1970年代の対テロ戦初期、それもフランススナイパーの活躍を描いたちょっと変わった映画が『15ミニッツ・ウォー』だ。キャラの立ったスナイパー5人組が偵察したり待機したりと、狙撃の大変さをみっちり教えてくれる一本である。

スクールバスを狙ったバスジャック発生! 救出に挑むのは5人のスナイパー
『15ミニッツ・ウォー』の元になっているのは、1976年ジブチで発生したバスジャック事件である。当時のジブチは、フランスが唯一保有する海外領土だった。現地では過激な独立運動が頻発し、政情は不安定になっていた。さらにソ連の支援を受けたソマリアが独立運動に協力し、フランスはそれらへの対応を迫られていたのである。

そんな中、フランス軍関係者の子供を乗せたスクールバスが、学校に向かう途中に4人の独立運動家によってバスジャックされる。彼らはソマリア国境までバスを走らせ、投獄されている同志の即時釈放とフランスからのジブチ独立を要求。フランスがこれに応じない場合は人質の子供達を殺害すると脅しをかける。しかしバスは国境へと向かう途中、ジブチに駐留するフランス軍の国境警備隊によってタイヤをパンクさせられ、国境地帯で立ち往生してしまう。

フランス側は外人部隊によって周囲を封鎖。さらに国家憲兵隊のジェルヴァル大尉が指揮する5人のスナイパーチームをパリから現地に派遣し、事態の収拾を図ろうとする。現地を偵察したジェルヴァル大尉はスナイパー5人の連携によるテロリストの同時射殺という作戦を立案するが、外人部隊や人質への被害を恐れる政府関係者との連携が取れず、即座に作戦に移ることができない。そんな中、生徒たちを案じたアメリカ人教師ジェーンが単身バスのテロリストに接触し、事態はさらにややこしいことに……。

という映画なので、主役になるのはフランス人国家憲兵隊のスナイパーチームである。出てくる火器もフランス製、兵隊が喋るのもフランス語と、アメリカ製戦争映画とは一味違う雰囲気。出てくる狙撃銃フランス製のFR-F1、スナイパーチームが持ってる拳銃はマニューリンと、あんまり映画で大活躍するところを見たことがない武器がゴロゴロ登場するのが楽しい。

スナイパーチームの5人も、いい感じにキャラが立ったメンツである。飄々とした指揮官ジェルヴェル以下、常にパイプを手放さない副官ピエール、気のいい巨漢のカンペール、おしゃべりで気のいいロルカ、寡黙だが仕事を確実にこなすラランと、「普通の軍隊」ではないスナイパーチームをうまく表現。70年代テイスト溢れまくりな私服で現場に現れ、軽口を叩きながら狙撃の準備をする彼らの見た目は、ほとんど新谷かおるの漫画である。

更に言えば、主役5人以外の1970年代らしい雰囲気の車や装備も山ほど登場。外人部隊の兵士の、「グリーンの熱帯用野戦服に編み上げのブーツ」という服装もなんだか今となっては懐かしいし、「早く解決しないとソマリアにいるソ連の軍事顧問が来ちゃう!!」という焦りも冷戦っぽさ満載。人質をとったテロ事件にすら代理戦争の影がさすというのは、現代ではあんまり聞かないタイプの緊張の仕方だと思う。

狙撃に関するアレコレの描写は、なんだかとっても丁寧……!
『15ミニッツ・ウォー』は、映画としてはそれほど複雑な話ではない。人質事件を扱った映画は大体面白いけれど、その理由の一つが「どうなったら解決で、どうなったら失敗か」がはっきりしていていて、時系列に沿ってそれらが流動的に変化するからだろう。目的やゴールが見えやすく、ハラハラドキドキしやすいわけである。

で、そんな比較的単純なストーリーを解決するための策が、この映画では狙撃なのである。だから、必然的に5人のスナイパーがどうやって狙撃するかを入念に描写することになる。『15ミニッツ・ウォー』で一番面白いのが、この狙撃に関する描写だ。

まず現場に着いたジェルヴァル大尉は、夜になるのを待ってから大胆にもバスの近くまで走って行って周囲を偵察する。つまり、まず先に撃たれる側の目線に立ってみて、どこが死角になっているのかを確認するのだ。これは軍隊同士の戦闘ではまず見られないやり方である。当たり前だが戦闘中の部隊は警戒したり移動したりしており、なるべく遠くから相手の情報を読み取るのが望ましい。敵が4人と決まっており、さらに夜になれば警戒が薄れるというのがわかっているという、人質事件独特の戦術をしっかり描写する。

軍事作戦のスナイパーと異なり、人質をとって立てこもっている犯人を撃つ場合は近づけるだけ近づくことができるというのも大きな差だ。ジェルヴァル大尉のチームはその原則に則り、ライフルを担いだままバスにできるだけ近く、なおかつ死角になる場所に移動する。そして移動したら、銃を構えたままず〜っと待機である。なんせ戦闘中の兵隊とは事情が異なり、上官が「撃っていいよ」と言われない限り撃てないのだ。ジブチの気温と日差しでみるみるうちに消耗するスナイパーたち。か、かわいそうだ……! そりゃもう大変な仕事である。

更に『15ミニッツ・ウォー』で「丁寧だな〜!」と思ったのは、照準をする場面に関してである。スナイパーが狙いをつけるシーンではスコープ内のレティクル(狙撃銃で狙いをつけるときに出てくる十字の線である)越しの視点になるのだが、このレティクルが射手によってそれぞれ異なるのだ。つまり、5人のスナイパーは銃のクセや自分の好みに合わせて、それぞれ異なるスコープライフルに乗せていますよ……というのを、特に説明なくサラッと描写しているのである。芸がこまかい……。

狙撃の映画はいろいろあるけれど、『15ミニッツ・ウォー』もその文脈に連なる一本なのは間違いない。特に「軍隊系スナイパーではない、対テロ戦黎明期のフランススナイパーの映画」というのは相当珍しい部類だと思う。ちょっと変わった鉄砲や、スナイパーの大変さをじっくり見たいという人には特におすすめしたい作品だ。
しげる

【作品データ】
「15ミニッツ・ウォー」公式サイト
監督 フレッド・グリヴォワ
出演 アルバン・ルノワール オルガ・キュリレンコ ケヴィン・レイン ヴァンサン・ベレーズ ほか
10月11日よりロードショー

STORY
1976年フランス最後の海外領土であるジブチソマリアの国境で、スクールバスを狙ったバスジャックが発生。事態を収拾するために、国家憲兵隊のジェルヴァル大尉が指揮する5人のスナイパーチームが現地へ派遣される。