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連続テレビ小説「スカーレット」 
NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~

『連続テレビ小説 スカーレット Part1 (1)』 (NHKドラマ・ガイド)

第4週「一人前になるまでは」19回(10月21日・月 放送 演出・佐藤 譲)
スカーレット」も四週めに入った。朝ドラが注目されるようになって以降、新機軸を狙おうとするような、SNS受けを狙おうとするような気負いを感じる企画も少なくなく、その気負いが視聴者の心をざわつかせてしまうのだが、今回は今の所、安定して気楽に見られるものになっているようだ。

貧しく育ったヒロイン喜美子(戸田恵梨香)が家族のために働きに出て、そこで一癖二癖ある人達に出会って自立の道を見つけていく……それを軸に、ちょっと厳し目な大久保さん(三林京子)、おっとりきゃんなさださん(羽野晶紀)、無菌なお兄さん・圭介さん(溝端淳平)、頼りがいのあるちや子さん(水野美紀)、面白い雄太郎さん(木本武宏)。近所の面白いおじさん・マスター(オール阪神)と、登場人物の魅力が過不足なく描かれる。

なんといっても関西女性の二大典型(きつさと明るさ)を三林京子と羽野晶紀という関西出身者が演じているのがいい。木本もオール阪神も新聞社の編集長の辻本茂雄も大阪出身。戸田恵梨香は兵庫、溝端が和歌山水野美紀も香川生まれの三重県育ちとか。これほど関西人が集まった朝ドラも昨今では珍しい。こってこてなだけでなく、さりげない可笑しみみたいな空気が出せているのはやはり関西人大集合だからか。

腕が買われた?
19回の歌える喫茶さえずりのなかで、引き抜かれた記者とあとを追ってやめた雑用係の女の子の話から、「腕が!? 買われた?」、そして「ええ話」へへへと笑うマスター、「(コーヒー無料券)えらいぎょうさん!見て!」までの流れが気持ちよかった。
戸田、水野、溝端はそんなに関西出身を売りにして活動してきたわけではないので、関東民から見てもそれほどクセを感じないところも良いのだと思う。

「自分の人生やで。自分で考え」
気の利く喜美子の腕が買われ、デイリー大阪の編集長がいまの給料の五倍で雇ってくれると言う。それはもう願ってもないことと、2つ返事で話に乗る。そうなったらもう荒木荘にはいられないから、住むところも用意してもらう条件を提示することに。そんなことしたら父や母のメンツを潰すことになるんじゃないかと見ていて心配になるが、喜美子としては仕送りもたくさん送らないとならないということであろう。

安月給は見習い期間が終われば済む問題なのにいささか早急な気もするが……これがまた子供が思いつめてしまっているということだろう。
一応、「お父ちゃんに相談せな」と思い直すものの、ちや子が「自分の人生やで。自分で考え」と諭す。この時代、女性ながら新聞記者やっているだけある彼女だから、女や子供が、旧来の制度に抑圧されていることを良いと思っていないであろうから、彼女が喜美子に自由に映画を見たり喫茶店行ったりできる生活を与えたいと思うのは無理はない。

ちや子と喜美子が労働条件の話をしているときの、繊細にして前向きで強いストリングスの劇伴が、女子を応援曲のような気がして、これまた気持ち良かった。

浮かれる喜美子
帰宅すると、大久保ストッキング縫いのやり直しを命じられる。この虐めからももうすぐ開放されると浮かれていたが、大久保はおにぎりを用意してくれていて、なんだか迷ってしまう喜美子。直しの要求も決して理不尽ではなく、縫い方の甘さが指摘されていた。

思い切って相談してみた圭介は転職に反対する。そこに雄太郎も出てきて、自分の経験――給料がよくても自分に合う合わないがあると語る。恵まれた育ちの圭介とそうでない人たちとの違いなど手際よく会話で処理されていく。

翌朝、雄太郎がお腹いたいと騒ぐから、大久保のおにぎりを食べたから? 大久保がおにぎりになにかを? と邪悪なことを思ってしまったら、仮病で、喜美子が雄太郎に付き添っているふりをして、新聞社で仕事体験をすることになったという展開。
大久保さんだけのけものにしてことが動いているが、そんなに大久保さんも悪い人でもなさそうでというところも気楽に見られる理由。

「新聞は台所で売れっちゅう時代や」
刺激がなさすぎると思う人もいるかもしれないが、極端にいやな気持にはならないし、理解できないところもなく、見る人を選ばないドラマになっていると思う。朝は、起きたばかりでぼんやりしている人もいるし(私がそれ)、すでに家事でバタバタしながらながら見している人もいるし(私もコーヒー入れたりパン出したりしながら見ることもある。原稿書くのはその後、もう何度か見返してから)、すぐさまTweetしたりすぐに絵を描いたりエンジン全開の人もいるし、いろいろだけれど、朝からステーキよりは、軽めの朝食のほうがいいと思う人のほうが多いだろうから、「スカーレット」くらいがちょうどいい。「新聞は台所で売れっちゅう時代や」と新聞社で編集長が喚いていたが、改めて、朝ドラも台所で働くひとの視線を大事にしているのではないだろうか。
とはいえ、前述したように、会話をうまいこと描いているし、新聞社では、喜美子たちが信楽に移住した翌年・昭和23年1月に起きた大事件「帝銀事件」 の話題や、新劇女中の離婚(たぶん、文学座の荒木道子のこと)の話題が出て、こういうのが好きな視聴者の心もつかむ。今日も猫出たし。
軽めに見えて、美味しく炊けた白米、味噌汁など、それこそプロの主婦の味という感じがする。
(木俣冬 タイトルデザイン/まつもとりえこ)

