もしも3分だけ時間を止められたら、あなたは何をしますか?」

アニメ「フラグタイム」特報PVより

人気漫画家・さとによる知る人ぞ知る青春恋愛漫画の傑作「フラグタイム」が、劇場OVAとなって11月22日より上映されます。もともと原作のファンだったというプロデューサーの寺田悠輔さんと原作担当編集・菅原明子さんの対談は月刊ニュータイプ11月号に掲載されていますが、ここでは惜しくも本誌では入りきらなかった部分を大公開! 劇場に見に行く前の予習として、ぜひ本誌と合わせてお楽しみください。

――さと先生が「フラグタイム」を描かれたきっかけは?

菅原 もともと私は少年誌の編集部にいて、さと先生が「りびんぐでっど!」という漫画を描かれていたときの担当だったんです。その後、私が女性誌の編集部に異動して「もっと!」という雑誌を担当することになったときに、さと先生から「『もっと!』で描きたいんですけど、女の子同士の話はダメですか?」と、連絡をいただいて。それで彼女が描いてきたのが「フラグタイム」だったんです。その時点で引きが強い作品だと感じていましたが「もっと!」は季刊誌だったので、単行本を出すには時間がかかるなと思い、2話まで載せたところでWeb媒体に移行して、定期的に更新する作品になりました。

――当時の読者の反応はいかがでしたか?

菅原 立ち上げて間もないWeb媒体ということもあり、作品が知られるまでに時間がかかった印象です。書店さんで読者の人が見つけられない状態にありましたね。少年誌の棚に並んでいたり、百合コーナーに置いてあったりして、本屋さんで迷子になっていました。なので、私が資料をつくって、都内の主要な書店さんに注文を取りに行ったこともありました。

――その時期に寺田さんもこの原作を見つけて、手に取られたんですよね。

寺田 たぶん2巻目が出たタイミングで書店に並んでいて、1巻を新宿の紀伊國屋書店で買いました。読んでみたらすごくよかったので、次の日に2巻を買いに行って。

菅原 見つけていただけて、よかったです(笑)

寺田 普通に置いてありましたからね。面陳(=本の表紙を見せて陳列すること)されていて。そうじゃないと、たぶん気づかなかったと思います。

――表紙が引きになるようにと意識されていたところはあった?

菅原 イラストにあわせて、デザイナーの新上ヒロシさんが、2人が浮いているような感じにデザインしてくださいました。あとは原作コミックタイトルの書体が「トンネル」という名前のフォントで、「タイムトンネル」的な不思議な感じが合うと思って決めたそうです。

――いわゆる百合作品というのは色にしても全体の雰囲気にしても、きれいに描かれることが多いように思いますが、何か思い当たられる理由はありますか?

寺田 1対1の関係性をちゃんと描くとそうなるんじゃないかと、僕は思っています。女の子同士だからということじゃなくて、1対1の話になると、いろんなものをそぎ落としていくことになるので。それが「フラグタイム」の表紙でいえば白背景だったり、色もあまり主張が強くないものになったりするのかなと。淡いグラデ感みたいなものも、キャラクターたちの心情を掘り下げていくと出てくるんじゃないかなって。あくまで僕の個人的なイメージですけどね。

――1対1の関係性を描くのに、余計な情報は必要ないと。

寺田 僕はもともと実写映画が好きで映像の仕事に入ってきているので、その好みも入っているとは思います。ソフィア・コッポラ監督や、デビットフィンチャー監督の映画が大好きで、そういう人たちも色がビビッドではないと思うんですよね。

――アニメの「フラグタイム」は佐藤卓哉監督をはじめ、昨年公開された「あさがおと加瀬さん。」のメインスタッフが再結集していることでも話題となっています。佐藤監督が描かれる作品の魅力とは、どんなところにあると思われますか?

寺田 佐藤監督は実写っぽいセンスをもっている方で、好きな映画とかが僕といっしょなんですよね。デビットフィンチャー監督の「ソーシャル・ネットワーク」とか。それもあって、僕は佐藤監督のつくる映像が好きなんですよ。ご自分で脚本も書かれますし、音響監督もやられるので純度が高いものが出来上がるというか、いろんな要素をうまく組み立てられる、そういう計算ができる方だと思っています。佐藤監督が「あさがお~」のときに言っていたのは「光だけを描きたい」と。今回の「フラグタイム」は決して光だけではないと思うんですけど、たとえ見たくないものを描いたとしても、ちゃんと見終わった後に何か希望が残る作品になっているのではないかなと思います。

――森谷美鈴役の伊藤美来さん、村上遥役の宮本侑芽さん、小林由香利役の安済知佳さんといったメインキャストの方々は、どのように選ばれましたか?

