「梅棒」は、ダンスエンターテインメント集団だ。ダンス集団、というほどダンスはうまくない。 それは、作・総合演出の伊藤今人も認めている(笑)ダンス集団という言い方をするなら、振付家集団。また、メンバーにはダンサーもいるが、半数が俳優だ。伊藤自身、劇団ゲキバカの劇団員でもある。

【写真を見る】お父さん(塩野拓矢)とお母さん(伊藤今人)/9月、東京公演の舞台より

作年の紅白歌合戦パフォーマンスを披露したり、最近は外部からの振付依頼もとみに増え、メンバーの俳優活動も多くなった「梅棒」。この10月1日、「梅棒」を法人化して株式会社dynamize(ダイナマイズ)を立ちあげた。これからの「梅棒」の活躍が楽しみだ。

彼らの生み出す世界観は、ノンバーバル(セリフなし)で演劇的。ちゃんと物語があり、それをダンスJ-POPで創り上げる手法だ。音楽をBGMに使うのではなく、楽曲の世界観や歌詞でシーンを表現、物語を展開させていく。なので、ダンス×演劇×J-POPダンスエンターテインメント集団。抽象的な表現になりがちなダンス表現だからこそ、観客に「伝わる」「伝える」ことを何より大事にしている。そして物語もシンプルでわかりやすい。ま、ギャグ漫画みたいな作品もあるけどね(笑)。でも、ギャグ漫画の楽しさを、セリフなしでそのまま表現できるのも「梅棒」ならでは。こんなことしてるのは「梅棒」だけなので、伊藤にそこらへんも聞いてみた。

今回は、新プロジェクト「梅棒 EXTRA シリーズ」。私は、この新プロジェクトは本公演とはまったく違う「梅棒」の新たな挑戦と思っていた。が、どうやらまだ未知数のようだ。もちろん再演シリーズではないが、外部の企画によって自分たちだけでは見えない、違った魅力が引き出されることもある。ま、私たち観客は、おもしろ素敵な「梅棒」の舞台を観る機会が増えるなら、それでいいんやけどね。伊藤いわく「この作品にして、すげぇ良かったと思いますね。めちゃおもしろいんで」。

第1弾『ウチの親父が最強』は、「梅棒」の自信作。9月に東京で幕を開け、福岡、三重と巡演し、間もなく大阪で大千秋楽を迎える。盛り上がりは必至のこの作品と「梅棒」について、伊藤今人に話を聞いた。

■ 今回のあらすじは?

かつて、お父さんお母さんと出会い、おじいちゃんに結婚を許してもらい、お母さんの実家のお好み焼き屋さんを継ぐ。長男・長女をもうけ幸せな5人家族となるが、とあることをキッカケに一気にどん底へ。が、家族は力を合わせ、頑張って這い上がろうと努力する。成長した娘は恋をし、再び幸せが訪れるかと思った時、家族は町のギャングの抗争に絡まれて、バラバラになってしまう…。

■ 記念碑的作品に

『ウチの親父が最強』は、2014年に「梅棒」第2回公演で初演された。「第1回目の公演はオムニバス形式の実験的作品だったんですけど、この作品は初めて一つのストーリーを通して上演した1時間半の長編。誰もが共感できる家族をテーマにしようと作った、僕らの記念碑的作品です。大事な作品なので、なるべく初演の形を残しつつ、今流にアップデートしたという感じですね」。

■ 以前の公演よりアップデートしたところは?

初演から5年経ってるので、若い子にとっては当時の曲が懐メロになってる。だから、今の曲も入れようって、全22曲のうち8曲が初演とは異なる曲を使っています。曲は変えましたけど、お話の内容はほぼ変えてません。ただ、初演のDVDを見ると、あまり踊ってないんですね。曲に合わせて、ちゃんと芝居してるみたいな感じで。ノンバーバルでこういう表現をして、お客さんに本当に伝わるのか、初演ではほんとに不安だったんです。でも、この5年間で、ここは踊っちゃっても大丈夫、という踏ん切りがつくようになりました。我々の身に付いたノウハウを生かして、初演より圧倒的に踊りが増えています」。

■ 今回のキャストのこと

成長した娘には横山結衣。「今年の4月、AKB48の仕事をやってた時に、すごく才能あふれる子だな、いつか一緒に仕事したいなと思ってたんです」。娘の彼氏を演じるのは若手注目株の俳優・多和田任益。「ひとりだけ、ズバ抜けて背が高いんですよ!長い手足を活かしたダイナミックダンスは必見です」。お父さん役は「梅棒」の塩野拓矢。「お父さん役、よくやります(笑)」。伊藤はお母さん役だ。「実は、この物語の中で一番強いのは僕です。次が犬(笑)」。

