「人を見た目で判断してはいけない」「大切なのは、外見より中身」。このように言われて育ってきた人も多いと思いますが、これは無理な話です。実は人間は、相手が言葉を発する前にすでに、しぐさ、姿勢、表情、ファッションといった「見た目」の印象でかなりの評価を下しているからです。

人の見た目や振る舞いはどのように影響を及ぼすのでしょうか。今回は、木暮桂子さんに印象がつくられるロジックについて伺います。近著には、『印象はしゃべらなくても操作できる』(サンマーク出版)があります。

VIPを喜ばせる気遣いとはなにか

中東の国王をはじめ、世界のVIP大富豪から「日本に行ったら運転手は彼にお願いしたい」と指名される伝説の運転手がいます。超高級ホテルや空港へのお迎えなど、来日中の送迎を任されるのですが、世界のVIPたちが大満足し、中には期待値を超えるサプライズに泣き出してしまったVIPもいたとのこと。

彼がまず語っていたのは、どんな人たちにも誠心誠意平等に対応していたということです。それこそ、年収や肩書き、資産額、偉さのようなものに関係なく、まずは向き合います。そして滞在中、ゲストやご家族が何をしたいのか、何に興味を持っているのか、どこに行ってみたいのか、ご家族の会話をヒントに探っていきます。

(木暮さん)「あるとき、こんなことがありました。アメリカから年配のご夫婦が成田空港に到着しました。ゲートで満面の笑みでお迎えすると、二人とも全身黒ずくめです。今回の旅行の主な目的は買い物ということでしたが、空港からホテルに向かう車内で話を聞くと、ある日本人有名デザイナーの大ファンで、今回は日本でしか売っていない新作の服を買いに来たというのです」

(同)「表参道の店に早く行きたいと、黒ずくめのそのファッションは、大好きなデザイナーの服でそろえたものだったのです。そこで運転手が取った行動は、ホテルに寄らずに、直接、表参道のお店に向かってしまうことでした」

運転手は二人が買い物をしている間に、デザインオフィスの秘書に連絡をし、熱狂的なファンがアメリカから来ている旨を伝えます。そして、外からでいいのでオフィスを見せてあげたいと交渉したのです。VIPゲストには次のように伝えたそうです。

(木暮さん)「『ちょっとお連れしたいところがあるのですが、よろしいでしょうか?』。オフィスのビルに着くと、正面には秘書が待ち構えています。車を降りると大好きなデザイナーのデザインオフィスにやってきたことに気付き、奥さんが『オーマイガッ』を連発して泣き出してしまいました」

(同)「ロビーに案内され、エレベーターに乗って扉が開くと、そこにデザイナー本人が待っていました。ゲストの喜びが爆発したのは、言うまでもありません。そして、二人と写真撮影。『こんなことをしてくれた運転手はいなかった』と言われたそうです」

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謙虚さが加味されることで効果が増幅される

ほかの事例を紹介しましょう。一流と呼ばれる人は、一言で、相手を気遣い、お客様だけでなくスタッフや関係者はたまた敵までもファンにしてしまう魅力があります。筆者の知人、A社長、B社長の話を紹介します。2人ともそれなりの規模の会社の経営者ですから、一般的には成功者と言えるのでしょう。しかし、2人の姿勢は大きく異なります。

ある日の出張の際の出来事です。秘書の不手際でエコノミーに搭乗する羽目になったA社長。機嫌が悪く周囲は萎縮しています。会場となるホテルに到着したものの、入ろうとすると「防犯のため荷物チェックをお願いします」とボーイに止められました。

ボーイに向かって「Aです、よろしく!」。ボーイは「失礼ですが、どちらのA様でしょうか?」。A社長はブチ切れて「オレを知らんのか!」「オレを誰だと思っているんだ!」と罵声を浴びせ、そのまま会場を後にしてしまいました。

B社長が、ある企業に招かれた際の出来事です。講演のあとには、幹部社員との懇親会が用意されていました。懇親会が開始して10分ほど経過した頃でしょうか、B社長の席に、ホテルの支配人が挨拶にやってきます。席には、特製の豪華舟盛が置かれました。

B社長は満面の笑みで、次のように返します。「みんなと同じにしてもらえますか?」。支配人は困った顔です。するとさらにひと言、「もう歳で食べられないので。よかったら皆さんで召し上がってください」。まったく偉ぶらない、支配人のメンツも損なわない気配り、おろおろしたのは秘書連中のみ。筆者はその振る舞いを間近で見て感動したのを覚えています。

総じていえることは、一流の人は謙虚だということです。普段、このレベルに達するのは離しいかもしれませんが、すべての基本となる「人への気遣い」は知っておきたいものです。