青春の1ページをもう一度
使い古された表現で恐縮だが、今回は「まるで新車のような」とか「タイムスリップ」という表現がよく似合う。
トヨタ・セリカXX 2000GT、ボディカラーは象徴的な白、ギアボックスは5速MTである。
1985年式というからA60型セリカXXの後期型ということになる。走行8万4000km、年式を考えれば低走行といえるこの個体のオーナーは張建中さん。今年55才というから、A60型セリカXXは氏にとって青春ど真ん中の1台と言えるのだろう。
「免許を取って最初のクルマがXXだったんです。当時はいいクルマを持っていないと女の子にモテないという時代でしたから」
だが今なお根っからのクルマ好きだという張さんは、ヒット曲を編集した「ベストテープ」を流しながら愛車をデートカーとして使用するのではなく、もっぱらチューニングから最高速の方面に傾倒していった。
「HKSのボルトオンターボを組み込んで320psにして、オプション誌の谷田部最高速アタックなんかにクルマを提供して楽しんでいました」
氏が現在所有しているXXは当時の「バリバリ最高速マシーン」そのものではなく、数年前に程度の良い個体を見つけて買い直したものだという。
かつての憧れの1台、もしくは手放してしまったファーストカーをもう一度、というのは誰にでもある感情だと思う。
全身これノスタルジー
張さんのセリカXXはインテリアのコンディションもすばらしい。
当時の国産車の室内はバーガンディ(エンジ色)一色というイメージだが、今回のXXのそれはいくぶん茶色がかった上品なもの。
手動で8WAY調整を実現したヘッドレスト一体型のシートも、座り心地、ホールド性ともに優れている。
昨今の2+2シーターのリアシートはかなりキツいものが多いが、XXのそれはちゃんと使えそうなスペースだった。
樹脂一体成型のダッシュボードやステアリングの表面には現代ではありえないステッチ風の型押しが入っていて、ノスタルジーを醸し出している。
シフトレバーの根元には、オーナーが後付けしたコインホルダー(!)なんかもあって、時代を感じさせてくれる。
走り出す前にボンネットを開けてもらった。車体の前後に掲げられている「TWIN CAM24」を確認しておきたいと思ったのだ。
2Lの直6DOHC 4バルブ・エンジン、トヨタ1G-GEである。
エンジン前方の樹脂製カバーには型式の他に、このエンジンを実際に開発したYAMAHAの名前も刻まれている。
吸気マニフォールド上の「T-VIS」は可変吸気システムを指す。厳しい排ガス規制を乗り越えたネオクラシック車のエンジンは、インジェクション以外に、燃焼に関する様々な技術が盛り込まれているのである。
1980年代の高性能、いまなお健在
アパートの玄関キーのようなイグニッションキーを捻り1G-GEを始動。軽めのクラッチ、シフトレバーを操作して走りはじめる。
スポーツカーとして考えると音は静かな方で、サスペンションもよく動いて乗り心地もいい。
直6エンジンの最大のメリットは振動の少なさにあると言われるが、実際に1G-GEユニットは「完全バランス」という言葉が似合うほど振動が少なく、モーターのようにシュンッと軽く吹け上がる。
最高出力は2.8L版は170ps、24.5kg-mのトルクに対し、2L版は160ps、18.5kg-mなのでパワーがあり余るという感じではない。
それでも80年代のクルマ好きに日本製の高性能エンジンの凄さを十二分に伝えることができていたのだと思う。
今回は古めのオーナー車ということで、軽く流して走った程度に過ぎなかったが、それでも素直なハンドリングは十分に伝わってきた。
鋭く高回転まで回るエンジンと素直なFRシャシーの組み合わせなら、CMで見せたアクロバティックな走りもノーマルのまま再現できたに違いない。
かつて日産がV6にこだわったのに対しトヨタは直6にこだわった。BMWと組んで完成させた現行のGRスープラもまた、直6搭載の上級スポーツカーというポジショニングを忘れていない。
今年で34歳になる白いセリカXXは、現代のGRスープラへと続くレベルの高いスタート地点だったのである。
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