対トルコの「咆哮外交」は成功したのか

 米国のドナルド・トランプ大統領自身が「型破りな手法」と言ってのけたシリアを巡る一連の言動に世界が振り回されている。

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 過激派組織イスラム国(IS)掃討作戦で共闘したクルド人勢力を見捨てたかと思いきや、米議会の与野党、世論からの「クルド人を見捨てた」と批判が噴出すると態度を一変。

 今度はクルド人勢力を攻撃する同盟国トルコに制裁をちらつかせて「みせかけの停戦」(ナンシー・ペロシ下院議長)と引き換えに制裁を撤回。

 ところが大統領自身は、「こうした型破りの手法でなければ合意は達成できなかった」と自己弁護に終始している。

 米メディアはこのトランプ外交を「咆哮戦略」(Shout-it-out loud Strategy)と呼んでいる。

 中長期的な戦略などない、大声で怒鳴り散らすだけの思いつき外交の繰り返し。

 国際的視野に立って外交戦略を考えるブレーン不在。国務、国防両省や情報機関のキャリア官僚たちは皆そっぽを向いたままだ。

 はっきりしていることは、トランプ大統領自身、シリア情勢、いや再選に直接つながらない外交などはどうでもいいということ。

 一言で言えば「心ここにあらず」。

 大統領の脳裏を駆け巡っている煩悩はただ一つ。いかにしたら「ウクライナゲート疑惑」から逃れることができるか、にある。

ロシアゲート疑惑」では大統領を追い詰めることができなかった民主党は、今度は真剣だ。

 民主党ホイッスルブロワー(内部告発者)による「ウクライナゲート疑惑」発覚を踏まえ、下院情報委員会(アダム・シフ委員長)を軸にした「弾劾調査」に本腰を入れている。

 すでに「ウクライナ疑惑」に直接、間接関わり合いを持っていたトランプ政権のキャリア外交官たち(マイク・ポンペオ国務長官らは召喚を拒否)を召喚し、「秘密聴聞会」を断続的に行っている。

 その内容がリークされ、主要メディアが連日のように報じている。

「秘密聴聞会」なのは「召喚されている証人の発言が他の証人に分からないようにするため」(シフ委員長)だ。

 だが秘密聴聞会でのやり取りが間接的な形で伝えられても世論的にはインパクトは限られている。米国民がテレビで直接見られれば弾劾への動きは国民を巻き込んで一気に加速するだろう。

 シフ委員長10月16日、下院議員たちに書簡を送り、これまで召喚した官僚たちとの質疑応答を公開すると記し、さらに「適当な時期に聴聞会を公開にする」と明言した。

 1973年ウォータゲート聴聞会がいよいよ再現される雲行きになってきた。

マルバニー首席補佐官
見返りの事実認める

 危機感を強めているトランプ大統領10月17日、遊説先のテキサス州ダラスでの支持者集会で民主党をこき下ろした。口を突いて出るのは恨みつらみと自己顕示だ。

民主党が議会でやっていること(弾劾調査)は気違い沙汰(Crazy)であり、反愛国的(Unpatriotic)だ。民主党2016年大統領選の結果を書き換えようとして必死なのだ」

民主党との戦いはデモクラシーの存亡をかけた闘いだ。皆さん、自分を偽ってはいけない。米国民が目標を達成すればするほど、腐敗した民主党はますます怒り狂っている」

民主党の面々には愛国心などない。私はそれをひしひしと感じている。私は過去3年間でそれまでに成し遂げられなかった『米国第一主義』を実現した。政治歴たった3年で実現したのだ」

 大統領が留守のホワイトハウスでは、トランプ大統領の意を受けたミック・マルバニー大統領首席補佐官代行(行政予算管理局長兼務、元上院、下院各議員)は同日、記者会見を行った。

 同氏は、ホワイトハウス高官としては初めて公式に「ウクライナ疑惑の事実の一部」を認めた。

「はっきりさせておきたいのは、対ウクライナ軍事援助*12016年の米大統領選挙に関する調査との間に『見返り』(quid pro quo)などは一切なかったということだ」

「外交交渉には『見返り』はつきものだ。これまでの政権でも『見返り』は外交上常に行われている。しかも対ウクライナ軍事援助については米議会がすでに承認した事案だ」

「選挙時の民主党全国委員会のサイバーに関して不正行為があったかどうか、ウクライナ側に調査を依頼したかどうか。(不正疑惑があったからこそ)だから米政府は軍事援助を凍結していたのだ」

