軍用車両は、価格と維持コストを抑えるために、あまり複雑な作りにはしないものです。しかしイタリアを代表する自動車メーカー、アルファロメオが作った軍用車は、ひと味違いました。見た目はジープですが、中身は別モノです。

アルファロメオ戦後唯一の軍用車

アルファロメオといえば、イタリアを代表するスポーツカーブランドのひとつですが、かつては軍用の4輪駆動車を生産したこともありました。

1940年代末、アルファロメオは高級車メーカーから脱皮し、大衆車メーカーに生まれ変わろうと、1950(昭和25)年に新開発の「アルファロメオ1900」をリリースしました。同車は「レースに勝つファミリーカー」と形容されるほどのスペックで、先進の「直列4気筒DOHCエンジン」搭載、前輪サスペンションは左右が別々に動く「ウィッシュボーン式独立懸架」と、当時の水準からするとかなり凝ったものでした。

一方同じころ、イタリア陸軍は山道なども走行でき、偵察任務などにも使用可能な汎用の小型4輪駆動車を欲しており、国内自動車メーカーであるアルファロメオフィアットの2社に対し開発を依頼します。

この依頼に対し、アルファロメオが開発ベース車に用いたのが、前述の「アルファロメオ1900」でした。

スポーツカーのDNAを軍用車に注入

アルファロメオは1951(昭和26)年に、前述した軍の依頼に対する試作車を発表します。「1900」の設計を流用していたため、イタリア語で「軍用」を意味する「Militare」の頭文字を付けて「1900M」と命名されました。

「1900M」は、一見するとアメリカ製の「ジープ」によく似ていました。しかし「1900」と同じエンジンを搭載し、前輪も同じ独立懸架式と、中身はまるっきり別物です。「ジープ」が戦前設計のサイドバルブエンジンを搭載し、サスペンションもトラックと同じ板バネであったことと比べると、「1900M」ははるかに現代の乗用車に近い作りといえます。

こうして「1900M」は1952(昭和27)年から量産が開始されます。ところが、凝った作りが影響したか否かの真相は不明ですが、わずか2年ほどで生産終了となります。民間仕様の154台を含め2100台程度が作られたそうですが、その後アルファロメオ軍用車両に関わることはありませんでした。

ちなみに、アルファロメオ「1900M」と並行して開発されていたフィアットの「カンパニョーラ」は、「1900M」と同時期にイタリア軍に採用されました。こちらも市販乗用車の部品を流用していたものの、より堅実な設計を採用していたことが幸いしたのか1973(昭和48)年まで生産され続け、民間仕様車も売れ行きが好調でした。

アルファロメオが戦後開発した唯一の軍用車両「1900M」。同社製車両のシンボルである盾型グリルを用いている(画像:Massimo Campanari/123RF)。