先週10月11日テレビ朝日系の金曜ナイトドラマで「時効警察はじめました」(金曜よる11時15分。ただし一部地域を除く)がはじまった。2006年の「時効警察」、2007年の「帰ってきた時効警察」に続く、12年ぶりの新シリーズのスタートだ。

これに先立ち9月29日に放送されたスペシャル版は、先週の記事でも書いたとおり、かなりシリアスなものだった。旧シリーズの軽さが好きだった者としては、新シリーズもこんな調子で行くのかとちょっと心配していたのだが、ふたを開けてみれば、第1回はかつてのシリーズ同様、強引な設定や小ネタ満載で軽快に進み、いよいよ「時効警察」が戻ってきた! と思わせた。スペシャル版より登場している新キャラクター、吉岡里帆演じる新人刑事・彩雲真空も、磯村勇斗演じる鑑識課の又来康知(ふせえり演じる時効管理課の又来の息子)も早くもレギュラー陣のなかに溶け込んでいた。

時効延長を荒ワザで処理
旧シリーズのあと、今回のシリーズが始まるまでには、法律の改正により人を死亡させた事件について時効が廃止あるいは延長された。旧シリーズに出てきた事件の大半は15年で時効を迎えたが、これらと罪が同等の事件は現在、時効が30年にまで延長されている。そのため、「時効警察」再開にあたってどう処理するのか気になっていた。

スペシャル版の事件は、法律が改正される前日に時効を迎えたという設定だったが、第1回の事件(1994年発生)はさらに前、10年前に時効を迎えていた。それというのも、捜査で押収した物品が箱に入れられ、冷蔵庫で保管されたまま忘れ去られていたからである。そもそもなぜ押収品が冷蔵庫にあったのかといえば、箱に書かれていた被害者の名前「要玲蔵(かなめ・たまぞう)」が、「要冷蔵」と勘違いされてしまったため、というのが強引すぎる。しかも時効になったあと10年も処理されていなかったとあれば、普通の警察なら大問題になるところだろう。だが、それもこれも「時効警察」にかかればまったく無問題。かつてのように時効管理課の熊本課長(岩松了)が嬉々としながら捜査書類に「時効」の印を押すと、主人公の霧山修一朗(オダギリジョー)はかつてのように趣味で事件の捜査を始めるのだった。

要冷蔵ならぬ要玲蔵(村松利史)は、派手な女性関係から「総武のウタマロ」と呼ばれた男である(現実にも「紀州のドンファン」と呼ばれた人物がいたが……)。25年前、その要の元愛人で新興宗教阿修羅の水」の教祖・神沼絹枝(伊勢志摩)が、要の経営する水産加工会社の冷凍倉庫のなかで凍死しているのが発見された。監視カメラには絹枝が倉庫に入っていく姿が映っていたが、直後に、無人にもかかわらず倉庫の手動の鍵が外からロックされ、閉じこめられたのだ。じつは要もまた、ほぼ同時刻に自宅でイカを炭火に炙って食べていたところ、一酸化炭素中毒で死亡していた。

絹枝にも要にも、お互いを殺す動機は十分にあった。絹枝は要と別れたあと、まだ高校生の娘の美沙子(小雪)を要と結婚させていた。それというのも、要の財産を狙ってのことである。要が死ねば、その莫大な遺産は娘に転がり込むはずだった。対して要は、絹枝の言われるがままに食品偽装を行なって莫大な収入を得ており、それをネタに彼女からゆすられていた。しかし物証は出て来ず、捜査は暗礁に乗り上げ、そのまま時効を迎えてしまう。

霧山は謎を解くべく、絹枝のあと教祖となった美沙子や、かつてこの事件を担当した刑事(根岸季衣)などに話を聞いてまわる。しかしそこは「時効警察」、捜査中も小ネタがてんこ盛りである。たとえば、美沙子が蚊に刺された際、塗っていた虫刺されの薬の名前はなぜか「サンコン」で、容器のラベルにはご丁寧にオスマン・サンコンの肖像まで入っていた。

じつは蚊に刺されるという設定にはそれなりに意味があって、霧山によれば、人間はウソをつくと体温が上がって汗をかくので、それに誘われた蚊に刺されやすくなるという。そういえば先のスペシャル版では、ウソをついた被疑者の背後で、いきなり自動ドアの扉が開くという描写があったが、それも人間はウソをつくと体温が上がるので、自動ドアのセンサーに感知されやすくなるからだと説明されていた。今回の虫刺されの件にしてもちょっと信じがたいが、ドラマは霧山の言うとおり、ウソをつくと蚊が寄ってくるという設定でその後も進んでいく。

それにしても、蚊に刺されたときといい、美沙子を演じる小雪が髪をかきあげるたび、まるで「モノマネされる小雪」を演じているようだった。旧シリーズではゲスト俳優が回想シーンで登場人物の若き日をそのまま演じることが多かったが、今回も小雪がセーラー服姿で高校時代の美沙子をさほど違和感なく演じていた。教祖となってからの美沙子も、霧山に色仕掛けで迫るなどじつに妖艶で、女優・小雪の底力を見た気がする。

