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連続テレビ小説「スカーレット」 
NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~

『連続テレビ小説 スカーレット Part1 (1)』 (NHKドラマ・ガイド)

第3週「ビバ!大阪新生活」14回(10月15日・火 放送 演出・中島由貴
12回が12回中最高視聴率、13回が最低と急降下。合わせてドラマも、喜美子が就職先で大喜びしたのも束の間、奈落の底に突き落とされるような展開に。
女中の大先輩・大久保(三林京子)に、女中はつとまらないと言われ、信楽に帰されることになる。

なにがいけなかったといって、まず、若過ぎて仕事ができないだろうと思われる。この展開を描くなら、ここまでを川島夕空にやらせると説得力があったかもしれない。戸田恵梨香はしっかり者に見えてしまい、若すぎて仕事が無理というようにはどうにも見えにくい。

ただ、部屋のふすまをぶち破って、隣室の新聞記者・庵堂ちや子(水野美紀)を起こしてしまったことは明らかに咎めポイントとなった。こういう幼稚さが仕事に不要だという厳しい査定である。

役のためなら汚れもいとわない
この場面で、喜美子とちや子が向き合って、心の声をナレーション・中條誠子が語る。
鼻の下に鼻くそ? と思ったらハエだったというのを心の声で。今回はナレーションがオーソドックスと思ったら、そうでもなかった。それがまた淡々とやるものだから、ちょっと面白さがわかりにくかったかも。戸田恵梨香水野美紀の表情はとっても良かった。役のためなら汚れもいとわない俳優同士である。

それにしたって、まだ何も仕事してないのに、見た目とうっかりした行動で判断されてもなあ……と喜美子に同情するが、常治が無理やり頼んだことで、さだ(羽野晶紀)も大久保にも喜美子を雇うことにもともと積極的ではなかったのだろう。
おわびの手紙とお金をくれるだけまし。あとおいしい食事も。
悲しいと美味しいが並んで最後おいしいが買ってしまうというのは共感できた。

お皿クイズ
家でも十分働いてきたし、一生懸命やりますと粘る喜美子に、大久保は、三枚のお皿を例にして説教する。
家族のために磨く一枚、仕事だから磨く一枚、何のためでもなくただ一生懸命磨く一枚。
最後の一枚と喜美子が答えると、静かなクイズミリオネア的な感じでじわじわと引っ張って、その結果――
みな同じという答だった。
この独特のイケズな感じは、このドラマで、まず視聴者に、ん ?と思わせた翌日、答えをさらっと出してくる感じに近い。「半分、青い。」にもそれがあった。「カーネーション」のガイド本で、脚本家の水橋文美江がデビューしたときは、ドラマチックに見せようとしてあざとい手法が求められたが、いまは違うというようなことを述べているが、ここはその名残なのかもしれないと感じる。朝ドラ名物、翌日解決とはまたちょっと違う、意外性はほしい、でもやりすぎたらいけないから、やんわり梯子を外してみる、この遠慮がちに忍ばす感じが繰り返されると、うまくすればクセになるが、人によってはモヤモヤになる可能性もある。でもまだはじまったばかりなので様子を見たい。

お母ちゃんとお父ちゃん
大久保は、家で働いて身内に褒められることと、社会に出て認められることの違いを説く。15歳の少女にそんなこと…と思うが、この人もそうやって厳しい状況で生きてきたのだろう。
その言葉が、そっくり、母(富田靖子)からの手紙にある。
母も近所の人たちも、これまでの喜美子のがんばりを見てくれて応援してくれていたが、それじゃダメだと大久保に言われたばかりなのだ。
母は、お父ちゃんから預かった、洗っていない汗臭い手ぬぐいを、喜美子の荷物に忍ばせていた。
「臭そうて腹たつさかい、負けるもんかと思うはずやって。ほんまやろか」
このセリフは富田靖子の読み方も手伝って、響くものがあった。
このときもまた、画面が赤系の色味になっている。
「くっさ!ああ…臭い 臭い〜」と手ぬぐいかぎながら泣く喜美子。
臭い手ぬぐいによって異臭騒ぎが起こったことで喜美子がクビになる展開でなくてほんとうによかった。
ほかの荷物に匂いが染み付いてないか心配になるが。

