ヘリ搭載護衛艦「いずも」に対して、F-35B戦闘機を搭載できるように改修する予算案が発表されましたが、この改修は「いずも」にしかできないのでしょうか。似たような外観の、ひゅうが型護衛艦おおすみ型輸送艦の場合、何が問題になるのでしょうか。

F-35B戦闘機を護衛艦に搭載予定

防衛省は2019(令和元)年8月末に発表した、2020年度防衛予算の概算要求のなかに、海上自衛隊ヘリコプター搭載護衛艦「いずも」に、短距離離陸・垂直着陸型のF-35B戦闘機を搭載するための改修予算を盛り込んでいます。この概算要求案が国会において可決されれば、「いずも」は固定翼戦闘機の運用もできるようになるため、事実上の空母化への改修であるといわれています。

ところで海上自衛隊には、いずも型とよく似た外観のひゅうが型護衛艦や、おおすみ型輸送艦もあります。特にひゅうが型護衛艦は、いずも型と同様にヘリコプターを多数搭載して活動するヘリコプター搭載護衛艦です。おおすみ型輸送艦も、艦橋を右側に寄せ、フラットな甲板を持ち、ヘリコプターの発着艦が可能です。

ひゅうが型とおおすみ型は空母化できるのでしょうか。

「ひゅうが」型護衛艦の空母化が無理なワケ

ひゅうが型護衛艦は、いずも型護衛艦の前に建造されたヘリコプター搭載護衛艦で、いずも型とそっくりの外観ですが、全長は51m短い197mで、軍艦の大きさを表す基準排水量も5550トン小さい1万3950トンです。全長が短ければ、そのぶん甲板も狭くなるので、確かに空母としてはデメリットになりうる要素ですが、ひゅうが型護衛艦が空母化に向かないわけは、それだけではありません。

ひゅうが型護衛艦は、艦内から甲板上に航空機を出すためのエレベーターが前後で計2基ありますが、両方とも艦の中央に設けられています。

それに対していずも型護衛艦は、前部エレベーターこそ艦中央にありますが、後部エレベーターは艦橋後部、右舷に寄せて設置されています。この設置方法だと、仮にエレベーターよりも大きな航空機であったとしても、機体をはみ出させつつエレベーターの上下動が可能です。

ひゅうが型護衛艦のエレベーターは両方とも艦体の中にある、いわゆる埋め込み式なので、将来的に大型の航空機を運用することになった場合、エレベーターの拡張は事実上不可能です。さらにエレベーターで航空機を上げ下げしている最中は、艦内でも甲板上でも航空機を前後で移動させたり、発着艦させることができなくなってしまいます。

いずも型護衛艦ならば、後部エレベーターは右舷に寄せて設置してあるため、それを使って航空機を上げ下げするぶんには、艦内も甲板上も飛行機の移動や発着艦を妨げることはありません。

またひゅうが型護衛艦は、ミサイルを射出するためのVLS(垂直発射装置)を艦尾右側に装備しています。これは艦体に埋め込んであるため、この区画ぶん、甲板や艦内の航空機運用スペースを削っているのですが、取り外すには大改修が必要です。

「おおすみ」型輸送艦の空母化も無理なワケ

おおすみ型輸送艦も、いずも型護衛艦ひゅうが型護衛艦と同じように空母のような外観をしています。

しかし、おおすみ型輸送艦は、ひゅうが型護衛艦よりもさらに小さく、全長は178m、基準排水量8900トンしかありません。いずも型護衛艦が全長248m、基準排水量1万9500トンなので、それと比べると、全長で70m、基準排水量で1万600トンも小さいことになります。

また、おおすみ型輸送艦には根本的な問題があります。艦内に揚陸艇や水陸両用車を運用するためのウェルドックを設けているため、航空機を整備できるようなスペースがとれないのです。エレベーターは2基ありますが、車両と貨物用であり、とても航空機の上げ下げができるサイズではありません。

さらに護衛艦の場合、各種運用状況を考慮して最大速度が30ノット以上とされているのに対して、おおすみ型輸送艦は最大22ノット。この速度差は、護衛艦と共に艦隊行動をとるさいに足かせとなります

こうして見てみると、やはり空母化するのはいずも型護衛艦が相応だというのがわかります。

もともと、いずも型護衛艦は将来の発展性を考慮して設計されており、航空機運用に特化していてそれ以外の装備が必要最低限しかありません。外観が空母に似ているから空母に改装できるのではなく、最初から空母に変身可能なポテンシャルを有していたといえるでしょう。

逆にいえば、ひゅうが型やおおすみ型は、いずも型にはない装備を有しており、いずも型が空母化してもそれを補完する自衛艦として、存在感を放ち続けるでしょう。

甲板上にヘリ5機が並んだ「いずも」。白線で四角く囲まれているのがエレベーターで、後部のものが右舷に突き出ているのがわかる(画像:海上自衛隊)。