トヨタ自動車スバルに追加出資し、同社を持分法適用会社にすることが明らかとなった。トヨタ2017年マツダと資本提携し、今年(2019年)の8月にはスズキとの資本提携も発表している。国内の弱小自動車メーカーはすべてトヨタに吸収されていくという図式だが、トヨタにすべてを抱え込む余裕はあるのだろうか。(加谷 珪一:経済評論家

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EV時代、小さいメーカーは圧倒的不利に

 現在、トヨタスバルの株式を17%保有しているが、これを20%以上に引き上げて持分法適用会社とする。スバルトヨタの株式を保有し相互出資するが、実質的にスバルトヨタに取り込まれることになる。

 よく知られているように、スバルは旧陸軍の戦闘機「隼(はやぶさ)」の開発・製造を行った中島飛行機ルーツとした企業であり、航空機を製造していたメーカーのこだわりから、水平対向エンジンという特殊なエンジンを軸に製品開発を行ってきた。このためスバルクルマには独特のコンセプトがあり、一部の熱狂的なファンを獲得してきたという経緯がある。

 スバルはニッチメーカーとしてキラリと光る存在だったわけだが、世界シェアの低さと独自の技術体系は、コモディティ化が進む市場では逆に不利になる。同社はこれまで日産、米ゼネラル・モーターズ(GM)、いすゞなど、各社との提携を模索してきたが、技術の独自性がネックとなり、どれもうまくいかなかった。最終的にトヨタが資本参加し、トヨタの下で独自路線を模索したものの、とうとう今回の持分法適用によって完全にトヨタに組み込まれることになった。

 スバルは、販売のほとんどを北米市場に依存しており、北米市場の環境で業績が大きく左右される。リーマンショック以後は、絶好調の北米市場に支えられ、まずまずの業績を維持してきたが、北米市場はもはや頭打ちである。主力市場の中国シフトが確実視されており、スバルを取り巻く環境は年々厳しくなっている。

 スバルに限らず、今後の自動車市場で生き残るためには、EV(電気自動車)と自動運転技術を確立することが必須の要件だが、スバルはEVの領域で大きな遅れをとっている。

 EV化が進む市場では、自動車の製造コストが大幅に低下するので、1台あたりの付加価値も下がる。市場シェアが最も重要な経営ファクターとなるのは確実であり、規模の小さいメーカーは圧倒的に不利になる。業界では、独フォルクスワーゲン(VW)、仏ルノー・日産連合、トヨタグループ、米GMの上位4社以外は生き残りが難しいとさえ言われる。

 独自路線を追求したくても、市場環境がそれを許さないというのがスバルの現実であり、トヨタの傘下入りはやむを得ない選択と言ってよいだろう

トヨタは水平分業体制にシフトできるのか?

 トヨタは同様に、マツダスズキグループに取り込んでいるが、各社がトヨタに駆け込むのはすべて同じ理由である。マツダも個性あるクルマ作りでファンを囲い込んできたが、スバルと同様、売上高が3兆円台と、グローバル市場では零細企業に過ぎない。スズキの経営規模もほぼ同様であり、コモディティ化する市場で独自に事業を展開する余力は残っていない。

 日本国内では、独立系の自動車メーカーはもはやホンダくらいしかなく、日産を除く各社をトヨタが次々と吸収していくという図式になっている。市場シェアがカギを握る今後の自動車業界を考えた場合、トヨタにとっても、各社を取り込むメリットそれなりに大きいが、問題はその先である。

 前述のように自動者産業は内燃機関からEVに基本技術がシフトしているが、これは産業構造の根本的な変化を意味している。EVにおける基幹部品はバッテリーモーターだが、これらは完全にコモディティ製品であり、特定メーカーによる寡占市場になりやすい。実際、バッテリーは中国メーカーの独壇場となりつつあり、トヨタも含め各国の自動車メーカーは中国の電池メーカーとの戦略提携に追われている状況だ。

 こうした市場環境において、多くの部品メーカーを傘下に抱える垂直分業体制を維持することは難しく、IT業界のような水平分業体制へのシフトはほぼ必至である。

 つまり自動車メーカー各社はシェアを重視した経営方針に舵を切ると同時に、グループ各社の組織を一気にスリム化していく必要があるのだ。極論を言えば、設計とマーケティング、販売、サービス以外のビジネスレイヤーはすべて外注するくらいの思い切りが必要となるだろう。

