近畿大会王者として、インターハイの陸上・男子走り高跳びに出場した大阪府立大塚高等学校・江頭亮くん(3年)。2メートル15という記録で見事優勝に輝きました。しかし、目指していた日本高校新記録を達成できなかった悔しさの方が大きいと話すほど、ストイックに次の大会を見据えています。江頭くんと、指導を行った舩津哲史先生にお話を伺いました。

優勝の喜びよりも新記録を出せなかった悔しさが勝る

【江頭亮選手インタビュー】

―― 優勝した感想をお聞かせください。

今回、跳べたのは2メートル15でした。優勝は当たり前で、日本高校記録(2メートル23)を超える跳躍をするという目標を持ってここまで練習してきたので、2メートル21に挑戦して失敗してしまったときには悔しさでいっぱいでした。今までの陸上人生で一番悔しかったですし、いまだに思い出して後悔することもあります。新記録を出して優勝を決めたかったです。

―― 優勝できた一番の要因は何だと思いますか?

自分の跳躍に集中できたからだと思います。試合中も他の選手の跳躍は見ないようにして、自分が次にどのように助走し、ジャンプするかというイメージを頭の中で固めることに集中しました。

技術面では、もともと自信のあった踏み切りに加えて、今年に入ってから助走が安定するようになり、助走から踏み切りにしっかりとつなげて跳躍できるようになったことがよかったと思います。

理想の跳躍を追い求めて将来は日本代表を目指す

―― 一番苦しかった場面はありますか?

インターハイでは、2メートル21を跳べなかった瞬間が一番苦しかったです。高校3年間の陸上生活を振り返ってみると、一番苦しかったのは2年生のときでした。5月に2メートル10という当時の自己ベストを出せたものの、腰のケガなどにも苦しめられ、そこからは2メートルを跳べるか跳べないかの記録しか出せない状態が続きました。

危機感をおぼえ、2年生の冬からは先生に提案してもらったメニューをしっかりこなし、お尻周りを重点的に鍛えたり踏み切りを強化したりしました。3年生のシーズンが始まってからは順調に記録が伸ばせて、例年調子の落ちる夏場も好調だったので、冬にしっかりと鍛えた成果が出たと思いました。


―― 勝利のために一番努力したことは何ですか?

一番は、気持ちを強く持つようにしたことです。2年生までは周りの跳躍を気にするあまり、迷いが出て自分の跳躍ができなくなってしまったので、自分のことだけに集中するよう心掛けました。また、苦手だった走り込みも積極的に行いました。

いつも僕の状態や足りないものを考えて、個人練習メニューを作ってくださった、顧問の舩津先生の存在も大きかったです。先生に反論して衝突することもありましたが、それでもいつも僕のことを考えてくれていました。高校新記録を出すことは、僕の目標であり先生の目標でもあったので、ここまで頑張ってくることができたのだと思います。


―― 今回のインターハイ全体に対する感想を教えてください。

インターハイは悔しい結果に終わりましたが、まだ高校在学中にいくつか大会が残っているため、まずはそれらの大会で高校新記録を出せるように頑張りたいです。

今後は大学に進学する予定ですが、1年生からインカレで勝てる選手になって、将来は中学生のときからの夢である世界大会で入賞・優勝できる選手になりたいと思います。自分の理想の跳躍ができたら自ずといい記録がついてくると思うので、気持ちを強く持って戦える選手になりたいです。

「何のための練習か」を話し合い、築いた信頼関係

【舩津哲史先生インタビュー】

―― 優勝後、選手にどのような言葉をかけられましたか?

私も江頭も、「優勝するのは当たり前。日本高校新記録を跳ぶ」という気持ちでインターハイに臨んだので、新記録を達成できずに悔し泣きしている彼を見て、私自身も悔しい気持ちでいっぱいになりました。

しかし、インターハイ当日は台風が接近中で、横殴りの雨風に見舞われる難しいコンディションでした。そんな悪天候の中でもしっかり跳んで優勝を決めたのだから、「胸を張っていいんだよ」と声を掛けました。

―― 日頃の練習ではどのようなことに注意して指導されていましたか?

私は陸上競技を30年以上経験してきて、さまざまな選手の成功と挫折を見てきました。だからこそ、彼の将来を見据えてアドバイスできることもあります。彼が未来の日本代表を目指すうえで、一つひとつの練習がなぜ必要か、何のためになるのかをしっかり伝えるようにしていました。

そうすると、だんだん自主性が芽生えてきて、「自分はこういった練習が必要だと思います」と、彼の方から意見を伝えてくれるようになりました。ときにお互いの意見が割れてぶつかることもありましたが、その度に話し合って信頼関係を築くことができたと思います。


―― 一言で表現するなら、どのような選手だと思われますか?

非凡なジャンプのセンスを持っている、とても潜在能力の高い、大器晩成タイプの選手です。まだまだ伸びるでしょうし、将来的には日の丸を背負ってくれると期待しています。 自分の意見や信念を持ち、周りに流されない選手だからこそ、彼に合わせた専用の練習メニューを組んでサポートしてきました。最近では、後輩を熱心に指導するなど、成長した姿を見せてくれています。


―― 今後、優勝した経験をどのように生かしてほしいと思われますか?

彼にとっては、今回のインターハイでの優勝は一つの通過点に過ぎないと思います。彼自身が目指している理想の跳躍フォームを獲得できたときに、素晴らしい記録が出せるのではないでしょうか。大学に進学しても、周りの一流選手を観察して学びながら、日本を代表する選手へと成長してほしいです。



舩津先生と意見が衝突し、「練習の途中で帰ってしまったこともあった」と少し恥ずかしそうに振り返った江頭くん。けれど、その度にもう一度話し合い、歩み寄りながら信頼関係を築き上げてきました。決して優勝という結果に満足せず、悔し涙を嬉し涙に変えるため、さらなる記録や理想のフォームを追い求める江頭くんの今後の活躍が楽しみです。


profile】大塚高等学校 陸上部
舩津哲史先生
江頭亮くん(3年)