「陸上界最速」といわれるチーターですが、そんなチーターを上回る高速のランナーが現れました。
ドイツ・ウルム大学の研究チームにより、サハラ砂漠北部に生息する「サハラ・シルバーアント(学名:ataglyphis bombycina)」こそ、陸上界最速であることが判明したのです。
このアリは、なんと1秒間に1mを駆け抜けるとのこと。
詳しい研究内容は、10月16日付けで「Journal of Experimental Biology」に掲載されました。
https://jeb.biologists.org/content/222/20/jeb198705
速すぎて足が宙に浮く⁈
シルバーアントは速く走るほど、空中に浮くようなギャロップ走行になり、一度に6本の足すべてが地面から離れるそう。最速時では、自身の体長の108倍の距離を1秒以内で駆け抜けます。
この凄さは人で考えると理解しやすいでしょう。
現在の日本人男性の平均身長は171.5cmなので、もしシルバーアントのスピードで走れるとすれば、私たちは1秒間で185.22mを走破できることになります。
シルバーアントをハイスピードカメラで撮影した実験によると、アリは47歩で秒速85.5cmを記録しました。
研究主任のサラ・プファー氏は「彼らのストライド(歩数)は、人類最速であるウサイン・ボルトの10倍を軽く超える」と指摘します。
アリが高速になった原因は「砂漠」にあり?
チーターにも勝る高速へと進化した理由は、生息環境にあります。それを理解するために、まずは砂漠の熱さについて説明しましょう。
乾燥地帯であるサハラ砂漠は1日の気温差が激しく、日中は灼熱地獄と化し、反対に夜間は凍えるように寒くなります。これは砂漠に水分がなく、「比熱」が小さいためです。
比熱とは、物質1グラムを1度上げるために必要な熱量のことで、固体では比熱が小さく、逆に液体は比熱が大きくなります。
地面に水分があると、昼は地表に当たる太陽光の熱を吸収して涼しくなり、夜は水分が熱を放出して比較的暖かい状態を保ちます。しかし、砂漠は水分が少ないので、太陽熱がそのまま地表に反映され、逆に夜は熱を留める水分がないため、極端に冷え込むのです。
要するに、砂漠はフライパンと一緒で、「熱しやすく冷めやすい環境」と言えます。実は、この環境こそが、シルバーアントを陸上最速の生物に進化させているのです。
「焼け石の上を駆け抜けるように走れ」
陸上を題材にした名作映画『炎のランナー』に、「焼け石の上を駆け抜けるように走れ」という言葉が登場しますが、まさにシルバーアントはこの教えに忠実です。
焼け付くようなサハラ砂漠では、ほとんどの生物が日中に外出しようとしません。大抵が日陰か巣の中で過ごし、夜になると外へ出て食料を探します。
ところがシルバーアントにとっては、天敵がいない昼間こそ食料採集のチャンスです。砂漠が最高に熱い状態のときに、巣の中から飛び出て、炎天下により運なく命を落とした生物の死骸をゲットします。
天敵に遭遇するリスクよりも日中に外出する方を選びましたが、それでも砂漠が灼熱地獄であることに変わりありません。そこで彼らは地面になるべく触れないよう、高速で足を動かすことで宙に浮くような走法を体得したのです。
他にもシルバーアントの体表は銀色の体毛で覆われており、これが太陽熱を反射する役割を果たします。このコーティングにより、摂氏60度前後までなら耐えられるそうです。
灼熱が生んだ陸上最速の生物シルバーアント、彼らこそ真の意味で「炎のランナー」と呼べるでしょう。
文中に一部誤りがあったため、修正して再送いたします。
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