北朝鮮金正恩委員長が、韓国の文在寅大統領が提唱する南北経済協力に対してダメ出しをした。北朝鮮国営の朝鮮中央通信は23日、金正恩氏が金剛山観光地区を現地指導したと報じた。金剛山観光事業は、開成工業団地とともに南北経済協力の象徴とされていたが、2008年に韓国人観光客が北朝鮮兵士に射殺される事件が起きて以来、10年以上中断されている。

昨年9月に行われた南北首脳会談では、金剛山観光事業の再開が合意されている。文在寅氏は南北融和の象徴として早期の事業再開の意思を度々示している。しかし、金正恩氏は「見ただけでも気分が悪くなるごたごたした南側(韓国)の施設」と韓国側が建設した施設を罵倒。さらに、南北関係の象徴ではないとしながら撤収まで指示した。文在寅氏が切実に望む南北協力事業に対する拒否といえるだろう。

10年以上も稼働していないとはいえ、数百億円の投資をした韓国からすれば極めて無礼な言い草だろう。確かに金正恩体制は韓国の文化に対して厳しい見方をしてきた。例えば、密かに出回っている韓流ビデオを厳しく取り締まっている。時には韓流の動画ファイルを保有していたという容疑だけで、女子大生を拷問し悲惨な末路に追い込んだ。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

興味深いのは金正恩氏の非難が韓国だけでなく、北朝鮮側、つまり内側にも向けられていることだ。金正恩氏は「容易く観光地を明け渡して何もせず利を得ようとした先任者らの間違った政策」「政策的指導を担当した党中央委員会の当該部署が金剛山観光地区の敷地をむやみに明け渡し(後略)」などと述べた。

金剛山観光事業は2000年に、金正日氏と金大中元韓国大統領との間で行われた史上初の南北首脳会談で合意された。「先任者」「党中央委員会の当該部署」という表現ではあるものの、金正日氏が進めた政策を否定したものといえる。北朝鮮の最高指導者がここまで露骨に過去の政策を非難するのは極めて稀なことだが、それだけ金正恩氏は父の過去の政策、とりわけ負の遺産に不満をもっているのかもしれない。

金剛山観光事業に限らず、金正恩氏は南北経済協力などの約束を履行せず、米韓合同軍事演習を続ける文在寅政権への非難の声を日増しに強めている。それだけ文氏に対する苛立ちが大きいといえるが、こうした非難に対して何も言い返せず、対処も出来ない文氏を、金正恩氏はもはや見切りつつあるのではなかろうか。

金剛山観光地区を現地指導した金正恩氏(2019年10月23日付朝鮮中央通信)