ドナルド・トランプ大統領(以下トランプ)のホワイトハウスが変わりつつある――。

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 何がどう変わりつつあるのか。時計を1カ月以上前に巻き戻すところから始めたい。

 トランプは9月10日、ツイッターで「ヒゲの補佐官」として名を馳せたジョン・ボルトン国家安全保障担当補佐官を解任した。

 同職は大統領が安全保障政策の決断を下す時に大きな影響力をもつ側近中の側近である。

 強硬派として知られたボルトン氏を政権から追いやって、後任として国務省で人質問題担当特使をしていたロバートオブライエン氏を選んだ。

 ホワイトハウスの国家安全保障担当補佐官は政治任用職ではないので、議会での承認は必要なく、トランプの一存で決まる。

 重職である同補佐官を外交に長けた連邦議員からでも、シンクタンクにいる研究者からでもなく、国務省にいる役人から選んだという点で、トランプがこれまでとは違う人事をしたことを指摘できる。

 ボルトン氏のように北朝鮮政策などで、平気で大統領に楯突き、強固な態度を崩さない人物ではなく、「大統領閣下!」と跪くことこそしないが、役人の特性とも言える上司に忠実な態度をとる高官を選択したのだ。

 オブライエン氏がブッシュ政権(共和党)とオバマ政権(民主党)の両政権で仕事をしてきた実績を見ても、ボルトン氏とは違うタイプの人物であることが分かる。

 自分の信念を押し通すよりも、「米国の利益になるのであれば方法論は問わない」というスタンスである。

 首都ワシントンオブライエン氏を知る人は「モルモン教徒ということも影響してか、大変な人格者」と高い評価を下す。

 別の知人は「良識のある外交官で、バランスがとれた親しみやすい人物」と、悪い意見は聴こえてこない。

 しかし、オブライエン氏は各方面で柔軟な政策だけを支持しているというわけではないようだ。

 イランに対しては世界最大のテロ支援国家と断じて強気の姿勢を崩していない。

 ホワイトハウスが変わりつつあるというのは、10月10日に同氏が主催して開いた会合から端的にうかがい知ることができる。

 そこでオブライエン氏が言ったのは、国家安全保障会議(NSC)の職員を約半分にするということだった。

 ホワイトハウスは写真でよく目にする白亜の建物だが、行政府の総職員はあの建物内では収まりきらず、すぐに横に建つビルと別のビルで仕事をしている。

 ホワイトハウス事務局に勤務する人数は総勢1800人あまり。その中でNSCに勤務するスタッフは約180人。その数を約100人にスリム化すると述べたのだ。

 内部の人間から間接的に伝わってきた話では、オブライエン氏は「人数がオバマ政権時代に風船のように膨らんで増えてしまった。コンドリーザ・ライス氏が補佐官をしていたブッシュ政権時代(2001年から05年)くらいに戻すのが理想」と構想を語ったという。

 当時のNSCの人数は約100人で現在の約半分だ。

 スリム化の真意は予算削減などではない。意思疎通を迅速化させると同時に、事務的な業務をする職員を減らして政治任用職に置き換えていくことだという。

 というのも、NSCが取り扱う内容はデリケートな安全保障問題がほとんどで、問題の重要性と秘匿性を十分に理解していない職員がメディアを含む外部の人間にリークしてしまうことが増えてきたためだ。

 端的に述べると、今ここで記した情報もホワイトハウスとしては外部に漏らされたくない内容だったかもしれない。

 しかし筆者の耳に入るということは、情報統制が思うように取れてないことにほかならない。

 オブライエン氏が音頭をとろうとしていることは、政権内部の秘匿性の高い情報を漏らさないという、いわば当たり前のことと言えなくもない。

 今年1月、米主要メディアのホワイトハウス支局長が東京に来ていた。同支局長は長年ホワイトハウスをカバーしている人物で、トランプ政権の特徴についてこう話してくれた。

「これほど取材しやすい政権はかつてなかったかもしれません」

 この発言は予想外だった。こうも付け加えた。

「トランプ自身が思ったことをツイッターで発信していることもありますが、職員を通して政権内部のことが筒抜けといえるほど外に漏れてしまうのです。それが今のトランプ政権です」

 政権の外交政策の功罪を問う前に、内部情報が外部に漏れることは、トランプに限らず好ましいことではない。

 180人の大所帯であれば情報統制は難しい。ロバートケネディ政権時代は12人、ジミー・カーター政権時代は35人という数字なので、オブライエン氏の意図は分かる。

 ただ数十年前と今とでは情報量に圧倒的な差がある。

 情報処理と解析・決定には有能な人材が多数必要になるので、人員削減を行えば、これまでと同じようにNSCが機能するかは疑問である。

 NSCはいかに効果的に政策オプションを立案できるかが問われている部局である。

「チームプレーヤー」との評判が高いオブライエン氏が、どれだけスリム化したチームを統率できるかに注目が集まる。

 米国が直面する安全保障分野の問題はいま、イラン北朝鮮ベネズエラなど、すぐに取りかかるべき課題ばかりだ。

 同氏は「次の1年半(残りの任期)、力で平和を実現させていたい。チャレンジングなことだが、トランプ大統領と仕事ができることを楽しみにしている」と語り、前向きな姿勢でいる。

 トランプは同氏のことを「ファンタスティック」と褒めちぎるが、本当にスリム化が功を奏し、ボルトン氏とは違う国家安全保障会議が政策分野で見られるかはすぐに分かるはずである。

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