Credit:depositphotos

Point

■40歳代半ばの歩行速度の遅さは、多臓器系の急速な悪化や顔年齢の視覚分析と一致しており、さらに小児期の神経認知機能の測定とも関連していた

ゆっくりした歩き方をする40代の人は、就学前から脳に問題を持っていた場合が多く、老化の加速や認知症などの将来的なリスクを抱えている可能性がある

歩く速さは人それぞれ。しかし、景色を楽しむわけでもないのに異様にゆっくり歩いている人は、脳に問題を抱えているかもしれません

その事実が発覚したのは、1970年から始まったコホート研究です。対象となったのは、ニュージーランド人約900人。当時3歳児のコホート(集団)について、50年という非常に長期間に渡って健康調査が行われました。

この実験によると、中年期にゆっくり歩いている人というのは、就学前の測定で神経認知機能に問題を抱えている場合が多く、脳の容積も減少している傾向があるというのです。

もちろん非常に長期に渡る研究のため、データが完全でない場合も多く、限界のある調査であることは研究者たちも認めています。しかし、こうした事実の発見は多臓器不全や認知症など高齢化したとき発生する問題を早期の内に発見し、解決するための方法を提案できる可能性を秘めているのです。

この研究報告は、米国デューク大学の生物医学研究者のLine・J・H・Rasmussen博士を筆頭とした研究チームより発表され、10月11日付けでアメリカ医学会が発行するオープンアクセスの医学雑誌「JAMA Network Open」に掲載されています。

脳と歩行速度の関連性

Credit:pixabay

Rasmussen博士の研究チームは、900人近いニュージーランド人を3歳のときから50年近くに渡り継続観察して健康調査を実施してきました。

今回報告された内容では、45歳になった参加者の内904人の健康状態を評価しています。

これは参加者の毎日の身体機能を測定評価し、血圧から歯の健康状態まで、19種のバイオマーカーを使い加齢促進の兆候も評価しています。脳についてはMRIスキャンを行いました。

さらに参加者は小児期に神経認知能力測定などの試験も実施されており、そうした長期的調査データも考慮して評価されています。

その結果、40代半ばの歩行速度の低下が、身体機能の低下、加齢の加速に関連していることが明らかになったのです。

これは、多臓器系の急速な悪化を示すバイオマーカーの測定値と、顔年齢の視覚分析(見た目の年齢)が歩行速度の測定結果と見事に一致していたことに基づきます。

Credit: depositphotos

周りを見渡すと、「これで40歳なの?」と驚くほど若く見える人と、逆にすごく老いて見える人がいます。実はそうした見た目の変化(老化の速度)も、歩行速度と関連しているといいます。

さらに問題となるのが、中年期に歩行速度の遅い人は、幼児期に行った神経認知機能の測定が低いスコアであったということです。

また、研究開始時には脳スキャンが行われていなかったため、明確に示すことは難しいのですが、現在行った試験に基づくと歩行速度が遅い人たちは平均して脳容積、皮質厚が減少しているのだといいます。

「3歳児の認知機能検査の結果が悪いからと言って、その人が生涯に渡って問題を抱えると考えるべきではない」と研究者は語っています。こうした長期調査の結果は、中年期以降の健康的なパフォーマンスの低下要因となるものを早期に発見し、取り除いて改善するための有用なデータになるのです。

現在のところ、長期調査では過去に取られていなかったデータ(脳スキャンなど)も多く、今回の結果につながる明確な原因や要因が示されているわけではありません。

しかし、これまであまり注目して評価されていなかった中年期の歩行速度が、認知症などの問題や老化による健康問題と深く関連している可能性は高いようです。

最近はスマホを見ながらノロノロ歩く人が多いのではっきりとは分かりませんが、40歳くらいで異様にゆっくり歩いている人がいたら、それは脳を含めた健康状態に要注意な人物なのかもしれません。

「昼間の異常な眠さ」はアルツハイマーの初期症状である可能性

reference:sciencealert/ written by KAIN
ゆっくり歩く人は脳に問題が発生している可能性がある