「DNAの証拠が出たなら仕方がない。いつかはこういう日が来て、俺のやったことがバレると思った」

 10月1日、約30年間も未解決だった韓国犯罪史上最悪の「連続強姦殺人事件」を引き起こした李春在(56)は、釜山の刑務所DNAの鑑定結果を警察当局に突き付けられると、こう言って観念したという。

 1986年から1991年にかけて、のどかな農村地帯だった京畿道華城郡(現・華城市)一帯で起きた同事件は、カンヌ国際映画祭グランプリ監督・奉俊昊によって2003年に映画化(邦題『殺人の追憶』)され、日本でも大ヒットを記録した。映画の題材となった事件は、5年間で計10件発生。10代から70代の女性が次々に強姦され、首を絞められて殺害されたのである。

 韓国国民を震撼させたのは、その異常な手口だ。
「被害女性が身に着けていた下着類で手を縛ったり目隠しをしたりして自由を奪い、強姦した後に、陰部に物を詰めるなどの手口が共通していました」(ソウル在住の韓国人記者)

 お見合い帰り道で襲われた2人目の被害女性(当時26)は、着用していたストキングで後ろ手に縛られ、用水路の中で全裸の遺体となって見つかった。

 3人目の被害女性(当時25)は、履いていたガードルを口に突っ込まれ、白いパンティーを頭に被せられていたという。
「李は、被害者の下着を破いて、わざわざつなぎ合わせて縛るという執着も見せていました」(同)

 4人目は赤いツーピースを着た、結婚を控えた当時22歳の女性だった。両家の顔合わせを終えて帰宅する途中、バスを降りたところで襲われたのだ。彼女は、いったん全裸にされて強姦され、再び服を着せられていた。その後、ストッキングで縛られ、パンティーを頭から被せて目隠しをした状態で発見されている。

 次第に犯行はエスカレート。現場からは、被害女性の体を傷つける際に使用した「血まみれの傘の柄」なども見つかった。

 9人目の被害者となった当時14歳の女子中学生も、手足を縛られた揚げ句、ブラジャーを口に詰められ、ボールペンフォークで体をひどく傷つけられていた。
「女性への攻撃はすべて生きている状態で行っていたようです。映画では、女性の陰部から、いくつも桃の欠片が見つかるシーンがあり、犯人の猟奇性を際立たせていましたが、次第に国民の怒りは、事件を解決できない警察に向けられるようになりました」(同)

 警察は延べ200万人を超える捜査員を投入し、疑わしい人物を片っ端から引っ張り、拷問もいとわない激しい捜査を行った。これにより、一方的に容疑者扱いされた3人が自殺し、1人は拷問の後遺症で死亡したほどだという。

 当時、韓国は軍事政権下で民主化運動の真っ只中。警察はデモの鎮圧などに忙殺される中、捜査にあたっており、その手法は信じられないほどずさんだった。
「映画でも描かれていますが、警察は犯行現場に〈自首しなければお前の手足は腐る〉とか〈お前はいつか捕まり殺される〉というメッセージを刻んだカカシを立てたり、占い師に頼ったりと、めちゃくちゃだった。当時は科学捜査の技術も発達しておらず、被害女性の体内から何度も精液が検出されていたにもかかわらず、事件を解決できなかった。その自責の念から自殺した刑事も出たほどです」(同)

 事実、李は何度か警察の取り調べを受けながら、捜査の網をかいくぐって犯行を続けていたというのだ。

 李は、1963年に華城市で生まれた。高校を出て、徴兵制度で軍に入隊した後の1986年1月、同市内の電気部品を扱う会社に就職。一連の事件後、李は清州に引っ越し、1992年に結婚していた。
「平素は静かだが、一度スイッチが入ると非常に暴力的になり、手がつけられなくなるタイプ。性的な倒錯もひどかった」

 元妻は、李の人柄をこう評する。彼女は、下血するほどのひどい暴力を李から振るわれ、まだ1歳に満たない息子も部屋に閉じ込められてアザができるほど殴られていたと証言している。

 耐えかねた元妻が、結婚から2年も経たずに離婚を切り出すと、「再婚できないように入れ墨を入れてやる」と脅してきたという。さらに、元妻の妹(当時19)に睡眠薬を飲ませて強姦し、鈍器で殺害したのだ。
「この義妹の死体もストッキングで縛られていました。李は、この義妹強姦殺害の罪で逮捕され、無期懲役の判決を下されて釜山の刑務所に収監されているのです」(前出・韓国人記者)

 捜査当局は、過去に残された証拠品から新たに検出されたDNAを、現在韓国で収監されているすべての受刑者と照らし合わせ、李を特定した。

 当初は関与を認めなかったというが、李が別件で逮捕されていた時期には事件が起こっていないなどの状況証拠も突き付けられ、ついに自白。現在は、自身の性的倒錯について「小学生の時に近所の年上の女性に強姦された幼児虐待のせいだ」と主張している。
「その後、別の未解決事件なども自白し、殺人の被害者は15人に上ることが判明しています。単純強姦も30件以上分かっていますが、残念ながらすべての事件が2003年に時効を迎え、李が追加で法の裁きを受けることはありません」(前出・韓国人記者)

 DNAの一致から9回にわたる取り調べを受ける中、聞き取りをしていた女性プロファイラーに向かって、李はこうつぶやいたという。
「綺麗な手だ。触ってもいいか…」