原子力発電よりも安全かつ安価に大量の電力を供給できる……そんな触れ込みで研究・開発が進められている「核融合発電」。早ければ3年後には研究拠点である核融合科学研究所(岐阜県土岐市)で実用化に向けての基礎実験が開始されることが決まっているが、その仕組みはあまり知られていない。

核融合発電とは、水素の仲間の重水素三重水素トリチウム)の原子核をばらばらなプラズマ状態にし、衝突させること(核融合)で莫大な熱エネルギーを発生させるもの。

核融合に使う重水素と、トリチウムの元になるリチウムは、海水に含まれている。重水素わずか1グラムで石油8トン分に相当するエネルギーを取り出せるという、まさに“夢の次世代エネルギー”だ。

ちなみに、現実の世界での核融合は、太陽の燃焼と核兵器の一種である水素爆弾のみ。そのため、核融合発電は「地上の太陽」とも呼ばれている。

この核融合発電、実は世界では1950年代から研究が始められているのだが、いまだ実現していない。発電の実用化に至るまでには30年、あるいは100年かかるともいわれるシロモノである。その核融合発電を実現に近づけるべく、文部科学省が所管する核融合科学研究所が、基礎実験となる重水素実験を3年後に始めようとしているわけだ。

核融合科学研究所の竹入康彦教授が説明する。

「数十年後には石油もウランもなくなります。人類の選択肢は核融合発電だけです。重水素も、トリチウムの元になるリチウムも海水中に無尽蔵にある。安全性も高く、燃料注入をやめるだけで5秒以内に核融合は止まる。つまり、運転停止します。原子力発電のように暴走する恐れはなく、二酸化炭素も使用済み核燃料も出ません」

核融合発電に必要なプラズマ状態をつくるためには、密閉空間で高温、高密度にすることが必要になる。核融合科学研究所が計画している重水素実験では、1億2000万度の高温と、高密度の環境を真空容器内でつくり出す予定だという。

この14年間、すでに核融合科学研究所は水素を使ったプラズマ実験を行なっている。その結果、8000万度の温度は達成した。持続時間1時間弱のプラズマ形成にも成功している。重水素実験は、その“次の段階”というわけだ。

しかし、地元住民からは実験に反対の声も挙がっている。その理由について、竹入教授は言う。

「実験では、投入した重水素の約1万分の1の量が核融合を起こし、放射性物質トリチウムと中性子が発生するからです」

1万分の1の量とはいえ、放射性物質が発生するとなれば不安の声が上がるのも無理はない。だが、竹入教授は続ける。

「1回の実験で発生するトリチウムは400万分の1グラム、1億ベクレルです。年間積算で最大555億ベクレル発生しますが、90%以上は回収できます。回収できない分は外部に放出されることになりますが、極めて微量です。地元住民の皆さんの健康に影響が出るレベルではありません。実際、トリチウムは既存の原発でも生成され、排気塔から排出されているもので、影響はありません。そもそも、重水素実験自体はすでに1991年から日本原子力研究開発機構(茨城県那珂市)が、違う方式ではありますが『JT−60』という装置で数年前まで行なっていたもの」

真空容器を突き抜ける中性子についても、2mの厚さがあるコンクリート壁で遮蔽(しゃへい)するので、外に漏れる心配はほとんどないという。

だが、地元住民の不安がそれで消えるわけではない。果たして、本当に“夢の次世代エネルギー”なのか、それとも大きな危険をはらんだ“第二の原発”なのか……。今後もしっかり監視していく必要があるだろう。

(取材・文/樫田秀樹)

■週刊プレイボーイ20号「核融合発電は“第二の原発”か!?」より