「そのことと、当時民主党大統領指名でトップに立っていたライバルジョー・バイデン前副大統領とその息子)を調査してほしいというウクライナ大統領に対するトランプ大統領の要請とは全く別次元の話だ」

*1=トランプ大統領7月25日ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との電話でバイデン前副大統領の息子(不正疑惑のあったウクライナエネルギー企業「ブリスマ」の役員をしていた)の「違法行為」是非について調査するよう要求。その「見返り」として凍結している4億ドルの対ウクライナ軍事支援を実施すると述べていた、とされる。

召喚状を送られた証人は目下11人

 前述のように下院情報委員会は「適当な時期」にすでに召喚状を出しているトランプ政権の高官や側近たちを次々に呼び出して公開の聴聞会を予定している。

 下院外交、監視・政府改革各委員会も追従するものと見られている。

 名前の上がっている証人はすでに秘密聴聞会で証言した政府現・前高官、民間人の大統領側近を含め以下の通りだ。

ルディ・ジュリアーニ氏*2トランプ大統領の個人弁護士、元ニューヨーク市長)

レブ・パリアス氏(ジュリアーニ氏のアソシエイト)選挙資金法違反容疑ですでに逮捕

イゴア・フルマン(ジュリアーニ氏のアソシエイト)選挙資金法違反容疑ですでに逮捕

*2=トランプ大統領による大統領特権を行使して証言を拒否している。パリアス、フルマン両氏も大統領特権により証言拒否。

セミヨン・サム・キスリン氏(ジュリアーニ氏のアソシエイト)

フィオナ・ヒル氏(元国家安全保障会議ロシア担当補佐官)キャリア外交官

ジョージケント氏(欧州担当国務次官補代理)キャリア外交官

マイケル・マッキンリー氏(前ポンペオ長官上級補佐官)

ゴードン・ソンドランド氏(前欧州連合=EU=担当米大使)

ウルリッチ・ブレッチバール氏(国務省顧問)

ローラクーパー氏(国防次官補代理)

マリー・ヨバノビッチ氏(前ウクライナ駐在米大使)

ジョン・ボルトン前国家安全担当補佐官*3

*3=まだ正式な召喚状は出されていないが、10月17日のソンドランド氏の証言でボルトン氏の言動が明かされたため召喚されるのは必至。

支持基盤のエバンジェリカルズ
弾劾調査支持5%アップ

 このほか召喚状は出ていないが、関係書類の提出を要求されているのは、マイク・ペンス副大統領ラッセル・ボウ行政予算管理局次長、マルベリー大統領首席補佐官代行、リックペリーエネルギー長官と国防総省対外軍事援助担当部門だ。

 こうした下院各委員会の動きにトランプ大統領はシポローネ大統領顧問を通じて書簡を送り、「弾劾調査は憲法上の正当な根拠、公正さを完全に欠いている。このような状況下担当者を党派的な調査に参加させられない」と強調している。

 大統領は今後政府関係者の議会証言をボイコットするために大統領特権を乱発するスタンスを崩していない。

 関係者への召喚の是非を巡ってトランプ大統領民主党との対決は先鋭化するのは避けられない情勢だ。

 議会担当の米主要紙のベテラン記者は今後の動きをこう予測する。

ロシアゲート疑惑では大統領を支持していた共和党議員の中にもウクライナゲート疑惑では動揺が広がり始めている」

「各種世論調査でも大統領の弾劾調査を支持する人が50%を超えている」

「保守系フォックスニュース10月世論調査では、トランプ支持の岩盤だった宗教保守のエバンジェリカルズの弾劾調査支持者が7月時点に比べると、5%アップ

「白人高卒未満層では8%上昇している」

https://www.foxnews.com/politics/fox-news-poll-record-support-for-trump-impeachment

「弾劾調査支持は今後増えることはあっても減ることはなさそうだ。秘密聴聞会でもその直後には内容がメディアにリークしている」

トランプ大統領としては四面楚歌状況下で大統領特権を行使して政府高官や側近の召喚を拒否し続けるられるだろうか。これには限界がある。」

「晩節を汚す」公算大
かつての名市長・ジュリアーニ氏

「秘密聴聞会での側近たちの証言を許せば外堀が埋められる。『ウクライナゲート疑惑』を立案し、大統領に進言し、実際に取り仕切ってきた張本人は、トランプ氏の個人弁護士を務めるジュリアーニ氏だ」