寺田 最初はすごい数のテープオーディションをしました。そのなかから絞らせていただいて、スタジオオーディションをして、そのスタジオの音源を聴きながらキャスティング打ち合わせを全体でやりましたね。そのときは、菅原さんにも来ていただきました。最終的に、残った数人のなかで組み合わせを考えていったら、伊藤さんと宮本さんの相性がすごくよかったんです。

菅原 さと先生も「私もその2人がいいと思っていました」と言っていました。

寺田 伊藤さんは声質自体にアニメっぽい雰囲気があって、反対に宮本さんはリアルな〝冷めた女子高生〟みたいな芝居をされていて、その情報だけ聞くと合わなさそうなんですけど、組み合わせてみたら意外によかったんです。それぞれのポイント的には、森谷は圧倒的にモノローグが多いので、ずっと聴いていられる声質という部分。村上はちょっと冷めつつ、優しさもあるみたいなところがナチュラルに出ていました。その2人が決まった後に小林を決めていくなかで、菅原さんからいただいたのが「小林はとにかくいいやつ」と。

菅原 (笑)

寺田 というオーダーがあったので、音響のスタッフの方に相談したのですが、安済さんなら〝いいやつ〟ができるのではないかと言われて(笑)。安済さんはもともと森谷と村上のオーディションを受けていただいていて、最後のほうまで残っていたんです。

――「あさがおと加瀬さん。」の主演だった佐倉綾音さんと高橋未奈美さんのお名前がキャストクレジットにあるのが気になっている方も多いと思いますが……。

寺田 これも音響の方と話をしていて「『あさがおと加瀬さん。スタッフ最新作と言っているくらいだから、あの2人にも出てもらえたらおもしろいんじゃないか」と。あくまで〝収録日のスケジュールが合えば〟という前提で確認してもらったら、偶然にもスケジュールが合ったんですね。演じられたキャラクターは本編を見ながら探していただきたいのですが、2人にお任せできてよかったなと思っています。

――主題歌は「あさがおと加瀬さん。」のときと同様にキャラクター2人によるカバーソングとなっていますが、これには何かこだわりがあるのですか?

寺田 「あさがお~」のときはいろいろな事情があって、「恋愛J-POPキャラクターカバーする」という条件が先にあったんですよ。そのときは、高橋さんと佐倉さんの力ですごく素敵な曲にしていただいたので、今回も同じ感じがよいのではという話が出まして。それにキャラクターに歌ってもらえたら、最後までキャラクターの物語になるのではと個人的には思っています。第三者が出てきて歌うというのではなくて、キャラクターが物語を通して獲得した結末を本人の声で聴かせられるという。それを今回もやりたかったので、カバーにしました。

――今回の主題歌Every Little Thingの「fragile」のカバーです。

寺田 条件としては2000年代前半~中盤くらいの恋愛J-POPから選ぶというのが先にあって、自分でもいろいろ案を出していたのですが、僕の会社の前の席に座っている、この作品とは全然関係ない女性の方に「いい曲ないですかね?」と聞いてみて、何曲かリストアップしてもらったら、そのなかに「fragile」が入っていて。そうしたら、さと先生が高校時代に携帯で「fragile」の着メロをつくっていたというつぶやきをされていて。

菅原 私もそれはTwitterで知りました(笑)。「『fragile』どう思う?」って聞いたときは「あ、いいと思います」としか言っていなかったのに。

寺田 たまたまですけど、そんな素敵な話もありまして。歌詞も「フラグタイム」にぴったりだと思ったので、カバーの申請をさせていただきました。

――最後に「ぜひここを見てほしい!」というポイントをお聞かせください。

菅原 原作は本当に感情むき出しという感じで描かれている、2巻の後半のほうを見てほしいなと思いますね。さと先生が思春期のころに考えていたことが長い時間をかけて、こういう形になったと思うんです。ぜひ原作と合わせて、アニメを見ていただきたいですね。

寺田 僕は今29歳なんですけど、自分の感覚で若い方に向けたものをつくれるギリギリの年齢まできているなと思っていて。高校生とか、もう10歳下とかじゃないですか。僕の時代にはLINEもなかったですし、今の人たちの悩みとかは自分の肌感覚ではわからないので、若い方のための表現をつくれるのもそろそろだなという気がしていて。この作品はコミュニケーションテーマなので、いろんな世代の人に共感してもらえるとは思うんですけど、特に学生の方とか若い方に見てもらって、たとえば「みんなとうまくやらなければいけない」と思っている人が「まずは誰かひとりいればいい」とか、何かしら自分なりの生き方のヒントをこの作品のなかで見つけてもらえればいいなと思います。(WebNewtype・【取材・文:仲上佳克】)

「フラグタイム」は11月22日(金)より新宿バルト9ほかにて期間限定劇場公開