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《やせている高齢者ほど、認知症になりやすいーー》

今年7月に公表された驚きのデータが話題を呼んでいる。

研究は、山梨大学のほか40の大学・研究機関が参加する「日本老年学的評価研究機構」(東京・台東区)が実施したもの。愛知県に住む65歳以上の高齢者3,696人を対象に、’10年から約6年間追跡調査したところ、338人が認知症を発症したが、発症率は太っている人のほうが低かったというのだ。調査に携わった山梨大学大学院の横道洋司准教授は次のように話す。

「生活習慣病のなかでも、糖尿病は認知症のリスクを高めているということはすでに確証が取れていました。ところが、肥満度を表す体格指数のBMI(体重を身長の2乗で割った数値)が18.5未満のやせ型の高齢者ほど、認知症にかかるリスクが高いということがわかりました」

昨年12月に日本老年医学会が公表した「高齢者肥満症診察ガイドライン2018」でも、「高齢者のBMI高値(肥満)は認知症の発症リスクとはならない」「高齢者のBMI低値(やせ)や体重減少は認知機能低下や認知症のリスクにつながるので注意がある」という報告があった。

「74歳まではメタボ健診で腹囲を測って『やせろ、やせろ』としつこく生活指導をされますが、これは大きな間違い。多くの研究で、太めのシニアのほうが認知症のほかにも、心臓病、脳卒中にもなりにくいという結果が出ています」

そう語るのは、『長寿の嘘』(ブックマン社)の著者で、日本応用老年学会の柴田博理事長だ。

柴田理事長によれば、血液中の成分に注目することが大切だという。チェックするべき数値は主に、「赤血球数」「コレステロール」「アルブミン」の3つ。やせて低栄養の状態になると、血液検査でこれらの数値が減ってくる。認知機能の低下だけでなく、免疫力の低下や骨折のリスクが高まることにつながるので注意が必要だ。

「赤血球は肺から出た酸素を取り込み、体の隅々の細胞に運ぶと同時に、不要になった炭酸ガスを持ち去る働きがあります。コレステロールは体内に170グラムほどあり、その4分の1は脳に存在します。不足すると認知症の原因となります。アルブミンは、血液の量をコントロールして体の放熱を調節するほか、体の酸化や炎症を抑える、栄養や有効成分を体内組織に運ぶといった働きがあります。粗食によって低栄養の状態になると、これらの機能が低下して病気につながりやすくなるのです」(柴田理事長)

自分がやせているという自覚症状のある人は、これらの数値に加え、次のチェックリストにあてはまっていないかチェックしてみよう。該当する項目が多いほど、“危ないやせ型”にあると言える。

□標準体重を下回っている
□貧血気味で、立ちくらみをすることがある
□毎日の食事はおかずよりごはんが多め
□魚は食べるが、肉類をあまり食べない
□血液検査で赤血球、アルブミン、HDLコレステロール値が基準値よりも下回っている
□体を動かすことが苦手、嫌い
筋トレにはこれまで取り組んだことがない
□あまり社交的ではなく家で過ごすことが多い

柴田理事長がいう、理想の体型はBMI25〜27.5。身長160センチなら標準体重(BMI22)は56.3キロ。これが64キロ以上の“小太り”(BMI25)でもいいということになる。身長と体重を計測して、標準体重以下だったら、効果的にBMIを上げたいが、食べ方にもコツがあるという。

「体の機能を衰えさせないためには、食生活を見直すことが肝心です。基本は3食しっかり食べる。朝ごはんを抜くなど欠食は絶対に避けましょう、また、ごはんなどの糖質だけを取ると筋肉がつかずに脂肪だけ増えてしまうのでおすすめできません。肉や魚、卵などから動物性タンパク質をしっかり取ることが大切。特にシニアは魚に偏りがちですが、お肉も積極的に食べるようにしましょう」(柴田理事長・以下同)

悪者扱いされがちな肉の脂身やバターなど乳製品の脂肪分も大事な栄養素。1日1品は油を使ったおかずを食べて、毎日牛乳を200ミリリットル程度飲むといいそうだ。

「加齢とともに認知機能を低下させる物質のホモシステインが血液中にたまりやすくなりますが、牛乳に含まれるビタミンB12が排せつを促します。旬の食材の調理法と保存法を工夫するなど、食べることに関心をもって情報を集めるようにしましょう。食事を見直すと、1カ月程度でアルブミンの数値は改善してきます。いきなり筋肉をつける運動をするのではなく、栄養状態を改善させながら、体重を増やすことが先決です」

筋肉をつける運動も、わざわざジムに行かなくても近所でのウオーキングや自宅でテレビを見ながらスクワットなど、負荷をかけるだけで十分だという。