お遍路”と聞いて、あなたは何をイメージするだろうか?
白装束に身を包み、四国なら八十八か所の霊場を巡る長い旅。以前に大泉洋が『水曜どうでしょう』(北海道テレビ)でお遍路に挑戦して話題になったが、多くの人にとっては、定年退職などで時間のできた人がするもの、自分とは縁遠いものというイメージが強いのではと思う。

筆者の知人に、リストラ、失恋、大病で手術……といったトラブルを短い期間に経験し、厄払いのために四国へお遍路の旅に出た女性がいる。戻ってきた彼女は肌ツヤがよくなり、ふた回りほどスレンダーになり、何より表情がとても穏やかになっていた。梅雨時など厳しい天候の時期に歩いたにも関わらず「楽しかった」「各地で老若男女いろんな人と交流できた」と話していたのが印象的に残っている。

歩いて札所を巡る“歩き遍路”なら、最低でも1か月以上かかると言われる四国お遍路だが、最近は旅行代理店などが企画するバスを使ったツアーなどさまざまな巡り方があるそうだ。また、若い世代や外国からのお遍路さんというのも増えてきているという。
いまどきのお遍路事情はどうなっているのだろうか? 

NPO法人「遍路とおもてなしのネットワーク」によると、お遍路さんの年齢構成は大まかには50〜60代が半数を占めるが、2〜3割は20〜30代の若者なのだという。また割合的には少ないが、ヨーロッパや日系人の多いブラジルなど海外からの参加組も近年は増えてきているのだそうだ。
このサイト内で「歩き・女性遍路相談」を担当している、お参りの作法の指導や案内をするガイドであり、お遍路エキスパートでもある“先達”の福田久恵さんはこう語る。

「本来遍路というものはそれぞれが業を背負ってするものとされていたので、その動機は尋ねないのがマナーとされているのですが、若い方の場合は、“就職が決まらなかった”“リストラで時間ができた”というものや、“履歴書に『四国遍路してきた』と書きたい”という方など、就職に絡む動機が多いようです。精神的に弱い自分を変えたいという方ももちろんいるのですが、死を覚悟して臨んでいた昔のお遍路さんのような切迫感はなく、もっと気楽な感じですね」

こういったお遍路さんの年齢構成の変化や時勢の変化にともない、インターネットを活用した情報交換もさかんになっている。福田さんによると

●お寺ごとの縁起やお参りの作法などの基本情報……四国八十八カ所霊場会公式HP
お遍路に関するお役立ち情報が満載……掬水へんろ館
お遍路初心者向けSNS……四国お遍路さんサポートSNS

などがおすすめなのだとか。また、スマートフォン周りのサービスとしても、廻った札所を記録できるAndroidアプリお遍路ーるα」が登場し、お遍路さんたちをサポートしている。

福田さんがHPで受ける問合せには、「女性一人でも大丈夫でしょうか?」という安全面の不安に関するものが多いそうだが、のどかな四国であっても男女に関わらず盗難などのトラブルはゼロではないので、「遍路は日常生活ではないので、気持ちを切り替えて歩いてほしいですね。最近は“山ガール”姿で歩く女性遍路さんも多いですが、定番の白衣姿で歩けばお接待(食べ物やお賽銭といったおもてなし)もいただけますし、お寺や地元の方も快く対応してくれます。白衣姿の人を襲おうとする輩はそうそういないでしょうから、保身にもなりますし」(福田さん)とのこと。

弘法大師の足跡を巡拝する四国お遍路は、来年で開創1200年という節目を迎える。地元四国では、世界遺産登録を目指して4県の官・民がタッグを組んで国内外でのお遍路をPR。遍路道を快適に歩けるような環境作りにも力を入れている。先に挙げた「お遍路おもてなしネットワーク」の事務局長・松岡敬文さんによると、

「現在はお手洗いインターネットを使ったり、携帯電話の充電などでお遍路さんサポートする“おもてなしステーション”の設置に力を入れていて、これが四国全体で500か所超になりました。私共のHPにはおもてなしステーションマップgoogle mapで掲載していますので、歩きながらスマホで見ることができます。このHPは海外から来てくれる方のために英語、フランス語スペイン語にも対応させました。また道案内のシールや、目印になる石柱を増やしているところです。私自身もスペインフランスなどで世界遺産の巡礼道を歩いてみたんですが、あたり一面ブドウ畑の中を歩いた時、巡礼者に自分でもぎって食べてもらうという“おもてなし”は果物の多い四国でも応用できると考えました。さっそく接待木“実のなる木”としてみかんやびわなどの果樹をJRの駅や国道沿いなど遍路道周辺に植えています」

とのこと。
さらにこのおもてなしの心を次世代へ継承しようと、地元の中高生に植樹や水やりなどの世話を呼びかけ、現在この接待木は彼らによるボランティアで管理されている。こういった地域ぐるみの“おもてなし”の輪が、今も変わらず続いているというのだから驚きだ。

そしていまどきらしいユニークな取組みとしては、歩き遍路の健康効果を実感してもらうために無料の血液検査(現在30名のモニターを募集中)を実施している。四国一周を通しで歩く人が対象で、NPOに申し出たのち、まず出発前に自分で血液検査を行っておく。歩き遍路に出発して結願前にNPO協力医院で採血すると、結果がメールで後日送られてくるというもの。メタボや健康が気になっていて歩きたいという人にはおすすめだ。

「札所を一度に巡る“通し打ち”だけでなく、忙しい人には土日や連休を使って区切って札所を巡る“区切り打ち”という方法もあります。歩きのほかに車や観光バス、最近では自転車で札所を回る方も増えています。険しい山ですとか歩くのがしんどいような場所もありますが、そこを一歩ずつ進むことで自信がついて、みなさん顔つきが変わってくるんですよ。食事や道案内などのおもてなしを受けることで、今まで当たり前のように考えていた周囲の人への感謝の気持ちも忘れないようになる。道中でのさまざまな出会いやおもてなし、そして何より自分の力で歩き通した達成感は格別のものでしょう。歩いた人一人一人に、その後の人生に大きな影響を与えるようなドラマがきっとあります。心に火が付き、“お遍路にまた行きたい”“周囲にも勧めたい”と口コミでじわじわと広がり、結果的に1000年以上続いているんだと思います」
と松岡さん。

こうした地元の人たちの手厚いサポートはもちろん、現代の利器も活用できるようになり、ぐっと身近になったお遍路。神聖なお寺を回るのでもちろん神仏への敬意は忘れないようにしたいが、人生に迷ったりリセットしたい時の選択肢のひとつとして、心に留めておいてもいいのかもしれない。
(古知屋ジュン

約1200年前に弘法大師が歩いた道を巡拝する四国お遍路。中には“遍路ころがし”と呼ばれる険しい山道も存在する。(C)JTA/(C)JNTO