 だが、その点において、トヨタは他の主要3社(VW、ルノー日産、GM)として比較して不利な状況にあり、今後の事業展開が不安視されている。

トヨタとVWの最大の違いとは

 VWもトヨタと同様、グループ内に、ポルシェベントレーランボルギーニなど、ニッチな製品戦略をウリにする小規模メーカーを抱えており、各社はVWグループに所属しながら独自の製品展開を行っている。同様に、マツダスバルスズキトヨタグループに入りながら独自路線を追求するという戦略を描くことは理屈上は可能かもしれない。

 だが、設計や開発における共通化を地道に進めてきたVWと比較すると、トヨタの取り組みはこれからということになる。しかも、両グループを比較すると傘下に抱えるニッチ企業の付加価値の源泉は大きく異なっている。

 今後、自動車市場のEVシフトが進んだ場合でも、超高級車市場はそれほど大きな影響を受けない可能性が高い。その理由は、付加価値の源泉が、車両そのものではなく、クルマブランドだからである。

 空冷エンジンという独特の技術を用いていたかつてのポルシェであればEV化の影響は大きかったかもしれないが、現在のポルシェの付加価値は、技術ではなくブランドにある。ランボルギーニブランド商売の典型であり、EV時代には、驚異的な運動能力を発揮するよう、バッテリーモーターチューニングすればよいだけだ。

 一方、マツダスバルの場合、大衆車が中心で、しかも内燃機関に起因する技術が魅力の源泉となっていることから、EV時代における事業展開は容易ではない(スバルの場合には水平対向エンジンマツダの場合にはクリーンディーゼルやかつて開発していたロータリーエンジンなど)。

トヨタが示すべきグループ戦略の方向性

 これに加えてトヨタは、グループ内に抱える重量級の部品メーカーをどう処遇するのかという極めて大きな課題を背負っている。

 トヨタは良くも悪くも、垂直統合モデルの頂点に立つ企業であり、デンソー(電装系を主に担当)、アイシン精機(主にトランスミッションなどを担当)、曙ブレーキ工業など、高い技術を持つ重量級の部品メーカーを囲い込んできた。こうした強固な垂直統合モデルトヨタの品質を支えてきたといってよいだろう。

 だが水平統合時代には、こうした部品メーカーを抱えていることは逆に不利な条件となりかねない。

 ドイツや米国では、多くの部品メーカーがM&A(合併・買収)によって規模を拡大し、自動車メーカーとの関係を再構築している。独ボッシュやカナダ・マグナグループといった巨大自動車部品メーカーは、その気になれば完成車を製造できる能力を有しており、水平分業時代においても、どこかのレイヤーにおいて一定のシェアを確保できる可能性が高い。完成車メーカーも部品メーカーという重荷がなくなっているので、水平分業時代にはその気になれば最上位レイヤーに特化することも不可能ではない。

 日産は傘下の主力部品メーカーであるカルソニックカンセイを売却するなど、欧米型の水平分業モデルへのシフトを進めてきたが、トヨタにはこうした動きがまったく見られない。

 実はトヨタは、傘下の部品メーカーと株式の相互持ち合いを行っており、簡単には関係を解消できないという事情がある。このため、各社に対して自動運転技術の開発など、新時代に対応した技術開発を依頼するという状況になっているが、組む相手を最初から決めてしまうというやり方は、水平分業時代においてはマイナス要因となりかねない。

 一部からはデンソーとアイシン精機の統合という話も出ているようだが、グループ内での統合に終始していては、トヨタ依存という図式から脱却することは難しいだろう。

 トヨタは最後の駆け込み寺として、マツダスズキスバルといった完成車メーカーを飲み込み、傘下の巨大部品メーカーも丸抱えしているように見える。

 数多くのパソコンメーカーが消滅したIT市場を見れば一目瞭然だが、水平分業化が進む業界において肥大化路線を突き進むリスクは極めて大きいトヨタは近いうちに、グループ戦略の方向性について、市場に説明する必要に迫られるだろう。

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