数学日本一を決める「数学甲子園2019(第12回全国数学選手権大会)」の本選が2019年9月15日(日)に東京都内の会場で開催されました。優勝したのは神奈川県の栄光学園高等学校「朝食会のToastチーム」。昨年に続く2連覇を成し遂げたチームメンバーに、強さの秘訣を伺いました。

数学力・創作力・プレゼンテーション力など総合力が試される大会

「数学甲子園」は中・高・高専生が一同に会して、チーム対抗で数学力を競う大会。全国の数学の猛者たちが集まります。予選を経て本選に進んだのは36チーム。本選は、課題に沿って自分たちで数学の問題を作る【Math Create】、チーム全員で数学の問題に解答する【Math Battle】、Math Createで創作した問題のプレゼンテーション・質疑応答を行う【Math Live】の3つの総合得点で競われます。

Math Createでプレゼンを行う永野君
Math Createでプレゼンを行う永野君

【Math Create】の今年の課題は「軌跡」。優勝した栄光学園高等学校「朝食会のToastチーム」は、「転がす」という身近な軌跡をテーマにした問題を作り、見事なチームワークを見せて2連覇を成し遂げました。昨年優勝した際は本選に参加できなかったメンバーがいたため、「彼のためにも、もう一度金メダルを」という思いで一致団結していたそうです。優勝チームの皆さんにお話を伺いました。

2連覇はチーム全員で頑張った結果

―― 優勝された感想をお聞かせください

永野(リーダー):去年の大会では竹中くんが本選に出場できなかったので、彼のためにも「来年も金メダルを」と言いましたが、有言実行できてうれしい限りです。去年は優勝したものの、【Math Create】【Math Battle】【Math Live】それぞれで1位を獲ることができず、悔しい思いが残りましたが、今年は【Math Live】で1位、その他も2位を獲ることができました。チーム全員でがんばれたのが良かったです。

兼下:去年は「優勝できちゃった」という感じで、今年も優勝できたらラッキーくらいに思っていたのですが、2連覇を目指して頑張っていたのでうれしいです。

竹中:素直に驚いています。みんなが僕にも金メダルを、と言ってくれるのはありがたかったし、獲りたいとも思っていましたが、大会って運要素もありますし、2連覇の難しさも他の大会で味わったことがあるので……。楽しめればいいかなと思っていたら優勝してしまってびっくりです。

丹羽:僕は【Math Battle】ではあまり振るわなくて。その分、【Math Live】では、聴衆の皆さんに「すごいぞ」と思わせるような言葉の使い方を工夫するなど、アピール面を意識しました。【Math Live】1位という結果にわずかでも貢献できたなら良かったです。

野田:僕はそんなに驚いてないんです。というのも、丹羽くんが案を出した今回の【Math Create】の問題は、結構よくできた問題だったので(笑)。問題を見せてもらった瞬間に、これはいけるなと思いました。メンバーの数学力の高さも信頼していましたから。でも……やっぱり素直にうれしいですね。


―― 優勝できた一番の要因は何だと思いますか?

永野:総合得点が2位とわずか8点差でしたので、ほんのちょっとの努力の積み重ねが点差につながったのかなと思います。私が一番力を入れたのは【Math Live】。去年は私1人だけしゃべってしまったので、今年はみんなが発言できるよう分担しました。丹羽くんの考えてくれた問題は非常に素晴らしくて、質疑応答の対策も立てやすかったのが良かったです。

兼下:僕はあまり役に立てなかったと思いますが、【Math Battle】で凡ミスした箇所に制限時間ギリギリで気づいて、答案を書き直せたことが良かったなと思っています。もともとは自分のミスなので、それを勝因と言ったらダメなのですが(笑)。

永野:でも、気づかなければ優勝を逃していたと思うので大きいです。去年も兼下くんが確認作業をいろいろやってくれたおかげで優勝することができました。

竹中:最後の【Math Live】がうまくいったことかなと思います。僕はプレゼンがあまり得意じゃないのですが、永野くんが段取りを具体的に決めてくれたおかげで、話の構成が作りやすかったし、大きな失敗をせずに話すことができました。

丹羽:【Math Create】の問題を作るとき、竹中くんも良い案を出してくれていたのですが、直感で「ここは主張したほうがいい」という自分の声が聞こえたので、主張させてもらいました。結果優勝できたので、思い切って意見を通して良かったのかなと思いました。

野田:【Math Battle】では統計の問題も出るのですが、メンバーの誰も対策をしていなくて、直前に僕が担当することになってしまい困っていました。そしたら隣にいた兼下くんが解いてくれて。多分正解していたと思うので、あれが一番の勝因だったなと思います(笑)。

それぞれの努力や工夫が実った

―― 大会に向けて、どのような準備をされましたか?

