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ほぼ新車状態のシトロエンGSビロトール

text:Martin Buckleyマーティン・バックリー)
photo:John Bradshaw(ジョン・ブラッドショー)
translationKenji Nakajima(中嶋健治)

シトロエンは、NSU社との共同投資でコモーター社を設立し、ドイツのお隣に位置する小国、ルクセンブルクに小さなロータリーエンジン工場を準備。初めに50psのシングルローターエンジンをアミ・クーペに搭載し、267台を製造した。M35と呼ばれ、1969年から1972年まで製造。評価目的で特別な顧客へ貸与されている。

ハイドロ・ニューマチック・サスペンションの補機類の専有面積が大きくエンジンは横置きとなっているが、スペアタイヤに隠れて殆ど見えない。見た目もRo80のユニットとは大きく異なる。内部構造は共通だが、ブレーキやサスペンション動作用のポンプなどによるエネルギー損失が大きく、かなり非力に感じられた。

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シトロエンGSビロトール

シトロエンが3年落ちのGSを初めてのロータリーエンジンのベース車両に選んだことは不思議に思えるが、3ローター・エンジン版のCXプロトタイプも控えていた。恐らく大型車の方が、燃費が悪くてもパワフルで先進的なエンジンに対して、オープンな考えを持っていたのだろう。

フェンダーが大きく膨らみホイール・ボルトが5本なこと以外、アピアランスはGSと似ているが、中身は異なる。サスペンションやシャシーは、CXなどからの流用品と専用の開発部品が組み合わされていた。アウトボード化されたフロント・ディスクブレーキの取り付け位置は、設計上の過ちとしか思えない。

走行距離はわずか5300kmと、フィリップブレイクが所有するGSビロトールはほぼ新車状態。1974年シトロエンディーラーは、本社へ売れ残ったビロトールの登録書類とシャシーナンバーのプレートを送り返した。おかげでシトロエン社から巨額の補償を受け取ることができた。加えてクルマは手元に残し、展示会に出品していたという。

通常のGSには備わらない活発さ

2人目のオーナーが英国へビロトールを持ち込むものの故障。シトロエンの専門店でもロータリーエンジンは手に負えず、ブレイクが呼ばれ、30分もかからずに復活させたという。それ以来ブレイクはビロトールへ恋に落ち、2018年4月に所有者となった。

大きめのタイヤに着座位置も高く、不思議と通常のGSよりもアグレッシブに感じられる見た目。一見ハッチバックのようだが、ラゲッジスペースは別になっている。多くのコスモ110Sが白色なように、多くのビロトールはチョコレート・ブラウンかライト・ゴールド色。

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シトロエンGSビロトール

空冷の水平対向エンジンを搭載した通常のGSよりも価格は70%も高かった。それを正当化するために、車内はカーペット敷きで、ヘッドレスト一体の立派なフロントシートを与えた。センターコンソールにはエンジンオイル計が付いている。ロータリーエンジンは消費量が多いためだ。

NSU Ro80と同様に、低回転域でのトルク不足とオーバーランを防ぐために、トランスミッションは3速のAT「Cマティック」が選ばれた。全体的に滑らかだがATは変速時に癖があり、急いで走るのは良くない。2速で128km/hまで出るから、街なかで運転する限りは2速でこと足りた。

ドライブフィールはスムーズで活気があり、回転数が上がる程にエンジンの調子が良くなっていく。通常のGSにはこのイキイキした感じはない。アンチロールバーと小さく軽量なエンジンのおかげで、ボディロールやアンダーステアも最小限。タイヤのスキール音も出にくい。

一番高級感の漂うNSU Ro80

NSU Ro80を運転しながら、シトロエンGSビロトールを追いかける。NSUに負けないペースで、ハイドロサスに浮遊するGSビロトールは走る。路面とは隔離されたしなやかな乗り心地はGS自体の素晴らしい特徴。GSビロトールは、ロータリーエンジンハイドロ・ニューマチックという珍しい技術を組み合わせた唯一の量産車ということになる。

