トランプ米大統領は11日、中国当局との間で「第1段階」の通商合意に達したと発表した。双方は知的財産権問題で金融サービス分野、中国による大規模な農産物購入で合意した。中国官製メディアは同合意について冷ややかな態度を示している。一部の専門家は今回の協議に不確実性があると指摘する。

大統領は同日ホワイトハウスで、中国の劉鶴副首相とともに記者団に対して、合意したことを発表し、合意文書を作成するのに「3~5週間が必要だ」とした。また、11月チリで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で、中国の習近平国家主席と会談し、合意文書の署名を目指すとした。

中国当局は今後400億~500億ドル規模の米農産物を購入する予定のほか、人民元の為替介入などで意見を一致し、中国当局による米企業への強制技術移転問題について「大きく進展した」という。

中国側の歩み寄りに対して、米側は、15日実施予定だった2500億ドル相当の中国商品に関する関税引き上げを見送った。大統領は、双方が「直ちに」第2段階の合意を目指して協議を開始すると示した。

懐疑的な見方

一方、米プリンストン大学中国学社執行主席の陳奎徳氏は14日、米ラジオ・フリー・アジア(RFA)に対して、米中の貿易交渉の行方について「今後も多くの変化があるだろう」との見方を示した。

トランプ大統領は今回の米中協議について「ラブフェスタ(lovefest)」と称し、楽観的な態度を示した。これに対して、中国側は慎重な姿勢を保っている。

中国国営新華社通信は12日、「新たな米中通商協議が終了した。双方は農業、知的財産権人民元の為替レート、金融サービス、貿易協力関係の拡大などで実際的な進展を獲得した」と報道したが、具体的な合意内容や措置に言及せず、中国による米農産物購入拡大も触れていない。

独立系経済学者の秦偉平は、合意に関する両国の表現の違いは「それぞれの国民に送りたいメッセージが違うからだ」とした。「米政府は米国民、特に農家に対して、中国による農産物の購入という良いニュースを伝えたい。中国当局は、米中協議で成果があったとアピールし、米中通商協議の主導権は中国側にあると強調したい意図がある」

米の専門家は中国当局が400億~500億ドル規模の農産物を購入できるかに懐疑的だ。RFAによると、米中貿易戦が始まる前の2017年、中国が購入した米の農産物の規模は約240億ドルだった。今回の合意では、2017年の購入量の約2倍となっている。

ロイター通信14日付は、米金融サービス会社、INTL・FCストーンの上席アナリストの話を引用し、中国側による約500億ドルの米農産物購買は「全く無意味だ」、「実行されないだろう」、「他の面において双方が大きな進展があるかに注視しなければならない」と伝えた。

ムニューシン米財務長官は14日、米CNBCの取材に対して、米中が12月5日までに第1段階の合意に署名でなければ、1600億ドル規模に相当する中国製品の追加関税引き上げを予定通りに発動すると警告した。

一時停戦

陳奎徳氏は、「米中両国は貿易交渉に関して何らかの進捗を得たいという思惑で一致している」との認識を示した。トランプ米大統領は現在、国内で自身の弾劾に直面しているほか、米中貿易戦で米企業や農家からの圧力を受けている。中国当局は、日増しに悪化している香港情勢に途方に暮れる。

貿易戦の激化で、中国の9月貿易統計は振るわなかった。中国税関総署が14日発表した統計では、9月中国の対米輸出額が前年同月比22%減少した。8月の16%減と比べて、一段と失速した。

陳奎徳氏は、今月開かれる中国共産党の重要会議である四中全会(第19期中央委員会第4回全体会議)が、中国側が今回の交渉で米側に一定の譲歩を行った原因であるとの見方を示した。

陳氏は、「習近平国家主席がこの会議で党内各派閥に対して、米中通商協議についてある程度の成果を見せたい。今回の合意は第1段階であるが、習氏は少しほっとしているだろう」と述べた。

新唐人テレビコメンテーター、蕭茗氏は14日Youtubeに投稿した政治評論動画で、米トランプ政権が中国当局の「時間稼ぎ」と「騙し」戦略に警戒するよう呼び掛けた。今回の第1段階合意では、米中貿易不均衡をもたらした根本問題である「中国の構造的改革」について交渉の進展がなかったからだ。

ブルームバーグは15日、中国政府は、米国が報復関税を撤廃しなければ、年間500億ドル規模の米国産農産品の輸入は困難になるとみていると、報じた。

(翻訳編集・張哲)

10月11日、トランプ米大統領はホワイトハウスで米中通商協議に出席した中国の劉鶴副首相らと会談した(Win McNamee/Getty Images)