「即位の礼」 まばたき“禁止”の一団――陸上自衛隊の花形「特別儀仗隊」を知っていますか? から続く

 国賓の来日時のお出迎えや即位の礼などで活躍する陸上自衛隊302保安警務中隊の特別儀仗隊。わずか数ミリの動きのズレもなく、言葉通りに一糸乱れぬ所作を披露する裏には、想像を絶する訓練の日々があった。特別儀仗隊はいかにして特別儀仗隊になり得たのか。その“裏側”を飯田2曹に聞くインタビューの第2弾。

(全2回の2回目/#1より続く)

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170180cm、60~75kg」特別儀仗隊に入る条件とは?

――飯田2曹はなぜ第302保安警務中隊、特別儀仗隊に入ったのでしょうか。

平成8年に入隊して横須賀で新隊員教育を受けていたときに、駐屯地のイベントで儀仗隊が来ていまして、そこで儀仗を見てスゴい、カッコいい、と。鳥肌が立つくらい感動したんです。それで自分も入りたいと思い、面接を受けて合格して入隊したのが始まりですね。それ以来ずっと第302保安警務中隊一筋でやっています」

――国賓や陛下の前での儀仗をする部隊ですから、誰でも入れるわけではないんですよね。例えば身体的な規定とかも……。

「そうですね、動きはもちろん見た目の姿もピタリと揃わないといけないので、身長170cm~180cm、体重60kg~75kg以下という規定があります。身体が小さすぎても大きすぎてもダメなんです。見た目を揃えるということでは中隊には3個小隊がありまして、1小隊から3小隊まであるのですがそれは格の違いということではなくて、身長順になっています。1小隊が身長が高く、中間くらいが2小隊、3小隊がやや低め。大きい人と小さい人が並んでいるとどうしてもバランスが悪くなってしまいますからね」

高校生の頃から体型は変わっていないですから」

――そしてその体型をずっとキープしていなければいけないと。

「もちろん。自分も高校生の頃から体型は変わっていないですから。私だけでなく隊員はみな体型の維持は意識していると思いますよ。身体を鍛えて筋肉量が増えて大きくなりすぎるというのもダメですし。あとはヘアスタイルも刈り上げは2分刈りが基本なんです。儀仗の本番前にはみんな散髪に行って揃えますし、ヒゲも朝剃って儀仗の直前に剃る。それくらい、身だしなみには気を配っています」

――ヒゲなんて朝に剃ったらそれっきりですよ……普通の人は。

「まあ朝の9時に儀仗があるならそれでいいんですけどね。でも昼過ぎだったら少し伸びてるじゃないですか。だから直前に剃るようにしないとだめなんです。銃剣や制服の管理も当然、これは儀仗隊と言うよりは自衛隊員にとっての基本中の基本でしょう」

一番厳しいのが「アイロンがけ」と「靴磨き

――儀仗服は惚れ惚れするほどにぴしっとしていますよね。

「新隊員が入ってきて一番厳しいのがアイロンがけと靴磨きなんです。訓練服に2本線が入っていたりすると真っすぐ立っていても真っ直ぐ見えなかったりするので、アイロンがけはとても大事。靴磨きも同様で、普通に磨くのではなくて我々は鏡のようになるまでピカピカに磨きます。これは入隊してから一個上の先輩がみっちり教えてくれる。これがまた大変なんですよね(笑)

――では飯田2曹もアイロンがけの達人。

「おかげで家では私が子供の服までアイロンがけ担当ですから。たまには妻にやってくれと言うんですけど、『パパのほうが上手でしょ』って言われちゃって(笑)。まあ、実際私がやったほうが早いんですけどね」

――とはいえそこまでアイロンがけに熟達するなど、若い男性隊員にとってはなかなか大変そうです。

「新隊員はまず基本教練を約3カ月くらいミッチリやります。毎日毎日姿勢を見られてミリ単位の動きを身体に叩き込む。それを1日中やるともう疲れてクタクタになるんですけど、その後部屋に戻ってからアイロンがけと靴磨き。部屋に戻っても先輩と同部屋だから落ち着かないのに、そこで慣れないアイロンがけと靴磨きを徹底的にやらされるわけですからね。これは厳しいですよ。でも、こうした厳しいところで育ってくることによって、新しい後輩たちにも教えていくことができて儀仗隊の伝統が継承されていくのではないかなと思っています。儀仗隊員なのは誰が見てもすぐにわかりますから、それでいて靴が汚かったら恥です」

「3カ月の基本教練と審査」特別儀仗隊に仲間入りするまで

――今のお話で新隊員の基本教練というのがありましたが、儀仗隊に入るためにはそこでの教練が欠かせないということですか。

「うちの部隊に配属されたら、まずは約3カ月の基本教練。その後に儀仗審査というテストをして、それに合格すれば特別儀仗隊の仲間入りです。最初の基本教練で一番大変なのは……そうですね、個癖の矯正でしょうか。人間は誰しも個人個人の癖がありまして、基本教練の段階ではなかなか直らないですね」

――飯田2曹も苦労されたのですか。

「私の場合は普通にまっすぐ立っているつもりでも左肩が少しだけ上がってしまうんです。でもそれを無理やり真っ直ぐにしていると、自分の体のバランスが崩れているような気がしてすごくやりづらい。こういう癖がみんなあるんです。横から見たら少しだけお腹が反っているとか、膝と膝の間が開いているとかですね。学生のときにやっていたスポーツも関係しているのでしょう」

「お前は毎回銃口が傾いているな」ではダメ

――その癖の矯正をしつつ、動きも身体に覚えさせていくという作業が新人隊員には待っているということですね。ミリ単位の動きなど想像もつかないのですがどうやって身につけているのでしょうか。