「誰にもいいませんよカード」もリニューアル
美沙子に迫られたりしながらも、霧山は事件のヒントを見つけていく。街で、時効管理課の同僚・又来(ふせえり)そっくりなおじさんが風船を売っているのを見ると、一酸化炭素はボンベでも購入可能だったのではないかと気づく。調べてみると案の定、一酸化炭素は事件当時、マグロの発色をよくするため水産加工業者のあいだで使われていた(現在は食品衛生法で禁じられている)。さらに美沙子と再び会ったとき、教団の応接室(要が死んだ部屋)のふすまに穴が開いているのを発見する(ふすまには歌川国芳浮世絵宮本武蔵の鯨退治」が描かれ、穴は鯨の目の部分に明けられていた)。

これらのヒントから霧山は、当時高校生だった美沙子が、要と絹枝のそれぞれの共犯者となって二人を死にいたらしめたと考えた。このあと、あらためて美沙子と会った霧山は、かつてのように三日月をともない、彼女にメガネを預けたうえで、自らの推理を語り始める(以下、ネタバレなので、見ていない方はご注意を)。

じつは要が中毒死した一酸化炭素は、イカを焼いていた練炭ではなく、絹枝と美沙子が隣りの部屋からふすまの穴を通じてボンベで流し込んだものだった。絹枝はそれからすぐ冷凍倉庫に向かう。そこには要の隠し財産をしまった金庫があると美沙子に教えられたからだ。絹枝が冷凍倉庫に入ると、あとをつけていた要の手で外から鍵がかけられ、絹枝はそのまま低体温症で死亡。要も戻った部屋で一酸化炭素中毒で死亡する。

監視カメラに鍵をかけた要の姿が映っていなかったのは、当時の監視カメラではビデオテープが使われていたのを利用したトリックだった。いったん最後まで録り終えたテープは自動的に巻き戻され、再び録画が始まる。要と美沙子は、最後まで録り終える直前に倉庫に入るよう絹枝を誘い出し、そして巻き戻しの最中を突いてロックしたのだった。

さらに霧山は、絹枝の腕時計が1分進んでいたことまで突き止めていた。絹枝もテープが巻き戻される時間を知ってしまったため、美沙子が時計を細工したのだ。霧山はこれについて美沙子うっかり口を滑らせるよう、時間を記したメモを冷凍倉庫から見つけたとウソをつき、わざわざメモを氷漬けにして彼女の目の前で溶かすことまでした。このあたりの周到さは往年の米ドラマ「刑事コロンボ」を思い起こさせる。

霧山から事件の核心を突かれ、ついに美沙子はなぜ自分が母と夫を殺したのか語り始める。そこには壮絶な少女時代の体験があった。すべてを話し終えて彼女は警察に出頭すると申し出るが、すでに時効になったあとだからそれにはおよばない。ここで霧山が取り出したのが、ご存知「誰にも言いませんよカード」。それも3Dにバージョンアップしたものだった。ただしそれは、2つに折ったカードを開くと、「この件は誰にも言いません。」と書いた紙片が飛び出すという、いたってアナログなものではあったが……。

彩雲は三日月のライバルになるのか?
こうして新シリーズ最初の事件は、いつもは冴えないくせに趣味だけには才覚を見せる霧山の面目躍如で解決された。解決時には旧シリーズと同様、三日月が同行したが、ほかのシーンでは三日月に代わって彩雲が霧山と捜査する場面もあって、今後、彩雲が三日月とライバル関係になりそうな予感を抱かせる。

その彩雲は、教養もありそうだし、フットワークも軽くて将来有望ながら、上司の十文字(豊浦功補)からトレンチコートの着こなし方の特訓を受けたり、小粋な会話ができるよう説教されたりと(よりによって話がつまらないと署内で悪評高い十文字から!)、どう考えても今後まるで役に立たなさそうなことをさせられているのがほほえましくも切ない。

余談ながら、今回被害者にして最重要被疑者の要玲蔵を演じた村松利史は、旧シリーズ「時効警察」「帰ってきた時効警察」いずれにもチョイ役で出演し、霧山にヒントを与えている(「時効警察」では2回、「帰ってきた時効警察」でも1回登場し、いずれも別の人物ながら血縁関係にあるという設定だった)。今回はゲストながら主要な役での堂々の登場であった。

今夜放送の第2回では、ゲストとして向井理が登場。脚本と監督は、やはりシリーズ初登場の福田雄一と大九明子がそれぞれ手がける。向井理といえば、他局のドラマで吉岡里帆をねちねちいじめていたのが記憶に新しいが、今回の共演ではそんなことがないよう、よろしくお願いします!(近藤正高)

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イラスト/たけだあや