9月から10月は、年間で最も降雨量の多い時期です。皆さんは体調を崩されていないでしょうか。今日もクリニックは混雑しています。お母さんが2歳の男の子を連れて来院しました。

1~3歳での発症が多い

「今日は、どういう具合ですか?」

うちの子、風邪なんです」

「…まあ、風邪かどうか診てみましょう。どういう症状がありますか?」

「微熱があって、昨日の夜から痰(たん)の絡んだ咳(せき)を繰り返して、あまり眠れなかったんです」

「では、早速、胸の音を聴いてみましょう」

 衣服をはだけると、もうそれだけで普通の風邪ではないと分かりました。呼吸が速く、呼吸のたびに肋骨(ろっこつ)と肋骨の間がへこみます。これを「多呼吸」「陥没呼吸」といいます。聴診してみると、息を吐くときに雑音があります。これだけで診断は十分に可能です。

「お父さんやお母さんはアレルギーを持っていませんか? 子どものときに何かアレルギーの病気はありませんでしたか? お子さんの咳の原因は単純な風邪ではありません。ぜんそくです」

 驚くお母さんに、お子さんの呼吸の状態を説明しました。人は「スー」と息を吸って、「ハー」と息を吐きます。ぜんそくのお子さんは気管支が狭くなっているために、息を吐くとき、口笛を吹くように「ヒュー」と音を立てたり、痰を巻き込んで「ゼー」と音を出したりします。

うちの子は、どうしていきなりぜんそくになってしまったんでしょうか?」

「いきなりではありません。ぜんそくはほとんどが、ダニやハウスダストといった家の中の汚れに対するアレルギー反応なんです。汚れていない家なんてありませんからね。だからこそ、毎日掃除をするわけですよね。そうしたアレルギー反応が気管支粘膜に起きて、粘膜に慢性的に炎症がある状態になるんですね。それが何かのきっかけで、気管支がギュッと狭くなり、ぜんそく発作として発症するんです。1~3歳で発症することが最も多いんですよ」

 きっかけはさまざまです。風邪をひくこともそうだし、汚い空気を吸うこともそうです。親の喫煙は最も悪いことです。そして、秋は長雨が降ったり、台風がやってきたりします。これによって急激に気温や気圧が低下すると、発作が起こりやすくなります。

継続治療で多くは治る

 ぜんそくと診断されると、お母さんは「ぜんそくが治るかどうか」を心配します。でも、ちょっと待ってください。ぜんそくには年に1~2回、季節の変わり目に発作が出る「間欠型」と、毎月1回以上発作が出る「持続型」があります。それは、今後の様子を診ていかないと分かりません。クリニックを受診するお子さんの大半は「間欠型」で、2歳ごろに発症しても、治療によって小学校に上がる前くらいに治ってしまうことが多いのです。

 ぜんそくのお子さんには、たくさんの薬が出されます。混乱しないように、お母さんは薬の内容をよく整理して考えてみましょう。治療の柱は2つです。

(1)ぜんそくを予防する薬:アレルギーを抑える飲み薬や炎症を鎮めるステロイドの吸入薬です。
(2)今ある発作を抑える薬:ネブライザーの吸入や、気管支拡張剤と痰切りの内服薬です。

(1)はある程度長く継続して、気管支粘膜の炎症をダウンさせて、ぜんそくを抑え込んでしまう必要があります。(2)に関しては、発作が完全に治まれば終えることができます。

 ぜんそくという病気は本当にたくさんあるものです。13年前に開業したとき、毎日、何人ものぜんそくのお子さんが次々に来院して本当に驚きました。開業医の仕事とは、ある意味、普通の風邪と気管支ぜんそくを区別することにあるかもしれないと思ったものです。

 小児クリニックの役割は、お子さんが中学3年生になるまでです。この段階でぜんそくが治癒しておらず、大人の内科に紹介状を書くことはめったにありません。頑張って、お子さんが小さいうちに治してしまいましょう。継続は力なりです。

小児外科医・作家 松永正訓

ぜんそくの治療は「継続は力なり」