東京・世田谷区にある築50年を越えるマンションの大家をしているアサクラさんは「築古マンションを管理・経営するには手間もお金もかかり、賃貸マンションは不労所得だとはとても思えません」といいます。
ただ部屋を貸しているように見えても、そのサービスを維持するための細々とした仕事もあります。

それでも、アサクラさんがマンションを経営しているなかで唯一「これって不労所得かも」と思い当たるものがあるそうです。それが、携帯電話基地局の設置に伴う賃料収入です。一体どういうものなのでしょうか。

不労所得?携帯電話基地局はマンション最強の副収入だった

屋上活用法はどれも決め手に欠く印象

屋上菜園

camera111 / PIXTA(ピクスタ)

うちのマンションの屋上は、かつては貯水タンクが設置されていたりもしましたが、現在は地下に移設したため、何もないがらんとした空間となっています。
子どもの頃、屋上で遊んだ記憶はありますが、時代の移り変わりとともに安全管理の問題が重視されるようになり、入口は施錠されたままになっていました。

屋上スペースの活用は、マンション経営においてしばしばトピックに挙がります。

太陽光発電、物置小屋、屋上菜園、入居者のレクリエーションスペース……などいろいろと事例はあるようですが、費用対効果や安全管理や騒音に伴うご近所トラブルのリスクなどを考慮すると、どれも決め手に欠く印象でした。

何かよいアイデアはないかとぼんやりと思っていたある日、一本の営業電話がかかってきたのです。

うちが携帯基地局の候補地に選ばれた理由

電話

Kazuhiro Konta / PIXTA(ピクスタ)

「御社の経営するマンションの屋上に携帯基地局のアンテナを建てさせていただけないでしょうか」……そんな電話でした。

最初は「基地局?なんだそれ?」と警戒感ありありで応じていたのですが、話を聞いてみると怪しい営業ではないことが分かってきたので、担当者とお会いすることに。

話を聞いて分かったのは、通信会社は携帯電話の電波を安定して供給するため、拠点となる携帯基地局を建てる場所を探しているのだそうです。
スマホに代表される携帯電話(とそれを支える電波網)は今や生活に欠くことのできない最重要インフラですから、電波の安定供給は大事な仕事なのでしょう。

マンション群

スイマー / PIXTA(ピクスタ)

話は納得できましたが、よりによってなぜうちのマンションの屋上なんでしょうか?

「実は、個人宅がならぶ住宅街アンテナを建てるのはなかなか大変なんです。携帯基地局はあるていどの重量がありますし、設置する高さも必要なので、ふつうの木造の個人宅の上には建てられないんですよ」
―でも、うち以外にもマンションはありますよね?
「分譲マンションはだいたいダメですね。理事会を通過しても、総会で否決されてしまうことが多いんです」
―え、なんでですか?
「これだけ携帯が普及した現在でも、電磁波が出るというだけで警戒される方も多くて……」
―たしかに、そういうことに神経質な方はいますよね。
「その点、ワンオーナーのマンションは決断が早いですから、こうして営業させていただいてるんですよ」
―なるほど。

気になるのはやっぱりお金(賃料)のこと

通帳

freeangle / PIXTA(ピクスタ)

うちのマンションが選ばれた理由は分かったとして、うちにはどんなメリットがあるんでしょうか?

「お住まいのエリアの家賃相場を基準に、屋上にお借りする面積に比例した金額をお支払いいたします」
―ほう!それはいいですね。
でも、メンテナンスとかで面倒があったりはしませんか?
「メンテナンスはこちらが責任を持っていたしますし、アンテナに使用する電気代もこちらでお支払いします」
―ということは……
「はい、オーナーさんにお願いすることはございません」

それって、ほぼ不労所得では……にわかに期待が高まります。
ざっくり金額を教えてもらうと、うちのケースでは年間30万円ほどいただけるとのこと。何もしないでこれは、かなりありがたい副収入ですね。

事前にきちんと構造検査をしてくれるので安心

屋上

KKちゃんねる / PIXTA(ピクスタ)

夢の不労所得を前に思わず前のめりになってしまいましたが、はたと気づきました。「携帯基地局はあるていどの重量がある」んですよね。

もともと屋上に設置する予定のなかったものを、後から追加した場合、マンションの耐久性とか心配な感じがするんですけど……。
「それはおっしゃるとおりで、もし前向きにご検討いただけるなら、こちらできちんと事前に検査いたします。その結果、建物が耐えられない可能性がある場合は、こちらから辞退させていただくことになります」

それなら安心かなということで、とりあえず検査をしてもらうことになりました。その結果、いただいたのが「構造検討書」。

書類

cba / PIXTA(ピクスタ)

中を開くと細かい数値や図がびっしり並んでいて、高校生で数学から脱落したアサクラでは1ミリも理解できません。いちおう問題ないという結果が出たそうですが、これで納得していいものかどうか、ちょっと心配です。

そこで、うちでお世話になっている建築業者のKさんに意見をあおぐことに。書類を見せてみると「アンテナひとつでここまでやるんですね」と感心した様子。
細かいところまで精査してもらったわけではありませんが「問題ないのではないか」ということでした。

Kさん曰く「アンテナが200キロだとすると、ユニットバスに湯船を張ればそれくらいはいくので、構造的に負担になるような重さではないでしょう」とのこと。

果報は寝て待て?設置は営業を待つしかない

携帯電話基地局

セーラム / PIXTA(ピクスタ)

こうして安全面での見通しも立ったので、本格的に設置に向けて動きました。

とはいえ、いつものリノベーションとちがい、工事は完全に向こうの管理。僕は要所要所で説明を受けるだけですから、すごくラクでした。工事開始から1か月ほどで設置工事は無事に完了。

現在も何事もなく稼働していますが、設置前と設置後では何ひとつ変化はありません。メンテナンスも年1回なので、ほとんど手間なし。これこそ不労所得といえます。

さて、この話を聞いて「うちも設置したい」と思うオーナーさんはいるでしょう。

正直、僕ももっとたくさん建てたいくらいなんですが、残念ながら携帯基地局の設置はオーナーの側から売り込むということはできないようです。あくまで通信会社が独自に検討した基準を満たす箇所に設置するということらしいです。

営業担当さんが言うには、「通信会社の競争はどんどん厳しくなっていますから、少しでも電波状況を改善するためにアンテナを増やすことになると思います」とのこと。

果報は寝て待てということですね。RC造(鉄筋コンクリート)マンションをお持ちの方、もし営業電話が来た際は前向きに検討することをおすすめいたします。

pixta_57136537_S