永野:個人個人では準備していたと思いますが、チーム全体では【Math Create】のときに各自作った問題を持ち寄ったことと、本選の前日に【Math Live】の練習をしたことくらいです。個人的には【Math Live】の練習は1人でもやっていて、その練習をもとにみんなに細かく指示を伝えることができたので、【Math Live】で1位を獲れたことは本当にうれしかったです。

丹羽:【Math Battle】では英語表記問題もあり、英語が得意な僕が主に担当したのですが、数学の専門用語は分からなかったので、前日の夜に30個くらい付け焼き刃で覚えました……。

竹中:予選前日には、みんなで卓球をしてモチベーションを高めたりもしました(笑)。

野田:僕らはクラスも部活もみんな一緒というわけではないのですが、僕と兼下くんが卓球部ということもあり、卓球台の周りに集まることも多いんです。

―― この大会では、数学の問題を解くだけでなく「作る」ことも競技内容の一つでしたが、問題作りは普段から行っていたんでしょうか?

永野:私は高校では物理部数学班に所属しているので、以前はよく作っていました。

竹中:意識して作ったことはないですが、たまたま「この発想いいんじゃない?」と思いついて作ることはありました。今回僕が出した案は「軌跡」という課題にはちょっとあてはまらないなと思い、丹羽くんの案で行くことになりました。

丹羽:僕は今回の【Math Create】で作った問題が、人生で初めて作った数学の問題と言っていいかもしれません。問題の発想を思いついたのは去年のことです。この大会に出たことでインスパイアされたのかもしれません。その発想が今年の課題にちょうどはまったので、主張させてもらったという経緯です。

数学力を生かして、それぞれの「好き」な方面に

―― 今後の進路について、現在考えていることはありますか?

永野:私はずっと数学の沼に浸っていたような人間ですので、今さらそこから出るわけにもいきません。数学をいろいろなことに用いていきたいですね。特に「束論」という分野に取り組んでいるので、その方面で活躍できるといいなと思っています。

兼下:僕は去年の優勝インタビューでは「数学の先生」と答えていたのですが、自分の本当の夢って何だろう?とよくよく考えてみたときに思ったのが、「テレビゲームが好き」ということでした。数学の力をゲームプログラミングに生かし、将来はゲームをつくる職業に就けたらいいなと思います。数学はレベルが上がるほど抽象的になっていきますが、ゴールが明確な仕事のほうが自分には向いていると思うので。

竹中:僕はもともと物理が好きで得意なタイプなので、将来は生物理系の研究をしたいなと思っています。数学はその過程で、道具として使うことで生かしていきたいなと思っています。

丹羽:天に任せたいと思います。数学や物理はかなり好きなのですが、知能不足を感じるので。自分の強みはマインドの持ち方だと思っています。しつこい性格なので、どの分野であれ、何かしら自分のベストを尽くしていければ何とかなるんじゃないかなと。端的に言うと迷い中です(笑)。

野田:竹中くんと似ているんですけど、数学というより理科が好きなので、将来は理科の研究ができたらいいなと思っています。何であれ、やっていて楽しいと思えることが一番だなと思います。



誰かが謙遜したコメントをすると、他のメンバーがすかさず賞賛のコメントでフォローするという、お互いへのリスペクトにあふれる素敵なチームでした。数学というフィールドで、仲間と一つの目標に向かって戦う経験ができるこの大会。興味をもった人はぜひ来年チャレンジしてみてはいかがでしょうか?


profile】栄光学園高等学校
永野寛(3年)、兼下航輔(3年)、竹中涼(3年)、丹羽亮太朗(3年)、野田源文(3年)

数学甲子園
https://www.su-gaku.net/events/koshien/