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ミウラや250GTOの開発に携わった創設者

text:Richard Lane(リチャード・レーン)
translationKenji Nakajima(中嶋健治)

 
ダラーラ社から自社初となるロードカーが登場した。このフライ級並みに軽量なマシンを理解する前に、まずはダラーラ社について触れてみたい。

ダラーラ社を率いるジャンパオロ・ダラーラの道は、ミラノ工科大学で機械工学を専攻できなかった時に決まったといえる。結果的に航空工学の道を選んだジャンパオロだが、モータースポーツには空気力学が重要だと気付いていたフェラーリへ加わる際に有利となったのだ。

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ダラーラ・ストラダーレ

ジャンパオロはフェラーリでF1マシンやスポーツ・プロトタイプの開発に関わる。さらに250GTOにも携わった後、マセラティへと移籍しティーポ63バードゲージなどを生み出す。

1963年、当時27歳だったジャンパオロはランボルギーニにヘッドハンティングされ、伝説のミウラを創出。3.9LのV12エンジンを横置きするというアイディアは、ミニのレイアウトに触発されたものだったという。ロータスを立ち上げたコーリンチャップマンには及ばずとも、ミニを生み出したアレック・イシゴニスも尊敬するエンジニアだった。

ちなみに徹底した軽量化という思想はストラダーレにも受け継がれ、乾燥重量で855kgでしかない。ジャンパオロはさらにフランク・ウィリアムズと協力してデ・トマソF1の開発に取り組み、1972年ダラーラ・アウトモビリ社(ダラーラ社)を設立する。

ダラーラ・アウトモビリ社はランチアLC1や1C2ル・マンプロトタイプなどの象徴的なクルマを生み出す。ポルシェ956を持ってしてもラップタイムでは敵わないほどの高性能を誇った。シャシー開発のリーディング企業として評価される同社だが、彼の過去は今振り返っても偉大なものだ。

フォード製の2.3L直列4気筒は400ps

現在のダラーラ社はフォーミュラ3(F3)とインディカーに注力しているが、シングルシーター・マシンのシェアは大きい。高価なプリプレグ・カーボンファイバーを市販の高性能マシンへ導入する技術力に優れ、アルミニウム製サブフレームの開発にも長けている。ストラダーレにも、その技術が惜しみなく投入されていることはいうまでもない。

ダラーラ社は培ってきた専門技術を反映した、誰もが運転できるロードカーを開発したいという野望を抱いてきた。その結果生まれたダラーラ・ストラダーレは、英国の道でも素晴らしいものだった。

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ダラーラ・ストラダーレ

シチリア島での公道レース、タルガ・フローリオが仮に復活したとして、20年先の未来からタイムスリップした参加車両のようだ、とでもいえるだろうか。ボディラインは流麗で、パネルの隙間も殆どない。ヘッドライトは怒りに満ちた形相ながら、シルエットはかつてのマセラティのマシンのようでもある。

前置きが長くなったが、ミドシップに横置きされるエンジンはティーポ63のV12ではなく、フォード製の2.3L直列4気筒。最高出力は400ps、最大トルクは50.9kg-mへと強化されている。パワーウェイトレシオはポルシェ911 GT2 RSに匹敵するが、軽量なためにブレーキはスチール製ディスクで充分だという。パワーステアリングも備わらない。

6速MTもフォード由来。40kgの重量増を嫌わなければ、ロボタイズドMTも選べる。後輪には機械式LSDが付く。テスト車両には高価なピレリPゼロ・トロフェオRタイヤを履くが、サーキット向けのタイヤを選べば、さらに凄まじいものになるだろう。

マクラーレン・セナ以上のダウンフォース

ボディの後部にはダウンフォースを最大化する、巨大なカーボンファイバー製のウイングが付く。そのかわり最高速度は280km/hから265km/hへと低下する。この状態でストラダーレは820kgものダウンフォースを発生させるという。マクラーレン・セナより利用できる表面積は小さいのに、20kgも大きいことになる。

大きなインテークと整流板がボディを包み、路上での存在感は相当なもの。全長も全幅もBMW 1シリーズより小さいのだが、実際に目の当たりにすると5シリーズ以上に大きく見えてしまう。

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ダラーラ・ストラダーレ

フロントガラスはドーム状にカーブを描き、カーボンファイバー製のボディはプロトタイプレーサーそのもの。ワイパーは中央から1本、直立した状態で止まり、まさにグループC2カー時代のレーシングマシンのようだ。

ドアはないが、幅の広いサイドシルは低い位置にあり、またいで乗り込むことはそれほど難しくない。シートの中央には「STEP HERE(ここに足を置く)」と書かれた、窪んだステップが用意されている。

ドライバーとパッセンジャー用の足元空間には余裕があるが、車内はコンパクト。露出したカーボンファイバー・タブの雰囲気を穏やかにしてくれるレザートリムが付いている。価格は15万9600ユーロ(1883万円)からとなっているが、この試乗車は23万3000ユーロ(2749万円)になるそうだ。

