初のW杯ベスト8進出を果たしたラグビー日本代表 サッカー界は“先を越された”感がある

 サッカーラグビーは、もともと同じ「フットボール」だった。FA(サッカー協会)設立の話し合いの途上で意見が分かれ、脱会したグループがラグビー協会を立ち上げることになった。議論が分かれたのは、「ハッキング」(相手の脛を蹴って撃退する行為)を認めるか否か。ところが、ハッキングを禁止したはずのサッカーでは依然として(ファウルではあるが)この手の行為が行われているのに、ラグビーハッキングが残っていないのは不思議で、皮肉でもある。

 ラグビーは「協会主義」なので、代表チームには外国籍選手も含まれている。居住年数などの条件はあるものの、どの国の人でも日本代表選手になれる。サッカーも英国4協会が残っているように、国=協会ではないが、英国のケースは既得権であって、実質は一国一協会。その国の国籍がなければ代表選手にはなれない「国籍主義」である。

 ラモス瑠偉、呂比須ワグナー、三都主アレサンドロなど、ブラジル出身選手が日本代表でプレーしてきたが、彼らは全員日本国籍を取得している。ラグビーのほうは日本国籍でない選手もいる。外国籍選手の数は日本だけが突出しているわけではなく、同じくらいの外国籍選手が各国代表に選ばれている。

 ラグビー日本代表は、自国開催のワールドカップ(W杯)でベスト8入りした。強豪のアイルランドスコットランドも破った。大会規模が違うとはいえ、サッカー日本代表は先を越された感がある。単に成績だけでなく、チームのあり方としてラグビーの背中を追うのだろう。

 ラグビーはFWの力が、かなり勝敗に影響する。強くて重い選手が必要なポジションが最重要ということは、日本が世界で勝ち抜くことはないだろうと思っていた。FW戦が不利なので、日本代表は他に活路を見出そうとしているように見えた。

 この世界との向き合い方はサッカーと似ている。JFA日本サッカー協会)が唱えている「ジャパンズウェイ」は、ラグビー日本代表を率いたエディ・ジョーンズ監督(現ラグビーイングランド代表監督)が言い出したものだ。とはいえ、外国籍選手の存在は大きかったに違いない。ラグビー日本代表に「日本らしさ」はあったかもしれないが、むしろ「日本らしさ」を超えたから強豪に勝てるようになったのだと思う。

“多様化”が進む世界、人種の共存の仕方こそが「フランスらしさ」

 サッカーはまだ「日本らしさ」の段階にある。外国籍選手を起用して体格差を埋めることはできないので、この点はラグビーの真似はできない。日本人の良さを活用して勝機をつかもうというレベルである。しかし、サッカーでも強いチームの多くはすでにラグビー並みに“多様化”しているのだ。

 フランスは言うに及ばず、ベルギーや多様性の老舗であるブラジル、多様化では出遅れていたドイツイングランドでも様々な出自の選手が取り込まれるようになった。これらの国々は、いったん古いアイデンティティーの解体を余儀なくされている。

 例えば、「フランスらしさ」とは何か。もともと三代遡れば外国人という国で、フランス人らしさを求めるのはナンセンスだった。オリジナルのフランス人と言われるゴール人の気質を云々したところで全く意味はない。フランスという国家で暮らす、多様な人種の共存の仕方こそが「フランスらしさ」だ。2010年南アフリカW杯での移民系選手の反乱と分裂という危機を経て、ディディエ・デシャン監督が世界一を獲るに至る過程で得た教訓は、「とにかくまとまれ。それ以外に道はない」だった。

 ゲルマン魂もジョンブル魂も関係がない。「代表チームは○○人」であることに意味を見出す時代ではなく、多様な人々がいかに共存し結束するかの競争になっているわけだ。その点で「フランスらしさ」は、「ドイツらしさ」であり、「イングランドらしさ」でもある。

 ラグビーの「日本らしさ」も、「日本人らしさ」とイコールではない。そのせいか「日本人の誇り」という称賛にはやや違和感があって、せいぜい「日本の誇り」か、単純に選手ないしチームが素晴らしいということでいいのではないか。ラグビー日本代表はサッカーフランス代表やベルギー代表と同じ場に立っていて、選手がすべて外国籍でもファンはおそらく日本代表を応援するはずだ。

 サッカー日本代表は、まだその場にいない。いずれそうなるかもしれないが、現在はまだ(まあ幻想なのだが)単一民族・日本人のチームだ。日本人らしいサッカーをやるほかない。

欧州で戦う選手が「日本人らしさ」の郷愁とともに団結する図は麗しいが…

 ただし、日本人らしさの追求は強化の本質ではなく、世界一を狙うならそれに相応しいサッカーをやらなければならないのは自明である。とっくに多国籍化しているヨーロッパのクラブチームを見れば分かるはずだ。すでに現在の日本代表は、「日本人らしさ」の呪縛から逃れる過程にあるとも感じる。代表選手の大半が欧州組だからだ。

 純粋な競争の場であるヨーロッパのクラブでプレーする選手たちが集結し、自分たちの根本にある「日本人らしさ」を確認しながら国際競争に伍していくチームを形成する――ここまでが現在のサッカー日本代表にやれることになっている。ある意味、とてもチーム作りがやりやすい時期かもしれない。インターナショナルな舞台で技を磨いた選手が集まり、外国で感じる日本の良さ、日本人らしさの郷愁とともに団結するという図は、なかなかに麗しい。それで世界のトップに手が届くとは思えないが、今が一番美しい時期のような気もする。(西部謙司 / Kenji Nishibe)

ラグビー日本代表(上)とサッカー日本代表【写真:Getty Images & Noriko NAGANO】