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米国価格は6万ドル(650万円)以下から

text:Mike Duff(マイク・ダフ)
translationKenji Nakajima(中嶋健治)

 
8代目へと進化したシボレー・コルベット「C8」。スペックシートには印象的な数字が並ぶ。特にアメリカでの販売価格は、二度見してしまうインパクトがある。

シボレーディーラーコルベットを希望価格で購入すれば、ベースグレードなら5万9995ドル(647万円)で手に入ってしまう。しばらくは人気で難しいだろうけれど。495psのスーパーカーに迫るパフォーマンスを備えたミドシップ・スポーツカーの価格とは思えない。

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シボレー・コルベットスティングレイ(C8)

価格以上の性能を備えたクルマに、バーゲンプライスと表現することは良くあるが、コルベットC8ほどぴったりなモデルもないだろう。

アメリカドルをそのまま為替レートで日本円やポンドに換算した金額で、われわれが購入できる可能性は薄い。様々な要因と思惑が絡んでくる。少なくともアメリカでは、ポルシェ718ボクスターのベースグレード、6万250ドル(650万円)より安価にC8が手に入る。

上級グレードの3LTパッケージを選択すれば、7万1495ドル(772万円)。そこへZ51パフォーマンス・パッケージを追加すると、5000ドル(54万円)の上乗せとなる。スポーツエグゾーストにLSD、大径ブレーキエアロキット、ミシュラン・パイロットスポーツ4タイヤが含まれる。

アダプティブ・ダンパーは1895ドル(20万円)のオプション。全部乗せコルベットでさえ、ポルシェ718ケイマンGTSの8万1950ドル(885万円)で手に入るのだ。

デザインや構成はコルベットらしさが残る

スーパーカーの多くは、エキゾチックな複合素材などを構造部分に採用するが、C8の場合は遥かに安価なアルミニウム製。強度上重要な部分、車両中心のバックボーンとリアバンパー・ビームには、カーボンファイバーがちゃんと用いられている。

シボレーによれば、C7と比較してC8のボディ剛性は19%高いという。ボディも大きく、ホイールベースは2723mmでケイマンよりも248mm長い。全長は4630mmもあり、フロントエンジンだったC7よりも134mmも伸び、多くの2シーター・ミドシップより長い。

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シボレー・コルベットスティングレイ(C8)

その利点は、比較的広々とした車内とリアの荷室が得られること。従来コルベットのリアサスペンションは横置きのリーフスプリングだったが、今回からは4輪ともにコイルスプリングが採用された。

シボレーは過去数十年に渡って、コルベットのミドシップ化に触れてきた。C7の登場に合わせてミドシップ化する計画もあったが、2009年にGMが破綻し、一度は中止となっている。

エンジンと乗員の位置が逆転した以外、構成はコルベットらしいものが受け継がれている。デザインはこれまでと共通するテーマが貫かれ、サメのようなフロントエンドやテールライトは、C7とのつながりを感じ取れる。

ボディはグラスファイバー製で、クルマの中心的存在であるV8エンジンは、プッシュロッド式の「スモーブロック」。8速ATを介して、後輪を駆動する。

今回、アメリカのミシガン州で試乗したコルベットは、トップグレードの3LT。車内は窓ガラスを除いてほとんどがアルカンターラかレザー、カーボンファイバーで覆われている。

コルベットを印象付けるスモールブロック

第一印象は圧倒的に良い。アピアランスはスマートで仕上がりも良く、インテリアはプラスティック製パーツの放つ香りも、安っぽい存在感もぐっと先代から抑えられた。

人間工学的には理想的というわけではない。エアコンや送風位置の変更スイッチの位置は低くて見にくいし、運転席は助手席側よりも取り付け位置が高い。シートポジションを一番低くしても、高すぎるように感じる。背の高いドライバーなら、頭上空間に余裕は感じられないだろう。

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シボレー・コルベットスティングレイ(C8)

コルベットのトレードマークでもあるタルガトップは受け継がれ、ルーフパネルは取り外すことが可能。コンバーチブルも後日追加となる予定だ。

ステアリングホイールは上辺と下辺が直線になった形状。奥に深いダッシュボードと、強く傾斜のついたフロントガラスのおかげで、映り込みは激しい。静的部分では細かな不満があることも事実だが、コルベットC8のポジティブな印象に大きな影響はない。

