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 2019年4月、ルノーのCセグメントハッチバックメガーヌR.S.」の軽量バージョンメガーヌR.S.トロフィーR」が、ドイツニュルブルクリンクコースを7分40秒100というタイムで駆け抜け、ホンダシビックTYPE Rが持っていたFF世界最速のタイトルを奪取。新王者となりました。そこで気になるのはFF世界最速とはどんな車なのか。早速メガーヌR.S.カップで、FF最速の世界に触れてみました。

ニュルで「FF市販車最速」の称号を得た
メガーヌR.S.トロフィーR

 ニュルブルクリンクコースは、コース全体では300mもの高低差と多数のブラインドコーナーダウンフォース不足だと容易にジャンプしてしまうスポットがある上に、埃っぽく波打つ路面と、世界屈指の過酷なレイアウトが特徴。さらに平均スピードが高いにも関わらずエスケープゾーンが狭いという、サーキットというよりは閉鎖された公道といったもの。それゆえに世界中の自動車メーカーベンチマークコースとして利用しています。

 当然サーキットですから、性能を誇示するためのタイムアタック競争が始まるのは言うまでもなく、その昔から「市販車最速」の称号をかけた各社の激しい争いが繰り広げられていました。NISSAN GT-R NISMOが並み居る欧米の高級車を抑えて、一時期市販車最速だったことは記憶に新しいところです。

 その中で「フロントエンジン・フロントドライブ」(FF)車という、私たちに身近な「量販車」具体的には2リットル・直4ターボエンジンを搭載した300馬力前後のホットハッチによるタイムアタックバトルが始まったのは2014年あたりから。ルノーメガーヌR.S.275 TROPHY-R」の7分54秒36が、その先鞭を切りました。

 しかし、2015年ホンダシビックTYPE R(FK2)が7分50秒63をたたき出してラップボードを塗り替えます。その翌年12月にはゴルフGTIクラブスポーツSが50秒の大台を切る7分47秒19で王座はドイツへ。ですが、ホンダも黙ってはおらず、2017年4月にシビックTYPE R(FK8)が7分43秒80で王座奪還に成功。F1でも覇を争い、そして「FF市販車最速」の初回タイトルホルダーのルノーも黙っておらず、今春に再びタイトルを取り返したのでした。

 しかし、ホンダは今夏FK8型シビックTYPE Rを近々終売することを発表。新型シビックTYPE Rが控えているのかもと思うと、このFF市販車最速争いの動向にしばらく目が離せません!

細かなグレード設定があるメガーヌR.S.

 シビックベースシビックTYPE Rが生まれたように、メガーヌR.S.はメガーヌベースとして誕生したことは言うまでもありません。ですが、シビックTYPE Rが1グレード展開であったのに対し、メガーヌR.S.はシャシー、カップトロフィーと、走りのステージに合わせて3グレードで構成されています。今春ニュル最速の座に輝いたのは、このトロフィーグレードの中でも、馬力アップと軽量化を施したもっともレーシーなモデル

 では、日本で売られているメガーヌR.S.は? というと「日本の道にはシャシーがもっとも適している」というシャシーグレードのセミATモデルのみ。以前、筆者はこの新型メガーヌR.S.に試乗しましたが、日本で販売されているメガーヌのベーシックグレード(GT)と比べ、スポーティーさを感じさせる引き締まりながらも、不快さを感じさせない足回りセッティング、そしてATという「誰でもルノーポールの世界に触れられる」という点に好感を抱きました(FF世界最速クラスルノーの新型「メガーヌR.S.」は峠がキモチイイ!)。

 そのいっぽうで、メガーヌR.S.の前身「メガーヌR.S. 273」が2ドアという硬派な1台であったこと、さらに日本では新型車のMT設定がなかったことから、一部から新型メガーヌが「ヌルい」という声があったとかなかったとか。

 その声に応えるように輸入元のルノー・ジャポンは、一段階上のカップ仕様のMT仕様車を今春100台限定で販売し、待ってましたとばかりに即完売。ちなみに販売店に数台あるかもしれないとのことなので、希望する方は今すぐディーラーに問合せてみてはいかがでしょうか。今回試乗したのは、そのカップ仕様のMT車になります。ちなみにニュルのタイムアタックはMTで実施されていました。

より走りに特化したメガーヌR.S.カップ仕様

 メガーヌR.S.は、メガーヌGTに比べて、フェンダーフロント65mm、リア45mmと張り出し、フロントマスクやリアディフューザーなどの専用エアロパーツによって、アグレッシブな印象を与えます。

 ボンネットを開けると、カバーがなく無造作なパイプ類の取り回しがものものしいエンジンが姿を現します。搭載するエンジンはシャシー仕様と同じく、279馬力を発生する1.8リッター直4ターボ。新生アルピーヌ「A110」に搭載するエンジンと同等品で(アルピーヌは出力が抑えられている)、日産のエンジンベースに、専用ヘッドを搭載したスペシャル品です。ちなみにトロフィーRは300馬力にパワーアップされているそうです。

 シャシーとカップの違いは主に足回り。サスペンションが専用に引き締められたほか、シャシーがブレーキコントロールによるデフ操作に対してトルセンLSDを装着。そして赤く塗られたブレーキキャリパーが含まれます。今回の限定車はそんな6段MTのカップ仕様に、19インチホイールとバイマテリアルフロントブレーキという2つの本国オプションを追加したもの。この19インチは日本の標準車に装着されているものと同じで、フロントブレーキディスクローターを鋳鉄製のままハブをアルミ化して、片側1.8kgずつのバネ下軽量化と耐フェード性の向上が図れた、まさにお買い得な1台になっています。

シンプルだが上質にまとまったインテリア

 室内に目を向けると、目に飛び込むのは6速MTとサイドブレーキ。ちなみにAT仕様は電子式です。シフトノブは革と金属によるもので、誤操作防止のためバックを入れる時はシフトノブ下のレバーを引っ張りながら入れます。サイドブレーキは一見「え?」と思う形状ですが、実際に使うと使いやすく、坂道発進もラクラクです。

 操作系で特異なのは走行モード。R.S.Driveボタンを押すと、エコからレースまで5モードから選択ができます。走行面では、ステアリングの重さ、そしてアクセルレスポンス、電子制御が変わります。ちなみに、レースモードにするとトラクションコントロールなどすべて解除されてしまうので注意が必要です。

 そのほか、メーターや車内照明が変わります。面白いのはパーソナルセッティングが可能なこと。メーターの形、色、そして走行面のセッティングが自分好みにできます。

 車内は前も後ろもヌバック系に赤いステッチ。このカッコよさはスポーツグレードならではです。さらに助手席やドア部分に設けられた「ルノー・スポール」の文字が気分を盛り上げてくれます。嫌味に感じさせない辺りが、フランスセンスなのでしょう。

硬派の極み。C1を駆け抜ける喜びに満ちる

 「メガーヌR.S.のMT版でしょ」と思って試乗を開始。しかし、走り始めた瞬間に「これは別物」という感触に気づきます。普段の街乗りでは、ロードバンプの振動が体に襲い掛かってきます。MTと相まって、渋滞だけでなく都心での街乗りは正直辛いところ。近年各車のスポーツグレードな車種の中で硬いと思っていた「GT-R NISMO」や「フェアレディZ NISMO」の比ではなく、ピュアなレーシングカーに近いです。MTもそうですが、ここまで硬派な車は近年珍しいのではないでしょうか。

 乗りながら「シャシーとは別物の車」という印象以上に「カップでこの硬さということは、トロフィーRはどうなってしまうんだ?」との疑問も浮かんできます。「日本にはシャシー仕様のATがピッタリ」という判断は大正解だと思いました。

 ちなみにクラッチはとてもつながりやすく、初めてMT車を運転する人でも発進に苦労することはないでしょうが、輸入車の常である「ウインカーは左」なので、国産AT車に慣れた身には左手が大忙しです。さらに渋滞や信号の多い都心でMT車は辛く、正直申し上げてメガーヌR.S.を乗りながら苦痛を感じるほど。試乗は深夜から早朝に改めてすることにしました。

 夜、内堀通りを一通り走った後、日本のニュルブルクリンクこと首都高速C1の内回りへステアリングを切って周回。これが半端なく楽しいのです! C1にボディーサイズがピッタリな上に、加速、減速はもちろんのこと、オンザレールのハンドリングは爽快そのもの。まさに水を得た魚。世の中にこんなにも楽しい乗り物があっただろうか、と誰もが思うことでしょう。都心部の渋滞で感じた「硬い」という感覚は次第に消えていきます。

 何より3速、4速とシフトを操り、コーナー手前ではブレーキを踏んでシフトダウン。ガクつこうものなら無理な操作をしたお前が悪い、というあの感覚。車を積極的に動かす楽しさに満ち溢れ、メガーヌR.S.カップは最高の玩具に思えて仕方ありません。なによりとんでもなく速い! 踏めば一気にタコメーターがレブリミットへと駆けぬけながら、朝焼けに彩られた都心の景色が後ろへと消えて流れていきます。車って本当に素晴らしい。とある車メーカーキャッチコピー「駆け抜ける喜び」そのものです。

 クライマックスは溜池→築地から銀座S字を抜けての京橋、そして江戸橋JCTを急角度に左折し日本橋へ向かう、あの区間。アップダウンをしながらS字をリズミカルに抜けていくのですが、不安感や怖さはまったくなし。少しでもアクセルを踏めば、強烈に加速して次のコーナー、そしてアンダーブリッジへと向かいます。

 アンダーブリッジの先、江戸川JCTまでの僅かな直線を車線を左に寄せながら力強く登坂。すぐにやってくる左の急カーブブレーキを踏みながら2速へとシフトダウンをし、インにステアコーナーを抜けてアクセルを踏めば、弾けるかのごとく強烈な加速で私を置いてきぼりに。法定速度内でもこんなに楽しめるなんて! しかし、だんだん通行量が多くなったのでC1を降りました。

 普段使いの走行で気になるのはナビゲーションシステムメガーヌは車両とスマートフォンUSBで接続して、Android Auto、もしくはApple CarPlayを利用する。輸入元としては専用ナビシステムを用意する必要もなく、またユーザーとしても普段のスマホの延長線上で使えるので便利だ。

【まとめ】挑戦し甲斐のある1台
また受注をしてほしい

 燃費はこの手のスポーツカーにしてはまずまず。13.8リッター/100キロをマークしました(約7km/L)。ぶん回さない限り、実用性も問題ないでしょう。

 メガーヌR.S.とは大きく異なるメガーヌR.S.カップ仕様。筆者のように、この魅力の片鱗を知ってしまうと、他の車は物足りない気分になってしまうこと間違いありません。この「ジーキル博士とハイド氏」のような、わずか日本限定100台のメガーヌR.S.カップ仕様を手に入れた人は、我が国で幸せな人ランキングがあるとしたら、相当上位な人だと感じた次第です。

 そして、この上にトロフィー、そしてトロフィーRという、ほとんどレーシングカーといえる車両を用意するルノー・スポールの恐ろしさもあわせて感じましたし、それゆえにルノーの面白さを感じた次第です。今回のメガーヌR.S.カップが限定100台ですぐに完売した、という話を聞くと、日本にはこういった車を求める人が多いのはもちろんのこと、ルノー・スポールの奥深さを伝える上でも、このカップ仕様を定期的に限定販売、もしくは納期未定でも受注しては? と思った次第です。

激辛だけどやめられない! FF最速の血をひく「メガーヌR.S.カップ」を試乗