本能をおさえ、友達を、愛する人を、食べずにいることはできるのか。
アニメ『BEASTARS』(→公式サイト)。今日10月23日(水)24:55より、フジテレビ「+Ultra]ほかで、放映開始。
NETFLIXで毎週木曜日配信。

オープニングが2話から追加。人形アニメーションでハイイロオオカミのレゴシとウサギのハルが踊る、とても温かく幸せあふれる映像だ。
そこまでしておいて、ラストに血が流れる中苦しむレゴシの姿を入れ、雰囲気はひっくり返る。
かと思えば、エンディングはびっくりするほど明るい。
このさじ加減にスタッフの「BEASTARS」観が見て取れる。

誰にでも身体を開くウサギ
小さなウサギのハルが、大きなハイイロオオカミのレゴシをベッドに誘うシーン。どのくらいソフトにするのかと思いきや、ばっちり下着姿を描いて原作以上に露骨に性的になっていた。

オスから見て、ウサギのハルの姿はとても魅力的らしい。小さくてか弱そうでかわいらしいから。
ハル「オスたちはみんなこの顔を見て「守ってあげたい」とか「俺が傍にいなくちゃ」とか勝手に思い込んで近寄ってきて…幻想と違うと分かると 食い散らかして去っていく」

BEASTARS」の世界は、食欲と性欲がかなり近い位置で絡まっている。
例えば、ストリップショーや売買春がこの世界にもあることが原作では描かれている。ストリップで舞台の上で服を脱いでいくのは草食動物。周りにたむろうのは肉食動物のオス。性と食の興奮で、オスは目をランランとさせている。

ウサギのハルはその点、草食動物であり、メスであり、小動物、とあらゆる点で「食われる」の立場にいる。
第一話では「他のオスと裏で遊びまくってる」という悪口を流されまくっていたハル。それはまごうかたなき事実で、彼女は誰とでも寝て、その場限りの関係を過ごしている。性的にも控えるべしというのが倫理が一般的だとしたら、彼女を不審がっていた学校の周囲の動物たちのは、悪いとは言い切れない。

ハルがなぜ身体を開き続けているのかは、後に描かれていくだろう。
現時点では、ハルのような「か弱く小さい少女」像が、強い立場の動物たちの幻想になってしまっていること、その中で彼女がたくましく生きているところに注目したい。
レゴシのような「大きくて強くて肉食のオス」は、力だけ見ると強者だ。食欲と性欲の両方と冷静に向き合い、抑制してひっそり生きている様子は、たくましく生きようとするハルの立場と対称的だ。
OPの2人のサイズ比は、幼女と成人男性にすら見える。微笑ましくも、バランスを崩せば惨劇が起こるのは、しっかり描かれている。
彼が理性的だったとしても、2人並ぶと周囲はレゴシに疑いの目を向けかねない。レゴシ自身も不安を抱えている。共存への双方の恐怖感は、そうそう無くならない。

共存の象徴たるビースター
アカシカのルイは、ビースターを目指すエリートの少年。ビースターとは「この世界の差別や恐怖を超越する英雄的地位」のこと。
メンタルの強さや賢さだけではなく、絶対的カリスマを持った平和の象徴。存在するだけで皆が安心する立場のことだ。

ルイが演じる劇の主役「アドラー」は死神。劇中の全ての登場人物を圧倒する力の持ち主だ。
ルイ「本気で来い。草食の俺がアドラーを演じること、肉食のお前たちが本気で襲いに来ること。その全ての意味を舞台で示すんだ。今回はことさら強く」
彼は演劇の中で、草食動物は肉食動物の暴力を超越しうることを、比喩的に表現しようとしている。

草食動物が肉食動物と暮らす際、法的な保護が必要になる。ゆえにこの世界では、食肉は重罪とされている。
それでも、1話ではアルパカのテムが何者かに食い殺されてしまった。肉食動物の牙と爪の前では草食動物は勝てないことが露見してしまった。演劇でこの恐怖を取り除こうとする意図はありそうだ。

ルイは1話で、とても冷淡で厳しい存在として描かれていた。部員は彼のオーラに全く勝てる様子がない。
しかし2話では咄嗟に仲間をかばう様子や、自分に対して非常に厳しい思考を見せた。
ルイの魅力は、この不安定さにある。自分にも他人にも厳しく気高い雰囲気をまとっているものの、年相応の感情のブレや誠実さもある。彼の普段の芝居がかった口調は、本心でもあり、虚勢でもある。
そのくらいしないと、肉食動物と共存する草食動物の世界は作れない。全てを担うために、自分を律し続けている。
喧嘩をしていた肉食動物に、彼は毅然とした態度で言う。
ルイ「この世界にビースターが必要な理由をよく考えて まずは自分を正せよ」
野心からトップになりたいわけではない。彼の共存哲学がこのセリフに込められている。

肉食動物の食生活
食堂のシーンでは、草食動物と肉食動物が一緒に食事をしている。
草食肉食ともに、食べていいのは野菜、卵、牛乳、虫まで。魚以上はNG。肉食動物が主に食べるのは、豆製のタンパク質や卵製品だ。
卵については3巻20話のニワトリ少女の短編で細かく描かれている。生むことに情熱を注ぐ彼女の姿はとても青春しているので、是非読んでほしい。

食べなくても健康に生きていける上に、味もいいのなら、十分満たされているはず。
いわば「人間は人間を食べれるけど、食べなくても生きていける」思考に近いんだろう。
ただ、この作品に出てくるのはあくまでも動物だ。本能的に襲ってくる草食動物への食欲の行き場のなさを我慢できるかどうか。
肉食動物と草食動物が同じ食堂で食事できているだけですごい。ちゃんとルールを守って、誰も傷つけない肉食動物たちは、褒められてもいい。

次回は「共存と共栄」を表現する「アドラー」の演劇本番。
ルイとレゴシ、2人の思想のすれ違いが、この世界のありかたをえぐりはじめる。

(たまごまご)

『BEASTARS』コミックス2巻 原作:板垣巴留