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連続テレビ小説「スカーレット」
NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~

『連続テレビ小説 スカーレット Part1 (1)』 (NHKドラマ・ガイド)

第3週「ビバ!大阪新生活」13回(10月14日・月 放送 演出・中島由貴
喜美子(戸田恵梨香)はもともと大阪生まれ。お父ちゃん(北村一輝)の商売が失敗して信楽に救いを求めて移住したのだ。
6年ぶりの大阪。
待ち合わせの場所になかなかやってこない雇い主・荒木さだ(羽野晶紀)は仕事に夢中になって約束を忘れていた。
無事おちあい、会社に連れてこられると、さだの経営する荒木商事は下着会社だった。洋服が主になってきたので洋物の下着販売に目をつけたのだ。
仕事は下着のモデルか!? と勘違いしたりなどしつつ、キラキラした女性の集まる職場で働くのかとちょっとときめくも、喜美子の仕事は、“女中”だった。
その落差にがっくりしながら、荒木荘へ。
ところが蓋を開けてみれば、賄い付きで、一部屋もらえるという、貧しい生活を強いられてきた喜美子にとって夢のようなところだった。

でんぐり返しは若さのバロメーター
「うちの部屋かあ」「うわーい!」
喜美子は大喜びで四畳半ゴロゴロする。ゴロゴロといえば水橋文美江が脚本を書いた「ホタルヒカリ」を思い出した。綾瀬はるかローマでもゴロゴロしていた話は以前のレビューで書いた。女のゴロゴロが好きなんですかね。

ゴロゴロと横に転がったあとは、縦にでんぐり返しして、壁をぶち破ってしまう。
「でんぐり返し」といえば、森光子である。名優・森の代表作である、林芙美子の書いた女の一代記「放浪記」を舞台化した作品でヒロインの少女時代、でんぐり返しをして、溌剌さを表現していたのだ。おとしを召してからも元気のバロメーターとしてやり続けたが90歳目前のとき、ついに封印され、その後、仲間由紀恵が受け継いだ。
林芙美子といえば、BK(大阪局)がはじめて制作した朝ドラ「うず潮」(64年)の原作者でもある。林芙美子の著作を何作か織り交ぜて作った林芙美子をモデルにした作品で、原作つきでは初の女の一代記とされる。その後オリジナル「おはなはん」(66年)によって朝ドラの女の一代記の基礎が作られる。まわりまわってBKの意地と誇りの象徴とリンクするような「でんぐり返し」を、戸田恵梨香が。と、勝手にひとり胸を焦がす朝だった。

羽野晶紀、溝端淳平
喜美子の雇い主・荒木さだは、マツ(富田靖子)の遠縁だった。親の商売や土地や家を受け継いで新時代に向けて新しい価値観に置き換えている先進性のある人物らしい。演じる羽野晶紀は、現在ノダマップ「『Q』: A Night At The Kabuki」」に広瀬すず演じるヒロインのお母さん(他何役か)に出演中。そこでも、めちゃ元気でかわいいおばちゃんを演じているが、「スカーレット」でも元気で明るくかわいいおばちゃん。独特の粘っこい喋り方がチャーミングかつ、情報を的確に伝えてくる。ただキャッキャしているわけではないところに羽野晶紀が長らく舞台で大活躍してきた意味がある。おばかぽさと利発さの混合を感じさせない天性の勘がある。結婚して子育てしてしばらくお芝居をセーブしていたが最近、またお芝居に出ていて、すごくうれしい。昨年、ホームグラウンドである劇団☆新感線「髑髏城の七人」での当たり役を20年ぶりくらいに演じていたが、十分かわいいうえ、年をとった深みも出ていてすばらしかった。

「可愛らしいなあ」と喜美子に二回も言う、酒田圭介役は溝端淳平。「立花登青春手控え」で凛々しい役をやっていて、朝ドラに向きそうだと思っていたが、ついに登場。喜美子の憧れの人になるらしい。でも相手役ではないらしい。ちょっと残念。戸田恵梨香より年下だが、お兄ちゃん的存在をどう演じるか。

女中の先輩・大久保は三林京子。大阪出身の名優。朝ドラにも多く出演している。ドラマをびしっと締めてくれそうだ。
昭和、平成、令和と三時代の朝ドラ出演とネットのニュースになっていたが、なんだかんだと無理くり話題にするよなあ〜と思う。まあ、でんぐり返しと林芙美子とBKをつなげて考えているのも無理くりといえば無理くりであるが。
(木俣冬 タイトルデザイン/まつもとりえこ)

登場人物のまとめ
●川原家
川原喜美子…戸田恵梨香 幼少期 川島夕空  主人公。空襲のとき妹の手を離してトラウマにしてしまったことを引きずっている。 絵がうまく金賞をとるほどの腕前。勉強もできる。とくに数学。学校の先生には進学を進められるが中学卒業後、就職する。
川原常治…北村一輝 戦争や商売の失敗で何もかも失い、大阪から信楽にやってきた。気のいい家長だが、酒好きで、借金もある。にもかかわらず人助けをしてしまうお人好し。運送業を営んでいるらしい。
川原マツ…富田靖子 地主の娘だったがなぜか常治と結婚。体が弱いらしく家事を喜美子の手伝いに頼っている。あまり子供の教育に熱心には見えない。
川原直子…桜庭ななみ 幼少期 やくわなつみ→安原琉那 川原家次女 空襲でこわい目にあってPTSDに苦しんでいる。それを理由にわがまま放題。
川原百合子福田麻由子 幼少期 稲垣来泉 

●熊谷家
熊谷照子…大島優子 幼少期 横溝菜帆 信楽の大きな窯元の娘。「友達になってあげてもいい」が口癖で喜美子にやたら構う。兄が学徒動員で戦死しているため、家業を継がないといけない。婦人警官になりたかったが諦めた。
熊谷秀男…阪田マサノブ  信楽で最も大きな「丸熊陶業」の社長。
熊谷和歌子… 未知やすえ 照子の母

●大野家
大野信作…林遣都 幼少期 中村謙心 喜美子の同級生 体が弱い。
大野忠信…マギー 大野雑貨店の店主。信作の父。戦争時、常治に助けられてその恩返しに、信楽に川原一家を呼んでなにかと世話する。
大野陽子…財前直見 信作の母。川原一家に目をかける。

●その他
慶乃川善…村上ショージ 丸熊陶業の陶工。陶芸家を目指していたが諦めて引退し草津へ引っ越す。喜美子に作品を
「ゴミ」扱いされる。
草間宗一郎…佐藤隆太 大阪の闇市で常治に拾われる謎の旅人。医者の見立てでは「心に栄養が足りない」。戦時中は満州にいた。帰国の際、離れ離れになってしまった妻の行方を探している。喜美子に柔道を教える。
工藤…福田転球  大阪から来た借金取り。  幼い子どもがいる。
本木…武蔵 大阪から来た借金取り。


あらすじ
昭和22年 喜美子9歳  家族で大阪から信楽に引っ越してくる。信楽焼と出会う。
昭和28年 喜美子15歳 中学を卒業し、大阪に就職する。


脚本:水橋文美江
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
音楽:冬野ユミ
キャスト:戸田恵梨香北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ福田麻由子佐藤隆太大島優子、林 遣都、財前直見、水野美紀溝端淳平ほか
語り:中條誠子アナウンサー
主題歌:Superflyフレア
制作統括:内田ゆき
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