ブレイクが所有するNSU Ro80は1969年製。ドイツ在住に在住していた新しもの好きの英国軍員に購入されたクルマで、1973年に英国にやってきた。オーナーは2002年に亡くなるまで大切にしていたという。

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NSU Ro80

わたしはRo80は美しいクルマだと思うが、実用的でピシッとしたインテリアの雰囲気とは、エクステリアが対照的。ダッシュボードはシンプルで、足元も広々した車内は心地よく、トランスミッションの出っ張りも殆どない。

走り出すと、この3台の中では一番静かで高級感がある。走行性能も悪くないが、一般的な当時のドイツ車とは一線を画す個性が宿る。ボディロールは外で見たほど大きくは感じられなかった。フックス製のアルミホイールを履き、乗り心地やグリップ力、制動力もすべてが良好だ。

サスペンションストロークも十分あり、路面のコブも物ともしない。ブレーキも強力でシトロエンよりも扱いやすい。NSU Ro80はカーブの連続する区間でも楽しく運転できるが、乗り心地やスタビリティの高さから、高速道路を長時間走行するようなスタイルがよく似合う。

丸目4灯のヘッドライトに4脚のビニルレザー・シート。エンジンにはスパークプラグが4本つくこのRo80は初期型。走行距離は12万2300kmで、欧州各地のNSUのミーティングへ自走し、これまでに1万6000km程を走行したという。

NSU Ro80の良さを広く伝えたいという思い

ブレイクはこのロータリーエンジンを積んだ「信頼性の低い」クルマをコレクションしていることに誇りを持っている。クルマの欠点を受け入れつつ、1960年代の偉大なクルマ、Ro80の良さを多くの人に知ってもらおうと活動している。

所有する沢山のNSU Ro80のうち、2台が外出用で2台はスペア。残りのクルマもレストア前提で保管してある。彼へうまく気持ちを伝えることができれば、そのうちの1台を譲ってくれたり、復元も手伝ってくれるかもしれない。

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マツダ・コスモ110SとNSU Ro80、シトロエンGSビロトール、オーナー

だが、マツダ・コスモ110Sと、シトロエンGSビロトールは、ブレイクが手放すとは思えない。売却意思の質問すらしなかった。

ロータリーエンジンを搭載した3台のスペック

マツダ・コスモ110S(1967〜1972年)のスペック

価格:新車時 2607ポンド(34万円)/現在 10万ポンド(1330万円)
生産台数:1206台(試作車を含む)
全長:4102mm
全幅:1581mm
全高:1156mm
最高速度:186km/h
0-96km/h加速:10.2秒
燃費:6.3−7.4km/L
CO2排出量:−
乾燥重量:958kg
パワートレインロータリー2ローター982cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:110ps/7000rpm
最大トルク:13.2kg-m/3500rpm
ギアボックス:4速マニュアル

NSU Ro80(1967〜1977年)のスペック

価格:1970年時 2444ポンド(32万円)/現在 1万2500ポンド(166万円)
生産台数:3万7402
全長:4782mm
全幅:1772mm
全高:1422mm
最高速度:180km/h
0-96km/h加速:12.6秒
燃費:5.6−7.0km/L
CO2排出量:−
乾燥重量:1196kg
パワートレインロータリー2ローター995cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:115ps/5500rpm
最大トルク:16.1kg-m/4500rpm
ギアボックス:3速セミ・オートマティック

シトロエンGSビロトール(1973〜1975年)のスペック

価格:1970年時 3000ポンド(40万円)/現在 3万ポンド(399万円)
生産台数:847台
全長:4120mm
全幅:1644mm
全高:1370mm
最高速度:175km/h
0-96km/h加速:13.3秒
燃費:7.0−7.9km/L
CO2排出量:−
乾燥重量:1140kg
パワートレインロータリー2ローター995cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:108ps/6500rpm
最大トルク:13.9kg-m/3000rpm
ギアボックス:3速セミ・オートマティック


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