魔法が効いているかのような接地感

シートはタブに固定されており、快適な運転姿勢を取るにはシート左脇に隠されたレバーを引いて、ペダルボックスをスライドさせる必要がある。ステアリングホイールの直径は320mmと小ぶり。スライド量は大きい。シフトノブの位置も完璧だ。ケーターハム・セブンほどではないにしろ、運転姿勢は良好に感じた。

ダラーラ・ストラダーレは、「一般道用のダラーラ」という意味になるが、基本的にはサーキット走行が前提のクルマ。滑り止めの付いたペダルは重いが、スロットルレスポンスは鋭い。クラッチの接続ポイントはかなり手前側で狭い。

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ダラーラ・ストラダーレ

ブレーキペダルも踏み込むとすぐにディスクを噛みつき、制動力も強力。英国の国道で減速するよりも、240km/hからのブレーキングに合わせて調整されているようだ。シフトノブはフォード製のままとなる。

ダラーラ製のスポーツ・エグゾーストからは大音量の排気音が放たれ、小さなデジタルディスプレイスパルタン。多くのモノコックシャシーを持つサーキット向けのスポーツカーより、車内で感じる振動は小さい。

フロントタイヤの幅は205しかなく、歩くようなスピードでも、進み始めればステアリング操作は大変ではない。オープン状態だからすべてが生々しく伝わってくるが、カーボンファイバーの織り目は美しく、ステアリングフィールはプロっぽい。ストラダーレは、価格らしく高級マシンだと感じさせてくれる。

走り出せば魔法が効いているかのように、路面との設置感は確か。英国の荒れた舗装で難儀するかと心配していたが、まったく杞憂だった。

公道では到達できないパフォーマンス限界

スピードを上げずとも、ストラダーレのシャシーが素晴らしいことはすぐにわかる。ステアリングフィールには感嘆する。切り始めは驚くほど軽いが、タイヤの負荷が増えるほどにリニアに重さが増し、タイヤが受ける抵抗感が豊富に伝わってくる。

パワーアシストが付かないクルマは同様な感触を得ていることも多いが、平均以上の繊細さと鮮明さを持ている。ダブルウイッシュボーン式のサスペンションが屈伸しても、ステアリングへの影響も一切ない。

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ダラーラ・ストラダーレ

ダンパーは低速側と高速側で調整が可能で、衝撃の吸収性も酷いものではない。中間の硬さで設定された試乗車の場合、市街地での速度ではお尻には盛大に振動が伝わってくる。速度が増すほどに、テンションの掛かったフィルムにタブが支えられているかのように、落ち着きが出てくる。

路面と抗することなく充分な上下方向の動きを備えつつ、コーナーではボディロールを生じない。2速や3速で抜けるようなコーナーでは、目を剥くほどの強力なフロントグリップを発生。コーナリング時のクルマの一体感も驚くほどの水準にあり、フロントタイヤを一糸乱れずリアタイヤが追従していく。

ストラダーレのパフォーマンスの限界値は、公道では到達できないような高いところにある。今回の試乗でも、その一部には触れることができなかった。

ボッシュ社によるフォード製エンジンのチューニングにより、フォーカスRSからさらに鋭いレスポンスとパワーが引き出されている。一方でロータス・エキシージ・スポーツ410に搭載されたトヨタ製V6エンジンほど、メスのような鋭さにまでは至っていないと感じた。

シャシーが叶える驚異的なポテンシャル

驚異的なポテンシャルは、すべてシャシーによって与えられている。素晴らしいバランス性が凄まじいグリップ力を生み出し、リアタイヤが滑り出すまでアンダーステアは殆ど発生しない。

せっかくのシャシーを活かし切るにも、ホンダVTECのようなパワートレインを選ぶべきだったのかもしれない。トランスミッションも、さらに熱くしたホットハッチには素晴らしい質感だが、軽量なサーキット仕様としては、やや精度の面で足りていない。

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ダラーラ・ストラダーレ

だがステアリングは完璧なまでに鮮明で、ドライバーの背中を軸にクルマは向きを変える。シャシーは柔軟でありながら、想像できないほどに懐が深くポテンシャルも高い。

一部のライバルと比べると高価なことは否めないし、パワートレインの刺激も不足気味。しかし、サーキットでは最もリスペクトされるブランドの1つから誕生した革新的な1台だ。一般道で感服するまでのパフォーマンスを備えているが、サーキットで実力を証明する必要があるだろう。

ダラーラ・ストラダーレのスペック

価格:15万9600ユーロ(1883万円)
全長:4185mm
全幅:1875mm
全高:1041mm
最高速度:265km/h
0-100km/h加速:3.3秒
燃費:−
CO2排出量:−
乾燥重量:855kg
パワートレイン:直列4気筒2300ccターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:400ps/6200rpm
最大トルク:50.9kg-m/3000-6000rpm
ギアボックス:6速マニュアル


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