登場人物のまとめ
●川原家
川原喜美子…戸田恵梨香 幼少期 川島夕空  主人公。空襲のとき妹の手を離してトラウマにしてしまったことを引きずっている。 絵がうまく金賞をとるほどの腕前。勉強もできる。とくに数学。学校の先生には進学を進められるが中学卒業後、就職する。
川原常治…北村一輝 戦争や商売の失敗で何もかも失い、大阪から信楽にやってきた。気のいい家長だが、酒好きで、借金もある。にもかかわらず人助けをしてしまうお人好し。運送業を営んでいるらしい。
川原マツ…富田靖子 地主の娘だったがなぜか常治と結婚。体が弱いらしく家事を喜美子の手伝いに頼っている。あまり子供の教育に熱心には見えない。
川原直子…桜庭ななみ 幼少期 やくわなつみ→安原琉那 川原家次女 空襲でこわい目にあってPTSDに苦しんでいる。それを理由にわがまま放題。
川原百合子福田麻由子 幼少期 稲垣来泉 

●熊谷家
熊谷照子…大島優子 幼少期 横溝菜帆 信楽の大きな窯元の娘。「友達になってあげてもいい」が口癖で喜美子にやたら構う。兄が学徒動員で戦死しているため、家業を継がないといけない。婦人警官になりたかったが諦めた。
熊谷秀男…阪田マサノブ  信楽で最も大きな「丸熊陶業」の社長。
熊谷和歌子… 未知やすえ 照子の母

●大野家
大野信作…林遣都 幼少期 中村謙心 喜美子の同級生 体が弱い。
大野忠信…マギー 大野雑貨店の店主。信作の父。戦争時、常治に助けられてその恩返しに、信楽に川原一家を呼んでなにかと世話する。
大野陽子…財前直見 信作の母。川原一家に目をかける。

●滋賀で出会った人たち
慶乃川善…村上ショージ 丸熊陶業の陶工。陶芸家を目指していたが諦めて引退し草津へ引っ越す。喜美子に作品を
「ゴミ」扱いされる。
草間宗一郎…佐藤隆太 大阪の闇市で常治に拾われる謎の旅人。医者の見立てでは「心に栄養が足りない」。戦時中は満州にいた。帰国の際、離れ離れになってしまった妻の行方を探している。喜美子に柔道を教える。
工藤…福田転球  大阪から来た借金取り。  幼い子どもがいる。
本木…武蔵 大阪から来た借金取り。

保…中川元喜  常治に雇われている。
博之…請園裕太 常治に雇われている。

●大阪 荒木荘
荒木さだ…羽野晶紀 荒木荘の大家。下着デザイナーでもある。マツの遠縁。
大久保のぶ子…三林京子 荒木荘の女中を長らく務めていた。喜美子を雇うことに反対する。
酒田圭介…溝端淳平 荒木荘の下宿人で、医学生。
庵堂ちや子…水野美紀 荒木荘の下宿人。新聞記者で不規則な生活をしていて、部屋も散らかっている。
田中雄太郎…木本武宏 荒木荘の下宿人。市役所をやめて引きこもり中。
静 マスター…オール阪神 喫茶店マスター。静を休業し、歌える喫茶「さえずり」を新装開店した。

平田昭三…辻本茂雄 デイリー大阪編集長 バツイチ
石ノ原…松木賢三 デイリー大阪記者
タク坊…マエチャン デイリー大阪記者
二ノ宮京子…木全晶子 荒木商事社員 下着ファッションショーに参加
千賀子…小原華 下着ファッションショーに参加
麻子…井上安世 下着ファッションショーに参加
珠子…津川マミ 下着ファッションショーに参加 
アケミ…あだち理絵子 道頓堀のキャバレーのホステス お化粧のアドバイザーとしてさだに呼ばれる。

あらすじ
第一週 昭和22年 喜美子9歳  家族で大阪から信楽に引っ越してくる。信楽焼と出会う。
第二週 昭和28年 喜美子15歳 中学を卒業し、大阪に就職する。
第三週 昭和28年 喜美子15歳 大阪の荒木荘で女中見習い。初任給1000円を仕送りする。

脚本:水橋文美江
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
音楽:冬野ユミ
キャスト: 戸田恵梨香北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ福田麻由子佐藤隆太大島優子、林 遣都、財前直見、水野美紀溝端淳平ほか
語り:中條誠子アナウンサー
主題歌:Superflyフレア
制作統括:内田ゆき
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