動物専門の医師である「獣医師」。病気やけがを抱えたペットの診療を行うだけではなく、食肉の安全性検査をしたり、野生動物の保護や管理を行ったりと、仕事はさまざまです。今回は、クロス動物医療センター葛西の行光基さん、石嶋俊輔さんのお二人に、動物病院で働く獣医師のお仕事内容や魅力などを伺いました。

ペットの病気やけがの治療には、飼い主様と獣医師との連携が不可欠

Q1. 仕事概要と一日のスケジュールを教えてください。
 
石嶋:基本としては、来院するペットの診察や定期健診をします。その上で、必要であれば治療を行ったり、入院しているペットの管理をしたりしています。また、飼い主様と適切なコミュニケーションをとるのも大切な仕事です。というのも、ペットを治すには飼い主様と獣医師との連携が不可欠だからです。

病気を特定するためには飼い主様にペットの症状を詳しくお話していただく必要がありますし、最善の治療をご提供するためには「どんな治療をどこまで続けていくべきか」を獣医師から飼い主様へきちんとご説明して、飼い主様にご納得していただかなければなりません。そのため、獣医師には、話を聞く力とわかりやすく伝える力の両方が求められます。

<一日のスケジュール>
08:30 出勤、朝礼
入院しているペットの管理
09:00 午前中の診察スタート 
外来診察や手術など
12:00 休憩
16:00 午後の診療スタート
外来診察や手術など
20:00 診察終了
入院中のペットの管理
20:30 帰宅
 
 
Q2. 仕事の楽しさ・やりがいは何ですか?

石嶋:ペットが回復して元気になったり、飼い主様に「ありがとう!」と笑顔で仰っていただけたりすることが一番です。また、以前治療した子が予防接種などで再度来院したときに、元気で幸せそうに過ごしているのを見るとすごくうれしいですね。
 
行光:私は獣医師でありながら病院の経営にも携わっているので、スタッフみんなが笑顔で楽しく、そしてやりがいを持って働けているとうれしいですね。スタッフの高いモチベーションや病院内の良い雰囲気は、飼い主様の安心感にもつながります。


Q3. 仕事で大変なこと・つらいと感じることはありますか?

行光:肉体的・体力的に大変なことですが、大型犬の保定(治療中にペットをおさえること)は大変ですね。女性が多い職場ですので、そういったケースでは男性の力が必要になることもあり、体力を使います。

石嶋:私がつらいと感じるのは、どんなに手を尽くしても助からないペットもいることです。急患で来たけれど亡くなってしまうこともあれば、ガンが既に全身に広がっており、治すのではなく、痛みや苦しみを和らげるための緩和ケアしか道が残されていないケースもあります。獣医師には、このような現実も受け止めて誠実にペットの命と向き合う覚悟が必要です。

高校時代に培った「諦めない力」「学び続ける力」が生きている

Q4. どのようなきっかけ・経緯でその仕事に就きましたか?
 
行光:昔から犬を飼っていたこともあり、動物の体や医学に興味がありました。そこで獣医師を目指すことに決めたのですが、高校3年生の夏までは部活一筋だったので引退後に必死で勉強し、獣医学部に進学しました。

大学卒業後は外資系製薬会社に入社し、動物用医薬品の営業として2,000件以上の動物病院を回っていたのですが、動物医療現場のさまざまな課題を目の当たりにして「動物業界をもっと良くしていきたい」と強く思いました。これをきっかけに、クロス動物医療センターグループの立ち上げに携わりました。

石嶋:私も昔から犬を飼っていて、犬の散歩中に他の飼い主様やペットと仲良くなったことで「ペットや飼い主様の幸せを守れる仕事に就きたい」と思うようになりました。そこで大学の獣医学部に進学し、卒業後は獣医師として神奈川県の動物病院に就職しました。その病院で勤務しつつ、別の病院での夜間救急医療に携わったり、大学病院の研修も行きながら、4年ほど働いたりしたところでクロス動物医療センターグループへ転職しました。


Q5. 大学では何を学びましたか?
 
石嶋:小動物診療のための知識や技術に加え、大動物の診療や生物学、公衆衛生学など幅広く学びました。獣医師はさまざまな分野で活動しているので、どの分野でも働けるようにまずは全般的に勉強する必要があります。その後、特定の分野を深く学ぶ「研究室」に所属するのですが、僕は小動物診療に携わりたかったので、外科の研究室に入って付属の大学病院で見習いとして診療の手伝いをしていました。

行光:獣医学の勉強に加え、バイトにも励んで社会勉強もしていました。獣医業界しか知らないと視野が狭くなってしまうと感じ、いろいろな業界を見ておきたいと思ったからです。飲食業や引っ越し業など10種類以上のバイトを経験し、知人と一緒にサービス業の立ち上げにも挑戦しました。そのときに出会った人とは今でも交流があり、良い刺激をもらっています。


Q6. 高校生のときの経験が、現在の仕事につながっていると感じることはありますか?
 
行光:アメフト部活動を通して培った「諦めない気持ち」が生きています。何事も諦めたらその時点で終わりですし、どんなに難しい局面でも自分がポジティブな発言をすれば、周囲にも良い影響を与えられます。仕事にも人生にも役立つ力を身に付けられたと思います。

石嶋:私の場合は、獣医学部へ入るために勉強を頑張っていた経験が役立っています。獣医師には、最新の獣医学を日々「学び続ける力」が必要ですから。

使命感を持てる人・コミュニケーション能力がある人が向いている

Q7. どういう人がその仕事に向いていると思いますか?
 
行光:「自分がこの動物を治す」という強い使命感を持てる人です。これは獣医師が動物を治せる唯一の国家資格であるという背景があります。あとは、人と上手にコミュニケーションがとれる人。なかには高圧的な態度で飼い主様やスタッフに接する獣医師もいますが、そのような獣医師は、飼い主様からもスタッフからも避けられてしまいますので、良い関係性が築けません。自分自身を常に高めながら相手を思いやる「人間力」が求められる仕事だと思います。
 

Q8. 高校生に向けたメッセージをお願いします。
 
石嶋:学校で学ぶことは、一つも無駄にはなりません。生物・化学はもちろん海外の資料を読むためには英語も必要ですし、論理的に話すには国語も重要です。栄養面でペットの健康を支えるためには家庭科も必要です。学校の授業は将来につながっているので、しっかり取り組むと良いでしょう。また、得意なことを見つけて飽きずにとことんやってみたという経験も、将来必ず役立ちます。

行光:獣医師には知識・技術はもちろん、飼い主様の気持ちに寄り添うことやスタッフと良いチームワークを築くことも求められます。多くの人と接して会話術を身に付けたり、部活でも学園祭でもなんでも良いので皆で一丸となって頑張る経験をしてみてください。勉強だけでなく、学生時代にしか経験できないことにもぜひチャレンジしてみてください!
 

獣医師は命を扱う仕事である以上、時に悲しい現実にも直面します。しかし、ペットの命を助けられたときに得られる喜びや感動は、何物にも代えられません。動物の健康と幸せを守りたいという人はもちろん、大きなやりがいを感じたい人にもぴったりの仕事ではないでしょうか。
 
 
profile】クロス動物医療センター葛西 行光基、石嶋俊輔