それにしても、鼻の下にハエを止まらせた水野美紀、臭い手ぬぐいをかぐ(演技とはいえ)戸田恵梨香
体を張っているなあ!
(木俣冬 タイトルデザイン/まつもとりえこ)

登場人物のまとめ
●川原家
川原喜美子…戸田恵梨香 幼少期 川島夕空  主人公。空襲のとき妹の手を離してトラウマにしてしまったことを引きずっている。 絵がうまく金賞をとるほどの腕前。勉強もできる。とくに数学。学校の先生には進学を進められるが中学卒業後、就職する。
川原常治…北村一輝 戦争や商売の失敗で何もかも失い、大阪から信楽にやってきた。気のいい家長だが、酒好きで、借金もある。にもかかわらず人助けをしてしまうお人好し。運送業を営んでいるらしい。
川原マツ…富田靖子 地主の娘だったがなぜか常治と結婚。体が弱いらしく家事を喜美子の手伝いに頼っている。あまり子供の教育に熱心には見えない。
川原直子…桜庭ななみ 幼少期 やくわなつみ→安原琉那 川原家次女 空襲でこわい目にあってPTSDに苦しんでいる。それを理由にわがまま放題。
川原百合子福田麻由子 幼少期 稲垣来泉 

●熊谷家
熊谷照子…大島優子 幼少期 横溝菜帆 信楽の大きな窯元の娘。「友達になってあげてもいい」が口癖で喜美子にやたら構う。兄が学徒動員で戦死しているため、家業を継がないといけない。婦人警官になりたかったが諦めた。
熊谷秀男…阪田マサノブ  信楽で最も大きな「丸熊陶業」の社長。
熊谷和歌子… 未知やすえ 照子の母

●大野家
大野信作…林遣都 幼少期 中村謙心 喜美子の同級生 体が弱い。
大野忠信…マギー 大野雑貨店の店主。信作の父。戦争時、常治に助けられてその恩返しに、信楽に川原一家を呼んでなにかと世話する。
大野陽子…財前直見 信作の母。川原一家に目をかける。

●滋賀で出会った人たち
慶乃川善…村上ショージ 丸熊陶業の陶工。陶芸家を目指していたが諦めて引退し草津へ引っ越す。喜美子に作品を
「ゴミ」扱いされる。
草間宗一郎…佐藤隆太 大阪の闇市で常治に拾われる謎の旅人。医者の見立てでは「心に栄養が足りない」。戦時中は満州にいた。帰国の際、離れ離れになってしまった妻の行方を探している。喜美子に柔道を教える。
工藤…福田転球  大阪から来た借金取り。  幼い子どもがいる。
本木…武蔵 大阪から来た借金取り。

●大阪 荒木荘
荒木さだ…羽野晶紀 荒木荘の大家。下着デザイナーでもある。マツの遠縁。
大久保のぶ子…三林京子 荒木荘の女中を長らく務めていた。喜美子を雇うことに反対する。
酒田圭介…溝端淳平 荒木荘の下宿人で、医学生。
庵堂ちや子…水野美紀 荒木荘の下宿人。新聞記者で不規則な生活をしていて、部屋も散らかっている。


あらすじ
昭和22年 喜美子9歳  家族で大阪から信楽に引っ越してくる。信楽焼と出会う。
昭和28年 喜美子15歳 中学を卒業し、大阪に就職する。

脚本:水橋文美江
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
音楽:冬野ユミ
キャスト: 戸田恵梨香北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ福田麻由子佐藤隆太大島優子、林 遣都、財前直見、水野美紀溝端淳平ほか
語り:中條誠子アナウンサー
主題歌:Superflyフレア
制作統括:内田ゆき
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