テーマとお客さんたち

「自分の弱さをさらけ出してるお父さんが、ほかの家族に支えられ勇気づけられて、最後に立ち上がるというお話です。テーマは家族ですが、父と娘の絆が一番色濃く出ると思いますね。お客さんは若い女性が観て、もう一度お母さんを一緒に連れて来る、というパターンが多いです。『お母さんともう一回観に来ました』って。お父さんを連れて来るのはあまりないですけど、家族で観たい、という感じで。とにかく、お話がすごくわかりやすいですからね」。

セリフはない、が…

 セリフを話していないのに、セリフを聞いているような気がする。これは歌詞のせい?「梅棒」の舞台を観たことがある人なら、この不思議な感覚を経験したことがあるはずだ。「お客さんは、勝手に自分の中でセリフを作ってる。セリフを補完するんですよ。『歌詞をうまく使ってるね』とよく言われるんですけど、歌詞がない曲でやっても、多分そのように聞こえると思います」。知っている曲、好きな曲などは、セリフも超える。その音楽の世界観が観客の中にインプットされているから、目の前でのシーンの空気や登場人物の心理までくっきりと伝わるのだ。ところが、知らない曲でもやはりセリフが聞こえる感じに。「おもしろいですよね。お客さんによって『あの時、彼氏はこう言ってたよね』と言うセリフが同じだったり、違ったり。だから、お客さんは舞台が終わったあと、みんなでお話するのが楽しかったりするんです」。

■ 一番大事にしていることは?

 「伝えること、ですね。僕はお客さんのリアクションを見るのが楽しみなんですけど、伝わってないと、そこまで行きつかない。観終わって『これはいったい何が言いたかったのかな?』ではなくて、『おもしろかった!』なのか『つまんなかったな、今回は』なのか、『泣いた!』か『楽しかった!』なのか。はっきりした感想をお客さんに持ってもらいたいという思いがあって、まずやっていることが伝わることが大事だなと。だから、ポリシーとして、どうやったら伝わるかを優先する作り方なんです。

ダンスの技術がある人は、その技術で納得させられる。アートとして成立させられる。僕らはダンスの技術で勝負できないところからスタートしてるチームなので、ダンスなのにお話が伝わるところを武器に勝負しないと生き残れなかった。だから、伝わる、伝えることを大事にしているんです」。

■ 法人化した今後の梅棒

 「僕らは今、ダンスエンターテインメント集団であり、振付家集団。本公演と別の事業としてやっているのが振付です。けっこうビッグタイトルやらせていただけるようになりました。それに、メンバーの半分は、もともとセリフをしゃべって小劇場で芝居をしていたメンツ。だから、俳優としても勝負できるっていうところに僕らは行きたいと思っているんです。そうすると、また違う幅の広がり方をしていくかなと。なので、これまでやってきている活動も拡大させつつ、セリフもしゃべりたいです(笑)」。

プロフィール

いとういまじん●1983年1/14、東京都出身。ダンスエンターテインメント集団・梅棒の代表。劇団ゲキバカに所属。梅棒の結成からすべての作品を振付・演出・出演し、外部作品への振付も数多い。また、今春には虚構の劇団「ピルグリム2019」に出演するなど、俳優活動の幅も広げている。振付で参加した劇団鹿殺しには、俳優として17年「パレード旅団」に出演、続いて今年も「傷だらけのカバディ」(12/5㊍~8㊐ ABCホール)の出演が控えている。

STAGE 梅棒EXTRA シリーズ『ウチの親父が最強』チケット発売中

公演日時:10月25日(金)19時、26日(土)13時/18時、27日(日)13時 会場:COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール 作・総合演出:伊藤今人(梅棒) 振付・監修:梅棒 出演:伊藤今人、梅澤裕介、遠山晶司、遠藤 誠、塩野拓矢、櫻井竜彦、天野一輝、野田裕貴(以上、梅棒)、多和田任益、横山結衣(AKB48 Team8・TeamK)、パイレーツオブマチョビアン、上西隆史(AIRFOOTWORKS)、永洞奏瑠美 価格:S席¥7,800、サービスエリア¥3,000 問い合わせ:キョードーインフォメーション(0570・200・888) HP:https://www.umebou-extra.com/

取材・文=演劇ライター・はーこ(関西ウォーカー・高橋晴代・はーこ)

梅棒・伊藤今人インタビュー