まず最初に、私の研究室の若い仲間K君たちが、台風通過直後、自宅近くの武蔵小杉に出かけ(やめたらと言ったのですが)撮ってきた写真をご紹介しましょう。

JBpressですべての写真や図表を見る

 10月13日日曜日、午前5時過ぎの神奈川県川崎市武蔵小杉駅近在の風景です。私がお伝えしたいのは、この写真には写ってない要素です。それは何か?

 猛烈に「臭かった」のだそうです。下水の悪臭、もっとはっきり言うならば、糞便の臭いが凄まじかったという・・・。

 ここまで書けば、今回の主題が何か、はっきりご理解いただけると思います。 

 武蔵小杉といえば、駅の水没、改札が封鎖され大変な行列ができていること、またタワーマンションが停電・断水して「トイレが使えない」「仮設トイレが設置された」といった情報は報道でも伝えられています。

 しかし、インターネットが伝えることができない「臭気」という情報、というよりもこの場合はハッキリ「漏出物」があった。

 そういう現場の証言を期せずして直後に耳にしたことになります。

 漏出物が一体どこから来たのかは分かりません。タワーだけでも2000人ともいわれる住民がいるそうですし、増水した多摩川は、上流からも大量の漏出物が流されてきたことは間違いない。

 多摩川河口のあのあたりは、すべてが集積して大変なことになる可能性も考えられないわけではない。

 お台場トライアスロンのコラムなどご記憶の方もおありでしょう。大水が出ると「安全のため」未処理の下水、糞便なども直接川に「放流」されてしまう。

 そもそも、大変不衛生です。決壊した、しなかったというだけが災害ではありません。

 東京はもとより、日本全国の治水インフラ、本質的に検討し直すべき時期に差しかかっているのではないでしょうか?

 高度成長期や21世紀初頭に想定された「気候」からは、日本の現状はすでに外れた「変動」域にあることが、ほぼ間違いなく予想されるからにほかなりません。

 まず、そういうこととかなり距離のある「ポスト・トゥルース」から確認したいと思います。

何が「まずまず」なのか?

 台風19号の被害が続々と伝えられていますが、そんななか政治家の「まずまずに収まった」という発言が報道されていました。

 言語道断ですが、どうしてこういう発言になるかはよく分かります。より詳しく記すなら「予測されて、いろいろ言われていたことから比べると、まずまずに収まったという感じ」。

 つまり、いろいろな予測があり、そのどれをどう信用してよいか分からない。リテラシーが完全に欠如しているので、黙って静かにしているしかなかった。

 しかし、台風が過ぎてみると東京など身の回りは「大したことがない」。正確には「選挙の集票に大した影響はない」と判断された・・・という率直な感想をそのまま吐露したのだと考えれば納得できます。

 そういう政治で果たしていいのか?

 そう問われれば、全くそうは思いません。しかし、福島の復興に関わって耳にした中に、台風被害の「救済」はきりがなく、かつ票に結びつかないので、政治家はタッチしたがらないという話がありました。

 台風は毎年やって来ます。かつ、被害が出たとき救済されるのが当然と国民誰しもが考えている。当たり前です。納税者であり主権者なのですから。

 地方のインフラが破壊されているのに、ほったらかされてはたまったものではありません。

 でも、毎年やって来る台風にかけられる経費や手間暇は限られている。そこで「応援」程度にとどめておくらしい。

 真偽のほどは読者の良識に任せたいと思いますが、ともかく今回の台風19号は、日本全国のインフラが、誰の目にもすでに明らかな「気候変動」で、もう時代遅れ、使い物にならなくなりかけていることを、示唆しているのではないか?

 少なくとも今現在、日本列島の至る所で発生している冠水、決壊、浸水、土砂災害、道路の寸断・・・例えば、東京都の秋川近在が凄まじいことになっているのは、SNS画像を見ただけですぐ分かります

 しかし、系統だった被害状況などはほとんど報告されていないように思われます。つまり、このようなことが起きないように設計されたはずの安全対策が十分でなかったことをはっきりと示しています。

 水に浸かった新幹線車両、場合によればもう走れなくなってしまったものもある可能性もあるという。正確なところは推移を見る必要がありますが、およそ「まずまず」などではない。

 このコラムは基本的に事大主義を戒める記事が大半ですが、率直に言って「静かな国難」であることは間違いありません。

東京の下水を考え直せ!

 冒頭に示した「武蔵小杉」の写真に戻りましょう。このエリアの近くには某K大学があり、そのエリアは高台ですが、すぐ近くには日吉川などが流れており、至近の武蔵小杉駅を含む「南武線」は、多摩川に沿って走ります。

 その多摩川が今回、こういうことになった。

 そこで溢れた水が、大変臭かったというのは、ほかならず未処理の下水、便や尿などの汚水がそのまま流入したからだと思われます。

 私が思うのは、この汚物はいったいどの範囲からやって来たのかというポイントです。

 多摩川武蔵小杉から遡って、溝の口、登戸、分倍河原、府中本町、私の地元である国立、立川、日野・・・と延々上流に続き、拝島で支流の秋川と合流します。本流は福生、青梅と遡行して奥多摩湖の水源に繋がっています。

 逆に言うと、青梅からも、福生の米軍基地からも、立川からも府中の競馬場からも「汚物」は溢れてくるわけです。

莫大な水量に「希釈」
だから大丈夫なのか?

「それら」の濃度分布は全く私には分かりませんが、少なくとも多摩川のどん詰まり、最下流でゼロメートル地帯にも近い武蔵小杉では、水が東京湾に流れてくれず、街に溢れ出してしまったら、それより先に水の逃げ場がありません。

 冠水もしますし、汚物もそれなりの濃度のまま、あるいは、密度によっては1か所に固まって、路面に溢れ出していた。

お台場トライアスロン」での猛烈な悪臭で、十分予想されたことでしたが、研究室の若い仲間の決死の(?)現地確認で、少なくとももう1点、その現場を押さえることができてしまいました。

「東京の安全は守られた」と地下に掘られた宮殿のような「首都圏外郭放水路http://www.ktr.mlit.go.jp/edogawa/gaikaku/)」の働きが報道されるのを見ます。

 これは埼玉県春日部から小渕にかけて掘られたもので、東京都内に流れ込む水を防ぐ働きをする利根川水系の「川」の一部です。

 なるほど、都内の洪水は防ぐことができた。それはそれで価値のあることです。しかしそれで「まずまず」なのですか?

 多摩川はどうなのでしょう。秋川は東京ではないのですか?

 あるいは千曲川はどうですか。さだまさしの「防人の歌」という昔のヒットソングの節にのって、本稿を書いている私自身、自問しないわけにはいきません。

 局所的に最適でも、全体を見たとき、物事が成立していない可能性がある。

 同様の疑問は今回の台風19号豪雨に際しての、ダムの緊急放流についても山のようにあるのですが、別論としましょう。

 まずは「下水」です。何とかしないといけません。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  「下痢」を起こす東京の下水道

[関連記事]

大都市の防災インフラ投資は収益が上がる

台風19号での氾濫対策に「地下神殿」も貢献

単に泥水というだけではなく、猛烈に「臭かった」・・・合流式による冠水(武蔵小杉)Photo by KT&KT.