◆飽食の時代の中で、食のあり方を考える

 衣・食・住は人間が生活していく上で欠かせないものだ。さらに、この中で「食」は人間の三大欲求の1つでもあり、日々過ごすライフスタイルの活力になっている。しかし、現代社会は飽食の時代と言われている。売れ残ったり、食べ残したり、期限が切れたりした食品は捨てられ、産業廃棄物として処理される。このような食品ロス(フードロス)は社会の大きな課題であり、どう改善していくべきなのか考えなくてはならないだろう。

 さらに、食料自給率の低下や水産資源の枯渇など、食を取り巻く問題は他にも取り沙汰されている。こうした中、9月22日にはMASHING UP主催のもと、サスティナブルを実践して食の未来のあり方を考えるトークセッションが国連大学にて開催された。

 食や生物など生命資源分野に精通するビジネスデザイナーの菊池紳氏がモデレーターを務め、コールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」を運営するコウ ノリ氏や渋谷区神山町の飲食店「SHIBUYA CHEESE STAND」を経営する藤川真至氏、料理人でありチーズケーキブランドMr. CHEESECAKE」を手がける田村浩二氏らが登壇。

 フードシーンの最先端に立つ当事者たちが、これからの食のあり方について議論を交わした。

◆食へのこだわりを生む原動力

 セッションの冒頭では、登壇者らが食にこだわって仕事をしている理由について掘り下げた。美味しいものを消費者に届け、食の魅力を発信し続ける。言うのは簡単だが、「言うは易く行うは難し」ということわざがあるように、一筋縄ではいかないこともある。

 サンシャインジュースのコウ ノリ氏は、「NYのコールドプレススタンドが流行り始めた頃に、現地でコールドプレスジュースを飲んだのが衝撃的だった。体中に栄養が行き渡り、エネルギーがほとばしるような感覚を味わい、新鮮な果物を使ったジュースを飲んだときの感動が今も生きている」と語る。

 NYでの原体験があり、当時日本になかったコールドプレスジュースを広めるために、「サンシャインジュース」を立ち上げたとのだという。

 全国各地から取り寄せた野菜や果物の味を、新鮮なままに届けるコールドプレスジュースは、鮮度が落ちれば商品の魅力が薄れてしまうという問題もある。

 「日持ちしないことが価値だと思う。良質な自然の恵みをどうお客様に伝えるかを考え、産地や季節によって味が違うことも魅力の1つであることを訴えていきたい」と新鮮な味を届ける一心で運営している気概を語った。

 渋谷で出来立てのフレッシュチーズを作り続ける藤川氏は、毎朝3時に起きて、契約している酪農家の元からタンクローリーで運ばれて来る生乳を低温殺菌させ、チーズを手づくりするのが日課なのだという。

「大学時代に訪れたイタリアナポリで食べたチーズの味が忘れられない。酪農家のクラフトマンシップに触れたことが、今のチーズ作りにも生きている。ミルクの風味の活かし方や、機械ではなく手作業にこだわることで、妥協せず美味しくて新鮮なチーズを提供できればと考えている」(藤川氏)

 また、13年間飲食・レストラン業界に従事している料理人の田村氏は、「Mr. CHEESECAKEを立ち上げる前は、コンクールで賞を取るために料理の腕を磨いていた。しかし自分の味を追求することとのギャップを感じていたため、趣味で作っていたチーズケーキSNSで発信したところ、思わぬ反響を生んで結果的に販売するようになった」とチーズケーキにたどり着いた経緯を語った。

フードロスを出さない工夫
 恵方巻の大量廃棄、飲食店におけるノーショードタキャンの実態。フードロスに関連するニュースが相次いで報道され、社会問題化しているのは周知の事実だ。フードロスを出さない意識や工夫はもちろん、食を消費する我々のモラルのあり方も考えなくてはならないだろう。

 コールドプレスジュースフードロスが出やすい一方、廃棄せずにうまく循環するよう工夫しているとコウ ノリ氏は言う。

ジュースを作って余った残渣(絞りかす)を活かして、ビーガンカレースープなどの原料にしたり土に還して肥料にしたりと極力ロスが出ないようにしている」

 また、生産者と関わる中で、東京と地方の生産に対する考えの違いについて説明した。

「東京では地方に比べて、物理的な狭さから、フードロスをなくそうにも限界があると考えられている。しかし、産地側である地方には、ロスを出さず循環を産むための生産方法が当たり前に行われていたりする。東京では、そのやり方すら知らないこともあるので、もっと産地側の生産方法にも着目した方がいい」(コウ ノリ氏)

 他方、藤川氏は製造工程でロスを発生させないよう心がけていることを述べた。

「温度管理やチーズを練る量、入れるお湯の量など一定にできるところは均一化している。作り手によってブレが出ないように工夫し、ロスを生まないように意識している」

 食は消費者に届けるために、一度作ったら終わりではなく、どうしても作り続けなくてはならない。そのため、均一化して味が安定するよう努めるのはもちろん、日々のルーティンとなる作業の中で、いかに地球環境を意識した取り組みができるかが大切になってくるのではないだろうか。

◆食の問題はまずは考えること。そして身近に感じること
 食との関わり方を見直し、明日から行動に移していくためには、どのようなことに留意すればいいのだろうか。セッションの終わりに設けられた質問タイムに、筆者が登壇者らに「明日から我々ができること」について尋ねた。

フードロスなど食にまつわる社会課題は、ニュースネットからいくらでも得られるので、まずは考えること。そして身近に感じること。現状を知った上で、どのような行動を取ればいいのかを意識して、小さなアクションを起こしてみることが大切」(コウ ノリ氏)

 現状把握の大切さについて触れたコウ ノリ氏に対し、田村氏は問題の根深さについて指摘した。

「問題解決はそう容易いことではない。明日からコンビニがなくなったら不便を強いられるのと一緒で、現状の生活をいきなり変えるのは難しいだろう。無駄に食材を買わない、食べ残しを出さない、プラスチック製のレジ袋や食器をもらわないなど、小さなことの積み重ねでしか問題解決の糸口は掴めないと思う」(田村氏)

 トークセッションのモデレーターを努めた菊池氏は、食や生産を取り巻く環境に精通する立場から、次のように締めくくった。

「食に関連するフードロスやプラスチックゴミ問題など、何か1つ解決したからといって問題が全て解決するような論調が多い。メディアも過剰に煽りすぎている印象があり、我々はそれに揺さぶられないようにするべきだ。フードロス問題1つとっても、フードロスが起きている流通構造を知ることで、本当の原因に気づくことができる。なので、まず意識すべきは実態を知ること。報道される情報だけでなく、一次情報を得て、そこからどう行動していくか考えることで、的外れな行動を起こさなくて済む」

<取材・文/古田島大介

【古田島大介
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている。