Credit: Duke Health

Point

■ヒトの軟骨は、オオサンショウウオなどが手足の再生に用いるのと類似したプロセスで自己再生可能なことが判明

■関節組織の修復の統制を助けるミクロRNAは、身体の部位によって活動水準が異なる

■軟骨には年齢があり、年齢が若いくるぶしなどの関節ではミクロRNAが活発に働く

人間は脚を切断したとしても、某ピッコロさんのように脚を再生することはできないでしょう。ですが、軟骨であれば再生できるかもしれません。

Duke Health率いる研究チームによると、ヒトの関節の軟骨は、オオサンショウウオゼブラフィッシュなどの生物が手足の再生に用いるのと類似したプロセスを通じて、自己再生できるとのこと。論文は、雑誌「Science Advances」に掲載されています。

Analysis of “old” proteins unmasks dynamic gradient of cartilage turnover in human limbs
https://advances.sciencemag.org/content/5/10/eaax3203

身体の部位によって活動水準が異なるミクロRNA

オオサンショウウオなどの再生能力を備えた生物は、関節組織の修復の統制を助けるミクロRNAと呼ばれる分子を持っています。

研究チームは今回、ヒトもミクロRNAを持ってはいるものの、軟骨修復のメカニズムが人体の一部では他の部位より強く働くことを明らかにしました。たとえば、膝や腰よりもくるぶしの方が、ミクロRNAは活発に働きます。Duke HealthのMing-Feng Hsueh氏は、この能力を「内なるオオサンショウウオ能力」と呼びます。

Credit: Duke Health

また、軟骨には「年齢」があることも分かりました。身体の部位によって、タンパク質が構造を変えたか、アミノ酸変換を行ったかが異なるのです。軟骨は、くるぶしでは「若者」、膝では「中年」、腰では「高齢」です。これは、再生能力を持つ生物が尻尾や脚の先といった身体の先端で再生速度がもっとも速くなることと一致しています。

くるぶしの怪我が膝や腰の怪我より速く治り、膝や腰と比べてくるぶしの関節炎が起きにくい背景には、ミクロRNAの活動水準と軟骨の年齢という2つの要素が関わっていたのです。

ミクロRNAと調節遺伝子を組み合わせれば手足の再生も夢じゃない

実は、ヒトにもある程度の再生能力があることは以前から分かっていました。たとえば、子供が指先を切断した時、正しい治療を行えば欠損箇所を再生することが可能です。ですが、こうした能力には限界があり、関節に受けた累積損傷に対抗することは不可能だと、広く信じられてきました。今回の発見は、それが間違いだったことを証明しています。

また、アスリートや関節の怪我を抱えた人々にとって、この研究は大きな意味を持ちます。ミクロRNAを関節に注入したり、関節炎の予防や治療に効果的な薬剤の開発に用いたりすることができるかもしれないからです。

次なるステップは、オオサンショウウオが持つ調節遺伝子のうち、ヒトが持たないものが何であるのかを突き止め、それをミクロRNAと組み合わせて人体に取り入れることです。

内に秘めたるオオサンショウウオ能力が開花した暁には、私たちが傷ついた関節組織のみならず、切断された手足さえ修復できる時代が到来するかもしれません。

アソコから授乳できる珍しい症例が報告される 原因は進化の名残

reference: edition.cnn / written by まりえってぃ
手足再生も夢じゃない!? 人間の軟骨は「再生能力」を秘めていることが判明