航空自衛隊の「F-35」が墜落した後、F-35が欠陥機ではないかとの声が上がっている。

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 F-35の事故は空間識失調が原因と推察されると発表されたが、F-35の欠陥のせいで墜落したのではないかと疑う意見は根強く存在する。

 しかし、空間識失調であればこの事故が説明できる一方で、F-35事故がどのような欠陥によるのかという仮説は存在しないようだ。

 そうである限り、空間識失調が事故の原因であったと推測することの方が合理的であろう。

 この欠陥説、事故原因の議論だけではなく、F-35が欠陥機であることを理由として、導入を攻撃する材料にも使われる。F-35は欠陥機であるから航空自衛隊への導入は不当であり、失敗だったと言うのだ。

工業製品は改修するもの

 このような意見の存在は、航空機を含む工業製品に対する大きな誤解によって発生していると思う。

 これまでの歴史を見ると、技術的な欠陥のない機種が優れた機種として名機と評されるのではなく、優れた素質を発揮して活躍した機種が名機とされている。これは戦闘機でも旅客機でも変わらない。

 また、単に欠陥があることだけをとらえて欠陥機と言うのであれば、すべての機種が欠陥機になってしまう。欠陥と言うのは基本的に改修で直すもので、欠陥を改修しながら育てていくのが航空機なのである。

 これは、程度の差はあれ航空機に限らず自動車などの他の工業製品にも言えることである。

 例えば、自動車では量産に入る前に何百台もの試作を行い、その中で不具合を修正していく。さらに量産と販売を始めた後も様々な改修を続けていく。

 重大な場合はリコールとなるし、安全に関わらない小さい問題に対しては、商品性を向上する改修を続ける。

 これまでの失敗作と評される航空機は、欠陥がなかった航空機ではなく、世の中の状況に合った素質がなく、結果的にあまり活躍できなかった機種が多い。

 F-35でも、欠陥は他の工業製品と同じように改修を行って直していくべきものである。成功か失敗かは、日本の防衛に合った運用ができるのかどうかによるだろう。

 確かに、F-35は事故前から様々な問題が指摘されてきた。そのような問題をどう呼ぶかは言葉の問題だが、欠陥と呼んだところで日本語としては間違ってはいないだろう。

 しかし、F-35が仮に導入するべきものでないとしたら、素質が悪く、設計上狙った性能を出せても、日本の防衛に役に立ちそうもないことが明らかという場合である。

 今のところ、今回の事故が機体の欠陥によるものという具体的な根拠は存在しない。しかし、仮に欠陥が原因としても1回の墜落でF-35導入の合理性は判断すべきものではない。

欠陥機が優秀な飛行機に勝った

 戦闘機ではなく旅客機の例で恐縮だが、欠陥機が欠陥のない優秀だった飛行機より市場で高い評価を得た例がある。

 かつて、1970年代初頭に就航したマクダネルダグラスDC-10」という旅客機があった。

 だいたい300人くらいの人が乗れる旅客機で、ジャンボジェットよりは小さいが、中型機と呼ばれるボーイング「767」よりは大きく国際線でも活躍した。

 この旅客機には、ロッキードが開発したトライスターという非常に似た規模、スペックのライバル機があった。

 DC-10は当初はとんでもない欠陥を抱えていた。一方、トライスターは技術的に優れていると評判で、DC-10のような欠陥はなく、最後まで不適切な設計に起因する事故はなかった。

 DC-10の危険な欠陥は、客室の床下にある後部貨物室ドアのロックが中途半端にかかることがあるというものだった。

 飛行機が上昇すると、周囲の気圧は下がるが、客室の気圧も下がっていくと乗客は死んでしまうので、客室の気圧は一定に保たれる。そうすると、ドアには客室の高い気圧により、気圧の低い外に開こうとする力が働く。

 ドアのロックが中途半端だと、上昇中に圧力に負けて開いてしまうことがあった。貨物室のドアが開いてしまうと、貨物室の気圧が下がり、今度は客室の床に客室からの圧力がかかる。

