鎌倉時代の名品である《佐竹本三十六歌仙絵》。離ればなれとなった断簡を100年ぶりに集めた特別展『流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美』が、11月24日(日)まで京都国立博物館で開かれている。

「歌仙絵」とは、歌人・藤原公任(966~1041)に選ばれた三十六人の優れた歌詠み人たち「歌仙」の肖像画のこと。鎌倉時代以降、数多く描かれた歌仙絵の中でも、旧秋田藩主・佐竹侯爵家に伝わった歌仙絵は、《佐竹本三十六歌仙絵》と呼ばれる。

かつて2 巻の絵巻物として伝わった《佐竹本三十六歌仙絵》は、その後売りに出され、大正8 年(1919)に当時の財界人たちが絵巻を一歌仙ずつ分割して共同購入。以降それぞれの歌仙絵は流転の道を歩むこととなった。今年2019年は、この《佐竹本三十六歌仙絵》が分割されて、ちょうど100年を迎える。

担当研究員の井並林太郎京都国立博物館研究員)は「これまでも《佐竹本三十六歌仙絵》の展覧会は開かれているが、本展では過去最大となる31 件を公開しており、今後開かれないかもしれない」と語る。

さらに、分割する際に使った籤(くじ)やくじ引きの舞台となった建物である応挙館の襖(ふすま)といった当時を知るための資料、また、他の歌仙絵や異なる時代に描かれた三十六歌仙絵によって、幅広く作品について知ることができる。

第1章は、《佐竹本三十六歌仙絵》が生まれる以前である、平安時代の名筆と国宝《三十六人家集》を紹介する。名筆、古筆を展示し、ひらがなの美しさを伝えた国風文化を感じることができる。

継色紙「いそのかみ」 伝小野道風筆、平安時代 11世紀、通期展示

第2章では、歌仙絵の始まりとされる柿本人麻呂の肖像画を、描き手や時代を 超えて見ることができる。

右:《柿本人麻呂像》、伝中御門宣秀賛 伝藤原信実筆、 鎌倉時代 13世紀 、東京国立博物館蔵、通期展示 中:重要文化財 《柿本人麻呂像》、性海霊見賛 詫磨栄賀筆、室町時代 応永 2年(1395)、東京 常磐山文庫蔵、通期展示 左:重要文化財 《維摩居士像》、中国・南宋時代 13世紀、京都国立博物館蔵 、通期展示

また、それらと同時代の硯(すずり)箱も置かれ、当時をしのばせる。

右:《菊慈童蒔絵硯箱》、室町時代 15世紀、通期展示 左:《住吉蒔絵硯箱》、室町時代 15〜16世紀、京都国立博物館蔵(奥村重兵衛氏寄贈)、通期展示

第3章は、《佐竹本三十六歌仙絵》がたどった、この100年を振り返る。佐竹家にあった《佐竹本三十六歌仙絵》2巻を入れた《月丸扇紋蒔絵巻物箱》、分割の際に使われた籤(くじ)といった、100年前の「絵巻切断」を物語る資料が置かれている。

《籤取花入》 大正時代 20世紀、京都 土橋永昌堂、通期展示

そして《佐竹本三十六歌仙絵》の展示室へ。

《籤取花入》 大正時代 20世紀、京都 土橋永昌堂、通期展示

一つ一つの歌仙絵とじっくり向き合って見ることができる、大胆な空間となっている。全国の美術館や博物館の所蔵品もあるが、個人蔵のものもあるため、31件もの《佐竹本三十六歌仙絵》を見ることができるのは、絵巻切断から100年目の本年が、最初で最後の機会かもしれない。

展示会場

歌仙絵は和歌と絵が一枚になっているので、いきいきとした物語が伝わって来る。例えば、恋に悩むさまが詠まれた和歌、そして絵は相手を想う表情でうつむく歌人、というように。

重要文化財 《佐竹本三十六歌仙絵 住吉大明神》、詞 伝後京極良経筆 絵  伝藤原信実筆、鎌倉時代 13世紀、東京国立博物館蔵、通期展示

《佐竹本三十六歌仙絵》が切断された後、それぞれの所有者によって施された異なる表具も興味深い。なお、一部作品は、前期および後期のみの展示となるので、ご注意を。

第4章、第5章、第6章では、鎌倉時代やその後の和歌や絵巻が並ぶ。《佐竹本三十六歌仙絵》以外の歌仙絵である「上畳本」のような、重要文化財となっている名品も多い。

重要文化財 《佐竹本三十六歌仙絵 源 信明》 鎌倉時代 13世紀、泉屋博古 館蔵、通期展示

100年前に切断された《佐竹本三十六歌仙絵》を通じて、平安時代から江戸時代の和歌や名筆、歌仙絵を堪能できる展覧会。優雅な文化を感じ取れるだろう。

展示風景

さらに、仏像が並ぶ「彫刻室」には、今回は特別に十二単《五衣唐衣裳》が展示され、当時の王朝の風情を感じることができるので、こちらもお見逃しなく。

【関連リンク】
特別展『流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美』公式サイト

重要文化財 《佐竹本三十六歌仙絵 小大君》(部分)、鎌倉時代 13世紀、大 和文華館蔵、後期(11/6~11/24)展示