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 腸は第二の脳と言われて久しい。腸と脳がタッグを組んでいるという話はもはや周知の事実だ。少なくともマウスの実験では、腸内細菌が行動にまで影響を与えているという証拠は着々と集まってきている。

 今回新たに発表された研究によると、腸内細菌を取り除いたマウスや、無菌室の中で育ったもともと腸内細菌がいないマウスは、一度植え付けられた恐怖を忘れられないことがわかったという。

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通常なら、そこに恐怖がないとわかれば消えていく恐怖心

 通常、動物は環境が変化すれば行動を変えて適応する。そのよく知られた事例として「恐怖消去学習(恐怖条件付け)」というものがある。

 動物に音や光などの無害なものから嫌な連想をするよう教え込んだとしよう。しかし、その連想がもう当てはまらないことがわかれば、動物はそうした印象を忘れることができる。

 もっと具体的に説明すると、たとえばマウスにある音を鳴らすと同時に電気ショックを与えてみる。するとマウスは音を聞いただけで、恐怖で身をすくませるようになる。

 そして今度は音が鳴っても電気ショックを受けないという経験を繰り返しさせてやる。すると、音は特に危険ではないのだということを学習し、やがて音が鳴ってもマウスは怯えたりはしなくなる。

 お腹の中に健康的で多様な腸内細菌を持つマウスなら、危険がないことがわかればそこで恐怖心はなくなるのだ。

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腸内細菌をとりのぞくと恐怖を忘れられなくなるマウス


 ところが、抗生物質で腸内細菌を取り除いたマウスや、無菌室の中で育ったためにもともと腸内細菌がいないマウスになると話が違う。

 そうしたマウスは恐怖を忘れられない。どんなに音が安全であると教えても、相変わらずそれを聞けば身をすくめてしまう。まるでPTSDの患者のようだ。

 なぜ腸内細菌がいなくなると恐怖を忘れられなくなるのだろうか?

 これまでの研究によって、迷走神経と適応免疫系が腸と脳をつなぐ経路であることが明らかにされてきた。

 そこで米コーネル大学の研究グループは、無菌マウスの迷走神経と免疫系を調べてみた。ところが、それらは特に問題なく機能していたのだ。そのふたつの経路はシロということだ。

腸内細菌を取り除いたマウスの遺伝子が変化

 そこで研究グループは次に、脳の「内側前頭前皮質」という恐怖消去学習に大きな役割をはたしている領域で発現する遺伝子を見てみることにした。

 すると腸内細菌を取り除いたマウスは、「シナプス(神経細胞同士の結合部)」の組み立てと統合に関連する遺伝子が過剰に発現していることがわかった。

 また恐怖の記憶を保存しておく領域の「興奮性ニューロン」の密度が高い一方、消去学習をうながす領域の興奮性ニューロンの密度が低いことも判明した。

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シナプス可塑性が低下し代謝産物も大きく減少


 さらに恐怖消去実験の最中に脳撮像検査を行なってみると、無菌マウスは「樹状突起スパイン」の形成が少なく、スパイン消去が多いことが確認された。

 樹状突起スパインはシナプスの半分を形成し、ニューロン結合には不可欠なものだ。つまり腸内細菌は脳細胞の中の遺伝子発現を左右し、シナプス可塑性を低下させていたということになる。

 その結果として、学習が阻害され、恐怖を忘れられなくなっていたということだ。

 さらに腸内細菌が分泌する代謝産物を確かめてみた。この検査からは、無菌マウスの脳脊髄液の中で、とりわけ4種の代謝産物が大きく減少していることがわかった。そのうちふたつは人間の精神神経疾患にも関係があるとされるものだ。

腸内細菌と神経の共進化の謎

 とはいえ腸内細菌と学習との関係は完全に明らかになったわけではない。恐怖心に取りつかれているからといって、くれぐれも安易に自己流で流行りの便微生物移植をやって安心してみようなどとは思わないことだ。

 共進化を遂げてきた腸内細菌と神経系と哺乳類の行動との関係をもっと詳細に定義する必要があると研究グループは述べている。

 この研究は『Nature』(10月23日付)に掲載された。

 かつて日本人は世界一の怖がりであり、多くの人が恐怖遺伝子を持っているという報道があったが、もしかしてそれって腸内細菌が関係している?

References:Are you a mouse who can’t let go of fear? Your microbiome might be the problem | Ars Technica/ written by hiroching / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52284122.html
 

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