ベーコンが、脂を弾ませながら色よく焼けていく。
十分な量の温まったバターに、うやうやしく落とされる黄色い溶き卵。
半熟とろとろにすることを見越して、ゴムベラで優しく集められていく。
メレンゲ状のパンケーキのタネが、フライパンにぽってりと落とされる。
色むらなく焼けたパンケーキには、切った断面の美しいバナナ。
その断面をメープルシロップが滑り降り、パンケーキに染みこんでいく。

「これが、夢に見た、理想の朝ごはん

10月10日(木)にスタートした木ドラ25『新米姉妹のふたりごはん』テレビ東京)。冒頭から、主人公・サチ(山田杏奈)の理想の朝ごはんをたっぷりと映した。

フライパン上で油が跳ねる音や溶き卵の流れ落ちる音など、耳がゾワッとするほど料理中の音が強調されている。YouTube動画で人気のコンテンツ「ASMRAutonomous Sensory Meridian Response)動画」を思い出す。フェチ心をくすぐってくる演出に、始まって1分でグッと目も耳も奪われてしまう。

生ハムを削ぎだすときの音はまさに「ジ…ッ」
新米姉妹のふたりごはん』の原作は、柊ゆたかが描く同名漫画だ。両親の再婚で突然「姉妹」になった高校生・サチとあやり。食べることが大好きなサチと、不愛想だけど料理のときにはイキイキするあやりが、二人で食べるご飯を通して距離を縮めていく。

サチを演じるのは、映画『ミスミソウ』(2018年)やドラマ『幸色のワンルーム』(朝日放送テレビ)で主演を務めていた山田杏奈。あやりは、ドラマ『チア☆ダン』(TBS系)、『あなたの番です』(日本テレビ系)や、『王様のブランチ』(TBS系)でも活躍している大友花恋が演じている。

ドラマの第1話は、原作の1話と同じ「生ハムサンド」を取り上げた。脚本は関えり香、監督は守屋健太郎だ。

仕事で海外に行ってしまった両親が、サチとあやりのもとに引っ越し祝いを送ってくる。サチは、何が入っているのかわからない大きな木箱に興味が持てない。それよりも、無愛想で常に怒っているようにみえる妹・あやりに、どう接したら良いかのほうが気がかりだ。

あやりのほうは、その箱を開けると堰を切ったようにサチに話し出す。

あやり「これは……、ハモンセラーノです!」
サチ「ハモン、セラーノ……?」
あやり「生ハムです。豚の脚を塩漬けにして、気温と湿度の低い場所で長い時間をかけて熟成させたものです。豚の種類や部位によって名前は変わるのですが、このハモンセラーノは、山の白豚の後ろ脚のハムという意味で、スペインの山岳地帯で作られる世界三大生ハムのひとつとされています!」

好きなもののことになると、息継ぎなく早口に知識を話してしまうあやり。引っ越しの荷物の中から生ハム専用ナイフを取り出すと、躊躇なく生ハムの原木に刃を入れ、表皮を削り取り、赤身が薄く透き通るような生ハムを削ぎだしていく。

原作では、生ハムを削いでいくときの擬音は「ジ…ッ」と書かれている。実写でその音を聞く。

塩分で身の締まった赤身に刃が入ると、赤身と刃の間に脂が染みていき、ねっとりと刃にまとわりついていくのがわかる。刃をゆっくりと左右に動かすたびに、まさに「ジ…ッ」という音が聞こえてくる。

あやり「どうぞ」

午後の光がレースカーテン越しに柔らかく部屋を満たしている。生ハムを渡すあやりの手(トング)と、戸惑いながらも受け取るサチの手が、窓からの光に包まれて発光しているように見える。尊い。このドラマは、「尊い……」を映像化しようとしている。

二人暮らしにはやけに広い家のリビングダイニング、午後の光、真っ白い部屋、制服の違う同い年の高校生ふたり、姉妹、そして生ハムの原木。一時停止してじっと見ていると、シュールさと尊さがない交ぜになって溢れてくる。

ふたりの演技を押し上げる光の演出

原作では、バゲットにみっちりと生ハムを詰め込んで夕飯にしたところまでを描いていた。ドラマでは、翌朝にあやりが具だくさんの生ハムサンドと前菜、スープを用意して、一緒に食べるところまでをしっかりと描く。

サチとの朝ごはんのため、スーパーを探して早朝に自転車を飛ばすあやり。朝方の白っぽい光が揺れて、あやりのはやる気持ち、ドキドキしている様子を表していた。山田杏奈大友花恋の演技を、光の演出がグッと押し上げていく。

次回は、原作2巻に掲載の「ローストビーフ」の回。回ごとに脚本・演出・監督が変わる。肉感の重要な次回はどんな風にふたりの「尊さ」が表現されるのか楽しみだ。尊い……、尊い……と呟くばかりの木曜深夜になってしまいそう。

(むらたえりか

=配信サイト=
Amazonプライムビデオhttps://www.amazon.co.jp/dp/B07YQDCZF3
ネットもテレ東https://video.tv-tokyo.co.jp/shinmai/

=作品情報=
木ドラ25『新米姉妹のふたりごはん』テレビ東京
毎週木曜深夜1時〜放送
出演:山田杏奈大友花恋田中芽衣芋生悠、芦名星、ほか
原作:柊ゆたか『新米姉妹のふたりごはん』(電撃コミックスNEXT/KADOKAWA
脚本:関えり香、今西祐子、相馬光
監督:守屋健太郎、湯浅弘章、桑島憲司、副島宏司
音楽:牧戸太郎
主題歌:コレサワ「いただきます」(キングレコード
プロデューサー:合田知弘(テレビ東京)、田中勇也、佐治幸宏(ADKクリエイティブ・ワン)
制作:テレビ東京/クリエイティブ・ワン
公式Twitter:https://twitter.com/tx_shinmai
公式Instagram:https://www.instagram.com/tx_shinmai/

柊ゆたか『新米姉妹のふたりごはん』1巻(電撃コミックスNEXT/KADOKAWA)