女性や子どもに手をあげる暴力男。殴る蹴るなどのイメージから、そういった行為に及ぶのは腕っぷしの良い男性や、不良のイメージを持つ人が多いと思います。

 今回の裁判傍聴は家族への暴行罪で問われた27歳の男性。どんな屈強な男かと思っていたら、被告人はなんとも意外な文化系男子。でも話を聞いていくと、恐ろしいほどに幼い心がみえてきます。

===
被告人:引田直斗(仮名・27歳)
罪状:暴行罪
===

◆母親に日常的な暴力をふるう息子。その手が妹にも…

 被告人の引田直斗が暴力をふるっていた相手、それは実の母親とその妹でした。

 もともと父親の経営する会社を手伝っていた被告人ですが、家族と働くという環境に馴染めず離職。その後別の会社に再就職をするも、周りに馴染むことができずにこちらも離職。再就職など今後を思案している中、事件は起きたそうです。

 そもそも彼は3年前、恋人に暴力をはたらき治療費を支払った過去がありました。もうしてはいけないと分かっていたはずなのに、その後も母親に対し、喧嘩や苛立ちを覚えた際、日常的に暴力をふるっていたそうです。

 その時点でアウトなのですが、それは事件へと発展はせず、家の問題として処理されていました。今回刑事事件へと発展する怒りの引き金は、本当に本当に些細な出来事だったといいます。

 その日、被告人が暴力をふるったきっかけは、なんと「お菓子がないから」。

「なんか甘い物ない?」と被告人が母親に声をかけた際、「ないわよ」とぶっきらぼうに返答されたことにキレた被告人は、感情のままに母親の腕をつかんでひっかき、数十秒ほど首を締め付けたといいます。

 首を絞めた行為はとっさのことであり殺意はなかったそうですが、怒りが収まらなかった被告人は、さらにそばにいた無関係な妹にも怒りをぶつけます。現場を見ていた妹に馬乗りになり、そのまま首も締め付けたのです。

 死に至るほどではなかったものの、母親は腕を負傷し全治1ヶ月。そして今まで母親と息子という親子間で処理していた問題も、無関係である妹にまで危害が加わったことで考え直したのでしょう。通報し罪に問われることになったのです。

◆「なぜ女性にばかり暴力を?」法廷で問われると声はさらに小さくなり

 文章だけで状況を追うと、被告人の感情制御や行動は非常に凶悪で短絡的と感じます。しかしびっくりするのが、被告人席に座る引田氏は小綺麗で大人しそうで、暴力的な姿は想像できないほどの男性なのです。

 証言台に立ち、ポツリポツリと話し始める被告人。その声は消え入りそうに小さく、傍聴人たちも一様に「え?」と耳を近づけたり席を移動したりするほどです。あげく裁判長や検察官にも「もう少し大きな声で」と何回も注意されるものの、それでも声は大きくなりません。

 こんな大人しそうな人が? そう思い、彼のバックグラウンドを見ていくと、どうやら幼少から自己肯定感がとても低く、極端に人の目が気になるという性格のようです。もしかしたら、そういった外から受けるストレスを内側に溜め込み、親しい人に暴力として爆発させてしまったのかもしれません。

 前職の離職理由は、年齢が離れているなどの理由で周りから変な目で見られているのではないかと不安になり退職。前々職の父親の会社も、社長の息子という立場にやりにくさを感じて退職したといい、自意識過剰ぶりがうかがえます。

 とはいえ、それが暴行してもよい理由にはなりません。ましてや無関係で無抵抗な妹に危害を加えるなんて、やはり“クズ”。

 暴力をふるった理由を問われると「一緒にいる時間が多かったので……」と話しますが、「じゃあなぜ、父親や弟には振るわないんですか?」と突っ込まれると、「わかりません」と、小さい声がさらに小さくなっていきます。

 悪いのは彼。それは間違いないものの、ただ怒りをセーブできずに暴力に走っただけではなさそうで、元カノ、母親、そして妹と女性にばかり手をあげる彼の本音や心の闇は、法廷では深く語られることはありませんでした。

家庭内暴力は繰り返す場合が多い。だからこそ適切なケアを

 罪状は暴行罪。判決は懲役10ヶ月、執行猶予3年で幕を閉じました。

 裁判長は判決を言い渡す際「なぜこういう事を繰り返してしまうのか、突き詰めてください」と話し、自分を振り返り、暴力を繰り返してはいけないと諭します。ただこういった自分より弱き者への暴力は心の病にも近く、甘えや失敗という言葉で片付けるのは危険です。一人で克服するのも困難な部分があります。

 被告人は現在再就職先を探しているそうですが、この事件をきっかけに家族は今もバラバラです(母親と妹だけが一緒に暮らし、被告人は現在父親と住んでいる)。

 自分の拳により離れ離れになった家族に対して、今何を思うのか。その小さい声からは聞こえてきません。彼が再就職と合わせ、その心の幼さと向き合い、適切なケアを受け、家族がまた1つになることを祈るばかりです。

<文/おおしまりえ>

【おおしまりえ】
水商売やプロ雀士、素人モデルなどで、のべ1万人以上の男性を接客。現在は雑食系恋愛ジャーナリストとして年間100本以上恋愛コラムを執筆中。ブログ