2019年9月22日三菱UFJ銀行三井住友銀行のATMの共同利用がスタートしました。

具体的には、一方の銀行に口座を持っている利用者は、もう一方の銀行の店舗外ATMで「引き出し」、「振り込み」を利用する際の手数料が、口座を持っている銀行のATM利用時と同水準に引き下げられました。また、今までは利用できなかった「預け入れ」も利用できるようになりました。
メガバンク同士でのATM共同利用は、初の試みです。

今回の共同利用の対象は、商業施設など銀行店舗の外にある無人拠点に置かれている「店舗外ATM」です。効果を検証した上で、共同利用対象のATMを拡大することも検討する見通しです。

共同利用のスタートにあたり、最も難航したのが公正取引委員会との交渉だと言われています。メガバンク同士の連携は、銀行業界全体にとって、それほどにインパクトの大きなものです。ATMの自前主義から共同利用への移行は、銀行のATM戦略における重要な転換点であると言えます。

目的はコスト削減

両行の店舗外ATMは、2019年3月時点で、三菱UFJ銀行が1626拠点、三井住友銀行が1192拠点、合計2818拠点あります。今回の共同利用には、顧客の利便性を拡大すると共に、ATM運用コストを軽減するという重要な目的があります。共同利用開始後には、両行が近接する一部ATMの廃止が検討されています。

インターネットバンキングの利用が広がり、現金を使わないキャッシュレス決済も進展する中で、銀行ATMの取引件数はしだいに減少しています。

また、超低金利により銀行の収益性は悪化しており、店舗や行員の大規模な削減なども検討されています。そのような状況下において、コスト削減は喫緊の課題です。

とはいえ、現金信仰の強い日本では、充実したATMネットワークは、利用者がメインバンクを選ぶ際に重視する基準となっています。

今回のATM共同利用は、まさに、顧客の利便性を確保しながら、コスト削減を目指すものです。

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増加するコンビニATM、共同利用は逆風?

また、銀行のATM戦略を考える上で、増加の一途を辿ってきたコンビニATMについて考えることは極めて重要です。

銀行は、自行のキャッシュカードを持つ利用者がコンビニATMを利用した場合、その利用量に応じて、手数料を負担しなければなりません。

コンビニATMが、銀行ATMの無い地域において銀行のATMネットワークを補完し、顧客利便性に寄与してきた一面はあります。

しかし、自行のATMがある地域においては、コンビニATMではなくて、手数料の発生しない自行のATMを使用してほしいというのが、銀行の本音です。

とはいえ、コンビニの出店戦略は銀行にはまったくのコントロール外で、ATMを設置するコンビニが増加するのに伴い、銀行が支払う手数料も拡大してきました。今ではこの負担は、銀行に非常に重くのしかかっています。

利用者は、銀行ATMでもコンビニATMでも手数料が無料であれば、利便性の優れたコンビニATMに流れます。

そこで近年、銀行は、コンビニATMの利用手数料を無料にする優遇施策を縮小し、銀行ATMの利用を誘導する傾向にあります。

コンビニにとっては、銀行から支払われる手数料は極めて重要な収益源であり、セブン銀行では収益の約9割を占めています。

銀行のATM戦略見直しは、コンビニATMの在り方にも大きな影響を与えます。

今回の三菱UFJ銀行三井住友銀行のATM共同利用は、コンビニATMにとっては逆風だと言えます。共同利用により無料で使える銀行ATMが増えれば、利用者がコンビニATMから銀行ATMに流れる可能性は高いと言えます。

みずほは不参加

なお、メガバンク3行のうち、みずほ銀行は今回のATM共同利用に参加していません。

みずほ銀行は、2002年にみずほが誕生して以降2度のシステム障害を経て、2019年7月にようやく新システムへの移行が完了しました。それまでは新システム移行に注力し、その他のプロジェクトに手が付けられない状況でした。

また、みずほ銀行は、2013年にイオン銀行とのATM共同利用にいち早く取り組んでおり、「メガバンクNO.1のATMネットワーク」との自負もありました。

しかしながら、メガバンク同士のATM共同利用は、これ以上にインパクトが強く、ライバルである2行がATM共同利用とコスト削減を目指す中で、取り残された印象は避けられません。

さらにみずほ銀行は、新システム移行の際に何度もATMが停止し、連休中に現金が引き出せず、SNSなどでは「みずほ難民」と揶揄されたこともありました。みずほ銀行のATMは、決してイメージが良いとは言えません。

とはいえ、今回の三菱UFJ銀行三井住友銀行のATM共同利用は、他行の受入も可能な枠組みとされています。今後みずほ銀行を含め、参加銀行の増加も十分にあり得ます。

おわりに

インターネットバンキングの利用が広がり、キャッシュレス決済が進展する中で、根強い現金信仰の象徴とも言えるATM。今回のATM共同利用は、顧客利便性を確保しながらATMを削減していくという、ATM戦略の方向性の1つが示された形と言えます。今後の動向を注視したいと思います。

【参考】
三菱UFJ銀行との店舗外ATM共同利用開始について三井住友銀行