歩行者信号機のない横断歩道を渡ろうとしている際のクルマの一時停止率について、JAFが最新の結果を発表。全国ワーストとされた栃木県では、状況が大きく改善しました。また、交通安全教育に関する次なる課題も見えてきています。

検挙件数、1年間で5倍増

信号機のない横断歩道歩行者が渡ろうとしている場合、クルマは一時停止し、歩行者に道を譲らねばなりません。それが守られていない実態から、JAF(日本自動車連盟)は2016年より全国の「一時停止率」を調査。2019年の結果が10月10日(木)に発表されました。

JAFによると、今回の調査対象になった車両9730台のうち、停止したクルマの割合は17.1%だったそうです。全国平均の一時停止率では、前回(2018年)の調査時と比べ8.5ポイント増加しましたが、都道府県別では、68.6%で4年連続1位の長野県から、3.4%で全国ワーストの三重県まで、大きな差があります。

こうしたなか、前回調査において一時停止率0.8%で全国ワーストとされていた栃木県が、今回は13.2%、29位と大きく順位を上げています。栃木県警の交通企画課に、この1年間の変化について聞きました。

――この1年間、どんなことをしたのでしょうか?

一時停止率が全国ワーストという結果を逆手にとり、「脱! 止まってくれない栃木県」というスローガンを掲げ、パンフレットやポスターを作成して広報活動を展開しました。また、地元テレビ局で放映したテレビCMも、内容が面白いということで、全国ネットの番組にも多数取り上げられています。信号機のない横断歩道をはさんで向かい合う男女が、お互いの名を呼び合うものの、クルマが止まらず、なかなか渡れないというものです。

このような状況で一時停止をしなかったクルマは「横断歩行者等妨害等」違反になりますが、その取り締まりも強化しており、2019年9月末までの1年間における検挙件数は、前年の約5倍に上っています。

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宇都宮市に住む70代の男性は、自治会の回覧板で「止まってくれない栃木県」のパンフレットが回ってきたことで、栃木県が全国ワーストであると知ったそうです。また、同市在住の30代男性からは、警察が一時停止無視を取り締まっている様子をよく見かける、という声も聞かれました。

「歩行者優先」を歩行者が知らない問題 言われてみれば確かに…

栃木県警交通企画課によると、今後は歩行者への広報も必要だといいます。

――キャンペーンなどを通じ、県民の意識はどう変わりましたか?

最初は、信号機のない横断歩道で一時停止しなければならないことを知らなかった、というドライバーも見られましたが、現在は「止まってくれるクルマが増えた」という意見もいただいています。一方、このようなケースで「クルマは止まるものだ」ということを知らなかった歩行者も少なくありません。信号機のない横断歩道でも「クルマが行ってから渡ればいい」と考え、ドライバーから見て歩道の奥のほうで車列が途切れるのを待つため、渡る意思がわかりにくいというケースも見られます。

――歩行者優先を浸透させるために、何が必要でしょうか?

歩行者もクルマのことを考えて、横断歩道を渡る際に合図をする、といったことが有効と考えています。ちょっとした身振りやアイコンタクトなど、何らかのアピール方法があるはずです。譲ってもらった際にお礼をするなど、お互いに道路を気持ちよく使えるよう、広報していきたいと思います。

また、従来の交通安全教育では、左右の安全を確認して「クルマが来なかったら渡ろう」と教わってきたと思います。そうではなく「クルマは本来、止まらなければならない」こと、「なかには止まらないクルマもあるので気を付けて渡ろう」という教育をしていく必要があるかもしれません。

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栃木県警は当面の目標として、一時停止率を全国平均値(17.1%)まで向上させるとしています。

なお今回のJAFの調査は、2019年8月15日から29日のうち、月曜日から金曜日の平日10時から16時のあいだに実施。各都道府県で2か所ずつ、信号機が設置されていない横断歩道を一定の条件でピックアップし、JAF職員が実際に横断して、接近する車両が一時停止するか否かを調べたものです。

信号機のない横断歩道。渡ろうとする歩行者がいる場合、クルマは停止せねばならない(画像:photolibrary)。