 しかし、客室の床は気圧差を支えるほど頑丈に設計されていない。

 そうすると、客室の床が貨物室に吸い込まれる形で壊れてしまう。更に、客室の床を通る操縦用の油圧配管を壊してしまう。

 DC-10は就航後まもなくそのような事故を実際に起こす。壊れた部分に座っていた乗客は、貨物室に吸い出され、さらに開いた貨物室のドアから機外に吸い出された。

 この時、床に這わせてあった油圧配管は、3本中2本が壊れたが、1本は損傷しつつも機能し、操縦不能を回避した。幸い、事故機は何とか着陸でき、機体から吸い出された乗客以外の犠牲は出なかった。

 しかし、この事故の対応はまずかった。

 本来であれば耐空性改善命令を出して強制的にドアを改修するべきところを、イメージ悪化を恐れたメーカーの工作で一つレベルの低いサービスブリテンの発行で勘弁してもらった。

 そのせいで改修が漏れた機体が発生し、次の事故を起こすことになる。

 次の事故では同じような経緯で客室の床が壊れた際、3本の油圧配管のすべてを切ってしまい完全な操縦不能になった。そして、乗員乗客全員が死亡する惨事となった。

 DC-10は正真正銘の欠陥機だったわけだ。さらに、メーカーが欠陥をいい加減に扱い、大惨事を起こしてしまった。

 では、DC-10が欠陥機として市場から退場したのかと言うと、そうではない。欠陥を改修したうえで、世界の航空会社で活躍した。そして、トライスターの3倍売れた。

 ライバルだったロッキードのトライスターは、安全性が高く機体の欠陥による墜落を一度も起こしてないにもかかわらずだ。

 DC-10は、最初は技術的な欠陥を抱えていた。しかし、搭載燃料を増やす設計変更が可能な構造であったことから長距離バージョンが作られた。

 この長距離バージョンによって、これまで燃料補給のための着陸が必要だった路線で、直行便が可能になった。

 例えば、日本航空DC-10の長距離バージョンで、当時の通常型ジャンボジェットでは不可能だった東京―ニューヨーク直行線を開設している。

 ライバルのトライスターはDC-10のような安全に関わる欠陥がなかったが、こうした改良ができない構造だった。欠陥は改修できるが、この拡張性のなさは改修ができないものだった。

 結局、重大な欠陥のあったDC-10の方が、大きな欠陥のなかったトライスターよりも使いやすい機種となり、市場では高く評価されることとなる。トライスターは技術的には成功したが商売としては失敗したと言われている。

 なお、ロッキードが日本でのトライスター販売のために起こしたロッキード事件により、トライスターは日本人の記憶に残っている。高い技術や安全性で優秀だったことは、あまり知られていないのではないか。

 DC-10は重大な欠陥を抱え、多くの犠牲者が出る事故を起こしているにもかかわらず、現在では失敗作と評する声はない。

 DC-10は欠陥機も優れた素性さえ持っていれば欠陥を改修して活躍できるという好例である。

恐らくF-35は名機になる

 欠陥があっても改修により克服可能であり、商品として優れた素性を持っていれば、名機になる。

 そもそも欠陥があるからと言って、欠陥のない部分も含めてその機種を全部否定して、開発をやり直すということは不合理である。

 これまでいろいろな問題があったからと言って、F-35の採用が間違っているという議論にはあまり合理性はない。

 F-35は日本が購入可能な戦闘機では唯一ステルス性があり、処理能力の高いコンピューターを利用した戦闘が可能なことなど、長所も多い。

 そうした長所を評価すれば、仮に問題があったとしても、問題を改修して育てていくのが妥当なのであろう。

 日米共同開発の経緯から物議をかもし、技術的にも問題の多かったF-2支援戦闘機は、つい十数年前には散々いろいろ言われてきたものだ。

 例えば、対艦ミサイルを4本搭載する予定だったが、2本しか搭載できないとか、レーダーで照準しても照準が外れてしまうなどの問題だ。

 しかし、ミサイルを計画通り4本搭載するようになったし、レーダーの問題も聞かなくなった。これは、F-2が改修に改修を重ね問題を解決してきたからだろう。

 結局、いろいろ言われてきたにしても20年、30年経った後には、何だかんだ言ってF-35は名機だったということになっているのではないかと思う。

 F-35は世界中の空軍で次期主力機種として採用され、徹底した改修が施されていくことは確実だからだ。

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