「シフ下院情報委員長ジュリアーニ氏に照準を合わせている。ジュリアーニ氏といえば、約8年間ニューヨーク市長を務め上げ、その間暗黒街にメスを入れて凶悪犯罪の撲滅や治安改善に大きな成果を挙げた名市長だ」

「また2001年の世界同時多発テロ事件発生時にはジョージ・W・ブッシュ大統領と共にテロとの戦いを宣言し、その活躍ぶりは映画にもなっている」

「同氏がトランプ氏の個人の顧問弁護士になったのは2018年4月。まだ日は浅いが、2020年大統領選の再選戦略立案の中心的人物と目されていた」

「『ウクライナゲート疑惑』もバイデン民主党大統領候補に揺さぶりをかける陰謀の一つだったのだろう」

 これまでに報道されているところでは、ジュリアーニ氏はバイデン氏の息子ハンター氏が役員になっているウクライナの「ブリスマ」が違法活動を行っているとの情報に目をつけ、大統領に報告。

 ハンター氏のウクライナ・コネクションをネタに2020年大統領選に立候補しているバイデン氏にダメージを与えるという戦略だったと米メディアは報じている。

 ジュリアーニ氏自身、ウクライナ政府関係者に接触し、この違法活動を徹底調査するよう依頼する一方、トランプ大統領にはウクライナのゼレンスキー大統領に直接要求するよう助言していたとされる。

 これを受けてトランプ大統領7月25日の問題の電話でゼレンスキー大統領に調査を要求、その「見返り」として凍結している4億ドルの軍事援助を再開することを約束していたという。

 その間、大統領の許可を得たとして駐ウクライナ米大使をはじめ国務省当局者を動員していたとも言われている。

 ジュリアーニ氏が議会の聴聞会に引っ張り出されれば、宣誓して証言せねばならない。偽証すれば偽証罪。

 真相を明かせば、「大統領の犯罪」を認めることになるのか。あるいはすべて自分の責任でやったことだと言って大統領を守れば、法的処罰が待っている。

 かつてのニューヨークの名市長も75歳にして晩節を汚しかねない状況が刻一刻と近づいている。

ボルトン氏:
「ジュリアーニは手榴弾を持っている」

 公開の聴聞会が開かれれば、もう一人注目される証人がいる。9月に解任されたジョン・ボルトン前国家安全保障担当補佐官(70)だ。

 ついこの間まで軍事外交面では大統領ストレートな助言をしてきたボルトン氏だが、対北朝鮮や対イラン政策であまりにも強硬すぎるスタンスを採ったことが災いとなって解任されてしまった。

 ただ、トランプ大統領の選挙戦略や政治戦術ではポンペオ長官らインナーサークルに入れてもらえず、まさに蚊帳の外だった(そのため今回の「ウクライナ疑惑」を巡るスキャンダルとは無縁になっているわけだ)。

 ところが10月14日に行われた秘密聴聞会でヒル前国家安全保障ロシア担当補佐官がボルトン氏の発言を暴露したことからにわかに脚光を浴びたのだ。

 ボルトン氏はジュリアーニ、マルバニー、ソンドランドの3氏が対ウクライナ軍事援助をネタにハンター・バイデン氏の違法容疑をウクライナ政府に調査させようとする企てを知り、こう警告していたと言うのだ。

「私はこの『麻薬取引』には関わり合いをもたないぞ。ジュリアーニはみんなを木っ端微塵にする手榴弾を持っている」

https://www.nytimes.com/2019/10/14/us/politics/bolton-giuliani-fiona-hill-testimony.html

 ボルトン氏は国際関係・外交専門家であると同時にエール法科大学院で法学博士号を取得している法律家

 軍事援助という外交上重要な切り札を大統領が自らの政治目的と取引していることに警鐘を鳴らしていたのだ。

 このボルトン発言はジュニア―ニ氏やマルバニー氏が背後でどのように暗躍していたかを示す「証拠」になる可能性がある。

 ボルトン氏は、ネオコン(新保守派)として古くはイラク侵攻を提唱、トランプ政権でも対北朝鮮に対する軍事行動も含む強硬策を唱えた超タカ派。その結果、対北朝鮮政策では大統領と意見衝突し、解任されてしまった。

 解任については主要メディアも当然のごとく報じた。見方によっては「晩節を汚した」ともいえる。

 だが、ここにきて「ウクライナゲート疑惑」が画策されている最中、「正論」を述べていたことが明らかになった。汚名を晴らすチャンスともいえる。

 シフ委員長らがこれを見逃すわけがない。ボルトン氏の証言が「ウクライナゲート疑惑」解明の重要なカギを握るとみているようだ。

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