「最初は簡単にはできないですよね。訓練して、怒られて注意されて、それを積み重ねてだんだんだんだんできるようになってくる。数年でマスターできるとか、そういうものではありません。儀仗審査をクリアして隊員になったからといってもまだまだ練度は低いですから。1個小隊は9人ずつ3列に分かれて並ぶのですが、練度が高い隊員が最前列に立つことになっています。だからみんなそこを目指して技量を磨く。そのためには、訓練のときに同じようなことを言われていては話にならない。『飯田、お前は毎回銃口が傾いているな』ではダメなんです。前回の訓練で言われたことを、次の訓練では意識して直していかないと」

――先輩からの教えもあるのでしょうか。

「もちろん教えていただきますが、先輩によっても教え方が違うんですよね。自分ができないことを先輩に『どうすればできるようになりますか』と聞いて、教えてもらったとおりにやってもうまくできない。だけど他の先輩に聞いたらしっくりくるとか。そういう経験を繰り返しながら練度を上げて、自分流を作っていくというところでしょうか。そして教えるときにもそれが役に立ってくる」

「零細時間」で自分をどう磨くか

――なるほど。そうした地道な努力の積み重ねがあのぴったり揃った儀仗につながっているわけですね。技量を磨くためには自分の時間を使った“自主練”みたいなこともしているのですか。

「訓練の時間以外では武器を勝手に使うことはできないので、訓練時間の合間にある零細時間だけですね。全体での訓練だと他の人と合わせることになるので個人の技量を上げる時間はない。ですから、零細時間を活用して個人練習をするわけです。先輩に見てもらう人もいますし、大鏡の前で自分の世界に入って黙々と動きを確認している人もいる。その零細時間で自分をどう磨くか、そこで大きく変わりますね」

――訓練の合間の限られた時間での自己鍛錬で個人の癖などを直していく。そうして練度を上げていく。集中力も必要そうな印象ですが、そもそも訓練は毎日やっているのでしょうか。

「いえ、基本的には儀仗が決まって本番の3日前からです。1年中儀仗訓練及び本番をやっているのでみんな練度が高い隊員たちばかりですから、3日あればすぐにできるようになりますよ。訓練時間は午前の2時間ほど。ただ、最初から全体で訓練するのではなくて、まずは小隊の中の班で訓練をして、それがうまくいったら小隊、その後に中隊長の指揮下で全体の訓練をする。本番の予行は最後です。ですから、まず大事になるのは各班の班長。しばらく儀仗の間隔が空いていると感覚が少しズレていることもあるので、そこをポンと引き出していくのが班長の指導の腕の見せどころなんです」

訓練では「一番下手」、本番では「一番うまい」と思ってやる

――やはり訓練でも本番同様の緊張感を持って、ということになりますよね。

「もちろん緊張感は大事。私も訓練だって緊張しますし、指導するときには緊張感を持った訓練をやらせることが必要なんです。あまりフレンドリーに優しくやりすぎてもピリッと感がなくてうまくならない。班訓練の段階で緊張感を与えて早く動きを揃えていけるかどうか、ですね。ただし、緊張感を作るだけでも指導する立場としてはどうだろう、と。すごい集中して厳しくビシッとやって、合間にはリラックス。そのメリハリをうまく作っていくとだんだん全体の士気があがっていく。団結が生まれてくる。それを小隊訓練、中隊訓練に持っていく」

――そういう指導するという立場のお仕事にもなかなかやりがいを持っている感じですね。

「自分が思っているのは、訓練では一番下手だと思ってやって、本番では一番うまいと思ってやる、ということ。私は少年野球のコーチもしているのですが、儀仗隊での指導が役に立っていて、『練習では自分が下手だと思って、試合では一番うまいと思ってやろう』といつも言っています。まあ、少年野球では厳しくというわけではなくて楽しく、ですけどね(笑)

を掴んだときの“チャッ!”というきれいな音

――最後に、飯田2曹が儀仗にあたって一番大事にしていることを教えて下さい。

「儀仗隊長の号令にしっかり反応することですね。わずかに遅れたり早くいったりするだけで乱れてしまって儀仗は台無しですから。指導の立場でもそこを一番に見ています。最初の銃を掴んだときの音、それがずれるんです。揃うと“チャッ!”というきれいな音がするんですけど、少しズレたら音の幅がひろがるというか。前列に立っていてもわかりますよ。後ろで少しズレてるなあとか。でもねえ……早いですね。ついこの間まで列の中に入ってバリバリやっていたと思ったら、もう40歳を超えて指導していく立場ですから。即位の礼での儀仗も非常に楽しみにしているのですが、私は儀仗本部で隊員たちをサポートする立場ですから。だからこれからも自分の技量を高めつつ、儀仗隊の伝統を後輩たちに伝えていければ、と思っています」

 即位の礼でも晴れ姿を披露した特別儀仗隊(※11月10日の天皇・皇后両陛下のパレード「祝賀御列の儀」でも特別儀仗が予定されています)。毎年恒例の自衛隊音楽まつりでも、彼ら儀仗隊が登場してオープニングを迎える。まさしく自衛隊の“象徴”にして“花形”とも言えるのが、第302保安警務中隊の特別儀仗隊なのだ。彼らを見たときには、一糸乱れぬ動きの裏にある、受け継がれてきた伝統と隊員たちの訓練の積み重ねにも、思いを馳せてみてはどうだろうか。

写真=佐藤亘/文藝春秋

(全2回の2回目/#1まばたき“禁止”の一団――陸上自衛隊の花形「特別儀仗隊」を知っていますか?から続く)

(鼠入 昌史)

特別儀仗を行う陸上自衛隊第302保安警務中隊。銃剣の高さが見事に揃っている