プッシュロッド式のV8エンジンを搭載するというGMの決定は、正解だったと走り出してすぐに分かる。技術的な洗練度は高いとはいえないが、エンジンの存在感は強く、カリスマ性すら感じられる。

ドライバーの後ろに搭載位置が変わったが、以前のようなエンジンからの低音の唸り声は穏やかになっている。スロットルレスポンスはシャープで、中回転域はの吹け上がりは鋭い。レッドゾーンは6600rpmと低めだが、さらに高回転域まで回るライバルユニットの一部よりは、サウンドのドラマチックさは強い。

安定性と安心感が飛躍的に向上

先代の7Cと比較すると生々しさも鎮められたが、ミドシップ化で加速性能は向上。0-96km/hダッシュは、ローンチコントロールを使用すれば約3秒。シフトパドルを両方同時に引くことで、リアタイヤをバーンアウトさせる隠し技も付いている。

今回は一般道だったこともあり試さなかったが、通常のフルスロットル加速は試した。クルマに備え付けのタイマーで計ったところ、3.5秒で96km/hに到達できた。

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シボレー・コルベットスティングレイ(C8)

C8の大きな進化は、クルマの安定性とドライバーの安心感が飛躍的に向上したところにある。先代のC7では、カーブの続く道を飛ばして走らせると、エントリーグレードですら不安定さを感じることがあった。だがC8は強力なグリップで、クルマが弾き出されそうな気配すらない。

タイトコーナーの出口でアクセルペダルを一気に踏み込むと、リアタイヤのグリップが不足することはある。だが中速域以上のコーナーでは、路面に張り付いたかのように安定している。

その安定性を支えているのが、柔軟な足まわり。オプションのアダプティブ・ダンパーは、路面のうねりや起伏をうまく処理する。ソフトなツアーモードでも、硬めのスポーツモードでも同様だ。一方で強力なグリップがゆえに、一般道の速度域ではステアリングホイールから得られる情報量が限定的。

ステアリング・レシオは充分にクイックで、レスポンスも即時的だから、横方向のGを高めていく自信を揺らがせることはない。しかしステアリングホイールに伝わる、タイヤや路面の感触がほとんどない。サーキット走行レベルならフィーリングは改善するかもしれないが、今回は試せなかった。

日常的に乗れる高性能スポーツ

8速デュアルクラッチATは、この価格を考えれば大収穫。中にはシフトアップ時にトルクの落ち込みを感じるモデルもあるが、C8にはそれがない。感情的な表現が薄いものの、ドライビングモードを問わず変速は電光石火。通常のATのように滑らかでもある。

コルベットらしくギア比は高め。110km/h程度なら、トップギアで1500rpmという低回転でクルマは進む。燃費の面では有利だが、そこから急加速させるなら数段のシフトダウンが必要ということだ。

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シボレー・コルベットスティングレイ(C8)

荷室はフロントノーズに備わる小さめの「フランク」と、エンジンの後ろにある大きめのトランクと、2カ所が用意されている。リアのトランクにはタルガトップや、ゴルフバックが2つ入る大きさがある。合わせると356Lとなり、ケイマンよりはやや小さいが、この手のクルマとしては立派な容量だ。

エンジンの位置が変わったとしても、コルベットが最優先している部分は先代と変わらない。価格あたりで最強のパフォーマンスを備えた、日常的に使えるスポーツカーだ。

C8になっても、スーパーカーに並ぶ突出したダイナミクス性能や先進の技術は得ていない。実際、価格破壊のスーパーカーを目指したわけでもないはず。それに現状のラインナップは、C8でもエントリーグレードでもある。

追って登場する高性能グレードは、ターボ過給されるOHCエンジンを搭載し、1000psに迫るパワーを獲得するらしい。こちらは本当にスーパーカーを打ち破ることになるかもしれない。

GMによれば、コルベットC8には右ハンドルの設定も追加予定とのこと。日本や英国で一体どんな価格が付けられるのか、そこが一番気がかりだ。

シボレー・コルベット・スティングレイのスペック

価格:5万9995ドル(647万円)
全長:4630mm
全幅:1933mm
全高:1234mm
最高速度:312km/h
0-100km/h加速:−
燃費:−
CO2排出量:−
乾燥重量:1527kg
パワートレインV型8気筒6162cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:495ps/6450rpm(スポーツエグゾースト)
最大トルク:64.1kg-m
ギアボックス:8速デュアルクラッチ・オートマティック


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