矢代静一や水上勉、そして近年ではマキノノゾミや永井愛らなど、1954年の結成以降、その時代を代表する劇作家たちと共に数々の舞台を創り上げてきた劇団青年座。創立65周年を迎えた今年は、ピュリツァー賞を受賞したリン・ノッテージの戯曲や、サラリーマンの肩書も持つ中村ノブアキの新作などを上演してきたが、10月23日(水)に東京・駅前劇場で幕を開けるのは、青年座では19年ぶりとなる松田正隆の書き下ろし『東京ストーリー』だ。

物語に登場するのは、都内のとあるマンションに住む女性3人。大学で哲学を教える杉村佐知子。佐知子の姪で、バイトをしながらコントグループに所属する杉村彩芽。不動産屋に勤め、空き家を案内する梅崎奈々。そんな東京に生きる彼女たちの、どこか不安定で満たされない日常が、空き家を通して少しずつ変化していく様が描かれる。

京都から東京に移住して7年という松田は「私の家からは練馬の風景が見えます。ここに住んでいる人たちとその周りの空間についての戯曲を書きたいと思いました。物語の“内容”というよりも、それを語る“場”のほうに興味がある」と明かす。さらに「たくさん人々が集う東京という都市には、無数の“おはなし”も集積している。日々、私たちの生活の中で生まれては消える“おしゃべり”やそれに伴なう“身ぶり”は、果てしのない出来事の構成要素。それらは、始まりがあり終わりがあるような一つの物語として統合されるストーリーではない。上演空間に身をおくようにして感じとることのできる、いくつもの“はなしの場”の感触を経験すること。これからの演劇の可能性はそこ(出来事としての空間)にあると思っています」とも。

また今回、演出を担当する青年座の金澤菜乃英は「青年座で久々にお目見えする松田正隆氏の新作は、東京で生活する人々の縮図であり、家庭や職場で営まれる日常の連続です。その人がそこに存在することを考える日々。新しい挑戦に思える一方、芝居をすることの原点に帰る機会をいただけたと感じています」。

近年は「マレビトの会」でのプロジェクト『長崎を上演する』『福島を上演する』などで、既成の価値観にとらわれない演劇を追求してきた松田正隆と、青年座最若手で新進気鋭の金澤菜乃英。ふたりがどんな空間を浮かび上がらせるのか、新たな“東京物語”を楽しみにしたい。

文:伊藤由紀子

劇団青年座『東京ストーリー』稽古風景