのも「安全な場所」から救援に向かうのも、およそ困難なことになりかねない。

 台風一過の状況、少しでも被害が少ないことを祈りますが、このような前代未聞の台風は「同時多発型」の被害を生み出し、日本全国至る所が同時に被災地になっている可能性も念頭において、備えを復旧に心の整理をしておく必要があるでしょう(この校正を記している月曜夕方の時点でも、まだ被害の全容は十分報道されていないように思われます)。

 9月に千葉県を中心に被害を及ぼした台風15号は「観測史上最強規模の」「非常に強い」台風として認識されましたが、襲ってくる台風になすすべもない人が多い中、大規模停電、断水などを引き起こす莫大な被害を生み出しました。

 被害額が東日本大震災を凌駕したことには既にこの連載でも触れた通りですが、この15号台風、暴風域の直系は160キロメートルほどで、つまり台風19号の4分の1程度に過ぎないことになります。

「観測史上最大規模の台風」15号からわずか1か月で、直径だけでもその4倍、台風のエネルギー規模をどのように直径と結びつけるべきなのか、全く分かりません。

 仮に高さが等しい円筒であると考えれば、その容積は、底面積が2乗規模で効いてくるとすれば、1桁大きなものであっても何も不思議ではありません(追記:本校正時点で30人に及ぶ犠牲者が報道されており、いまだその数は増えることが懸念されています。大変な被害になってしまいました)。

 間違いなく被害は出ているはずで、被害の復旧に全力をあげておられるタイミングで公開される原稿を、上陸の24時間以上前に書いているというのは、一面因果なことでもあります。

 が、考えようによっては、先手を打つことができるわけでもあります。

 例えば、このようなサイト(https://www.windy.com/?34.470,132.429,5)を通じて、自分の住まいや家族親戚、友人のエリアが、いつ頃どのような状態にあるか、あらかじめ予測を立て、充分な事前の対策をとることができる時代でもあります。

 被害の極小と復興への道筋を積極果敢につけてゆくべきと思います。その観点で、希望につながる政策案を一つ記してみたいともいます。

伊勢湾台風から所得倍増計画へ

 先ほども述べたように、伊勢湾台風が日本全国を襲ったのが1959年、このときの内閣総理大臣岸信介でした。現在の上皇・上皇后夫妻が結婚、前回の東京オリンピックの開催が決まったのも同じ年のことです。

 また「60年安保」で政治が大荒れに荒れたのもこの頃のことで、翌60年の6月15日には東京大学に在学していた女子学生、樺美智子さんが亡くなり、岸政権は新安保条約批准ののち総辞職、池田勇人内閣が成立します。

 直後の10月、日本社会党の浅沼稲次郎委員長が、17歳の少年山口二矢に刺殺されるなど、別の意味での嵐の季節でもあった。

 そんな中で誕生したのが、池田内閣の目玉政策となった「所得倍増計画」でした。

「年率9%の所得倍増」

「10年間で国民所得は2倍になる」

 といったスローガンは、初めのうちこそ、人気取りのプロパガンダと批判されましたが、4年後に控える東京オリンピック、それに向けての高速道路新幹線敷設などの大規模な公共投資が控えていました。

 また自動車、電化製品を始めとする多様なイノベーションの芽がでていたことから、可処分所得は名目では文字通り倍増、充分に実体経済を潤すことになりました。

 この上昇カーブが最終的に下向に向かうのが1997年前後で、それからの20余年、私たちは金融危機、震災、原発事故と、様々な困難に直面してきました。

 そして震災原発事故以降、近年非常にはっきりしてきたのが気候変動、より正確に言うなら、地球環境変化に伴う、気象の「乱高下」に伴う大規模災害と見做すことが出来るでしょう。

 なぜ被害が甚大化するのか?

 その一因は、高度成長期以降、日本が伸びていた時期に主として設置されたた多種多様なインフラが「還暦」を迎えつつあるから、と大きく言って外れないかと思います。

 より正確には、もっと「新陳代謝」の激しいものもあるでしょう。

 一般にRC工法ビルの物理的な寿命は50年もあればよい方だと思いますので、「所得倍増計画」直後に建てられたビルはすでにあまり残っていないでしょう。

 あるいは、9月の台風で被害を受けた鉄塔や電柱はどうか?

 架空送電鉄塔の耐用年限は50年、鉄筋コンクリートの電柱が42年、引込線の耐用年限は20年しかないそうです。

「寿命」が言い過ぎだとしても、日本全国、随所のインフラストラクチャ―が「更年期」を迎えているのは、まちがいのない事実でしょう。

 しかも、上記のような「耐用年限」は、かつての日本の環境や気候を前提に考えられ、算出、制度化されたものにほかならない、

 それがもう、充分、茹で上がりつつあるところに、9月に「観測史上最大の台風」が来襲して、首都圏大停電というとんでもないことになってしまった。

 それから1か月、さらに1桁大きな台風がやって来た。そして、こうした来襲には終わりがなく、今後もさらに激甚化の一途を辿る懸念が拭い切れない・・・(追記:実際、甚大な被害が出ています)。

 いまは、大変な中だと思われますので、ここでは、先に結論だけを記したいと思います。

 もう一度、日本のインフラストラクチャーを、本質的に作り変える必要があるでしょう。

 大規模な公共事業を計画し、国民によりよい仕事を与え、被害に遭った人たちを救済するのみならず、明日への希望、生きる灯明を作り出すこと。

 それが政治の役割であって、それができないまつりごとなら、意味はありません。

 被害状況によっては、天皇の即位など、延期しても全然かまわないでしょう。すべては状況によります。

 間違いなくやって来る日本の少子高齢化、そのなかでGDPを下げず、国力を温存維持、ないし発展させようと思うなら、1人当たりの国冨を伸ばすしか方法がないことは、小学生でも分かる話で、それをそうさせないのは、別の了見によるものに過ぎません。

 60年前、50年前に日本を元気にし、いまやよれてきているインフラを、根本的に見直すこと、そのための財源を適切にねん出すること。

 そうしたまともな政策が打てて、はじめてまともな政治と呼ぶことができるでしょう。

 日本はサステナブルな観点からは恰好のモデルを持っています。伊勢神宮の遷宮です、

 お伊勢さんが天皇家の祖先であるかは全く知りませんが、少なくとも1300年来、20年に一度全とっかえするのがサステナブルというスタイルを、はっきりと全世界に示している。

 こういうものをこそ「日本の伝統」と呼ぶべきでしょう。

伊勢神宮方式で考えれば2020年は

「21世紀に入ってから作ったものを、全とっかえするタイミング」です。所得倍増計画から数えれば、もう3回まるまる作り変えていてもよいだけの時間が経っている。

 ところが実際には1997年頃から止まったままの成長の時計。それを、もう一度回す政策の転換を、いまこそ検討すべきではないか?

 繰り返し来襲する台風の被害を懸念しつつ、その破壊の先にあらたな新生のイニシアティヴをとってこその、公共であり行政であると思います。

(つづく)

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  また首都圏直撃か、猛烈台風が次々襲う必然性

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