(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)
連続テレビ小説「スカーレット」 
NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~


『連続テレビ小説 スカーレット Part1 (1)』 (NHKドラマ・ガイド)
第3週「ビバ!大阪新生活」15回(10月16日・水 放送 演出・中島由貴
朝ドラ名物、翌日解決。出ました。
大阪に来て早々、女中の大先輩・大久保(三林京子)にダメ出しされて、信楽に帰されることになる喜美子だったが、
父・常治(北村一輝)の汗の匂いの染み付いた手ぬぐいを嗅いで(14回)、翌朝、敗者復活戦に挑もうと、出勤してきたばかりの大久保や起きたばかりの荒木(羽野晶紀)、再試験の勉強で起きていたらしい圭介(溝端淳平)、朝帰りのちや子(水野美紀)に話を聞いてほしいと粘る(15回)。

席を立つ大久保だったが
草間(佐藤隆太)に習った柔道の心得にのっとって相手をうやまうところからはじめる喜美子。
大久保の仕事を敬う。家の中の仕事は誰でもできると大久保は言うが、そんなことない、この人だからできるすばらしい仕事だと言われるようにしたいと述べる。
あほらしと、席を立つ大久保だったが、急須と湯呑がそのままになっていることに気づく圭介。
大久保なりの、やってみろという返事なのであろう。喜美子の話に少し心を動かされているような表情を三林がしていたことにも注目したい。
こうして喜美子の最初の仕事は、お茶(濃いめの)を煎れることとなった。

「究極の働き女子問題」も解決
2018年12月3日、「スカーレット」のヒロインが戸田恵梨香に決まったと発表されたとき、今回のヒロインは「究極の働き女子」と謳ったところ、専業主婦差別ではないか、専業主婦だって働いていると物議を醸した。あれから10ヶ月、ドラマの中で、家の中のことをやる仕事に敬意を払い、子供を育て姑のお世話もしながら女中をしてきた大久保も究極の働き女子であることを描いたといえるだろう。そこに喜美子が(すごいと言ってもらうように)「戦う」という言葉を使ってしまうところが、柔道とはいえ、仕事を勝負と考える旧来の考え方がこびりついているように思えてならないが、いちいちくじら立ててもせんないので、気楽に見たいと思う。

溝端淳平の笑顔がまぶしすぎる
大久保の行為に気づく圭介を演じる溝端淳平の表情がいい。この人、目がとても大きいので、感情がはっきり目に出てわかりやすいのと、なにより利発そうな顔だちで、じつに感じよいのである。大久保も圭介が隣にいてにこっとするから頑なな心がほぐれている感じ。こういうの、プロ彼女じゃなくてなんていうのだろう、プロ下宿人? 

その後、もうひとりの下宿人田中雄太郎(木本武宏)の応対に喜美子が大喜びしたとき、背後で笑っているときも、じつにいい笑顔。何を食べたらこんなに嫌味のまったくない顔になれるのか、朝、溝端淳平の笑顔を観ると気分がよくなること請け合い。この自家発電するお顔こそ理想の朝ドラヒロインだろう。インタビューするとやんちゃでガッツもある人だという印象を受けるが、この唯一無二の爽やかさはいつまでも保ってほしい。寝間着の浴衣もなかなか眼福であった。

猫が
目下、溝端淳平と並ぶ癒やしの存在がいる。
猫だ。
朝ドラ名物に、声だけ聞こえて姿の見えない猫がある。住宅街の雰囲気を出すために、音響で猫の声を入れることがよくあるが、わざわざ猫を借りるのが大変なので、実物が出てくることは滅多にない。出てきても「半分、青い。」のミレーヌみたいに途中から出なくなってしまう。それが今回はセットに美猫をうろつかせていて、猫好きにはたまらない。
溝端淳平と猫で、いい朝を迎えている。
(木俣冬 タイトルデザイン/まつもとりえこ)

登場人物のまとめ
●川原家
川原喜美子…戸田恵梨香 幼少期 川島夕空  主人公。空襲のとき妹の手を離してトラウマにしてしまったことを引きずっている。 絵がうまく金賞をとるほどの腕前。勉強もできる。とくに数学。学校の先生には進学を進められるが中学卒業後、就職する。
川原常治…北村一輝 戦争や商売の失敗で何もかも失い、大阪から信楽にやってきた。気のいい家長だが、酒好きで、借金もある。にもかかわらず人助けをしてしまうお人好し。運送業を営んでいるらしい。
川原マツ…富田靖子 地主の娘だったがなぜか常治と結婚。体が弱いらしく家事を喜美子の手伝いに頼っている。あまり子供の教育に熱心には見えない。
川原直子…桜庭ななみ 幼少期 やくわなつみ→安原琉那 川原家次女 空襲でこわい目にあってPTSDに苦しんでいる。それを理由にわがまま放題。
川原百合子福田麻由子 幼少期 稲垣来泉 

●熊谷家
熊谷照子…大島優子 幼少期 横溝菜帆 信楽の大きな窯元の娘。「友達になってあげてもいい」が口癖で喜美子にやたら構う。兄が学徒動員で戦死しているため、家業を継がないといけない。婦人警官になりたかったが諦めた。
熊谷秀男…阪田マサノブ  信楽で最も大きな「丸熊陶業」の社長。
熊谷和歌子… 未知やすえ 照子の母

●大野家
大野信作…林遣都 幼少期 中村謙心 喜美子の同級生 体が弱い。
大野忠信…マギー 大野雑貨店の店主。信作の父。戦争時、常治に助けられてその恩返しに、信楽に川原一家を呼んでなにかと世話する。
大野陽子…財前直見 信作の母。川原一家に目をかける。

●滋賀で出会った人たち
慶乃川善…村上ショージ 丸熊陶業の陶工。陶芸家を目指していたが諦めて引退し草津へ引っ越す。喜美子に作品を
「ゴミ」扱いされる。
草間宗一郎…佐藤隆太 大阪の闇市で常治に拾われる謎の旅人。医者の見立てでは「心に栄養が足りない」。戦時中は満州にいた。帰国の際、離れ離れになってしまった妻の行方を探している。喜美子に柔道を教える。
工藤…福田転球  大阪から来た借金取り。  幼い子どもがいる。
本木…武蔵 大阪から来た借金取り。

●大阪 荒木荘
荒木さだ…羽野晶紀 荒木荘の大家。下着デザイナーでもある。マツの遠縁。
大久保のぶ子…三林京子 荒木荘の女中を長らく務めていた。喜美子を雇うことに反対する。
酒田圭介…溝端淳平 荒木荘の下宿人で、医学生。
庵堂ちや子…水野美紀 荒木荘の下宿人。新聞記者で不規則な生活をしていて、部屋も散らかっている。
田中雄太郎…木本武宏 荒木荘の下宿人。市役所をやめて引きこもり中。
静 マスター…オール阪神 喫茶店マスター。静を休業し、新装開店する予定らしい。

あらすじ
昭和22年 喜美子9歳  家族で大阪から信楽に引っ越してくる。信楽焼と出会う。
昭和28年 喜美子15歳 中学を卒業し、大阪に就職する。

脚本:水橋文美江
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
音楽:冬野ユミ
キャスト: 戸田恵梨香北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ福田麻由子佐藤隆太大島優子、林 遣都、財前直見、水野美紀溝端淳平ほか
語り:中條誠子アナウンサー
主題歌:Superflyフレア
制作統括:内田ゆき