―[鈴木涼美の連載コラム「8cmヒールで踏みつけたい」]―


「ミス慶応コンテスト2019」の主催団体は、10月14日ツイッターコンテストの中止を発表した




◆お鍋の中には女の子

 アップルサムスンユニバーサル携帯電話開発に切磋琢磨していた時、我が国の携帯電話周辺の技術者ポップティーンコラボした激カワな端末とかものすごく高度に動く絵文字とかの開発に切磋琢磨していた、というのは国内マーケットが分厚い極東の島国らしい、お茶目といえばお茶目な、恥といえば恥の歴史である。

 で、ミスコンというと先進諸国では主に「口うるさいフェミニスト」を描く際に彼女たちが目の敵にする女性蔑視的なイベントとして登場するものだが、2019年の日本では、女子アナ登竜門として名高い「ミス慶應」のイベントを巡って、やっぱりガラパゴス的なトラブルが盛り上がりを見せている。

 発端は’16年、それまでミス慶應を運営してきた広告研究会という、リア充という言葉を凝縮して栄養満点かつインスタ映え最高のスムージーにした、みたいな団体所属の男子学生らが、女子学生に乱暴した容疑で書類送検されたというところまで遡る。

 その後イベントは他の学生団体によって似たようなかたちで開催されるようになり、今年に至っては2つの団体がほぼ同じ名前のイベント開催を発表するなど、当初から混乱。そして片方のイベントファイナリストだった女性が、運営側の社会人男性によるセクハラを告発。それを週刊誌が報じ、運営がSNSで反論、当事者の女性が再反論するなどさらにトラブル続きで、結局このほど主催者が「ファイナリスト同士の諸事情」を理由に中止を発表したわけである。

 近年の有名大学ミスコンでは協賛金額などが学生イベントという規模を超え、企業のカネ儲けが露骨に見えるものになっていたという背景があるのは確かだが、一応大学祭を本番としたイベントにしてはあまりの混乱ぶりで、その混乱をさらに悪い意味で彩っているのが、SNSによる非難合戦である。セクハラを隠蔽した運営を非難する声があるかと思えば、台風の目となった候補者の女学生を炎上芸だと非難する声があがる。

 そんな、スムージーを通り越して闇鍋状態の器の中には、2団体が別々に主催という明らかに不穏な状況でもぜひとも歴代ミスに名を連ねたいと邁進する、SNS世代の女の子たちの、自分をなんとか偶像化して、人よりイイネと言われなければならないといった焦燥感を伴う自己顕示欲と、自己顕示欲強い女しか目に入らないくせに、自己顕示欲を露骨に見せる女に強い嫌悪感を隠さない大衆の性癖が見え隠れする。

 そして、セクハラなんていうかつてはミスコンを目の敵にするような女性が使用しがちだった言葉が、ミスコン出場者たちの中ですら印籠になったりクリシェになったりして記号的に飛び交う、呑気なバブルおじさんたちが目を疑うような近年の女性の「息苦しさ」も。

 ひとまず極東のガラパゴスで当面の間平和に暮らすためには、誰より強い自己顕示欲を誰より巧妙に隠せる女か、性欲や支配欲をセクハラの記号で断罪されない術を持つ男になるしかない、という酷く絶望的な法則を仄めかしながら、今年も学祭の季節がやってくる。

<文/鈴木涼美 写真/時事通信社
※週刊SPA!10月21日発売号より

【鈴木涼美】
’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』(幻冬舎)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『女がそんなことで喜ぶと思うなよ』(集英社)が発売中

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