先日のプロ野球ドラフト会議で、千葉ロッテマリーンズが、令和の怪物・佐々木朗希選手の交渉権を得ました。

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 名伯楽の吉井理人ピッチングコーチのもと、二木康太種市篤暉といった20代の若手ピッチャーが台頭し、平沢大河安田尚憲藤原恭大といった近年の甲子園を沸かせた大型野手たちも主力になりつつある若いチームです。将来を考えても恵まれたチームに決まったと思います。

 もうひとりのドラフトの目玉だった奥川恭伸は、ヤクルトが交渉権を得ました。この世代が「佐々木世代」と呼ばれるのか、それとも「奥川世代」と呼ばれるのか。はたまた同じく一位指名だった堀田賢慎(ジャイアンツ)、西純矢(タイガース)、宮城大弥(バッファローズ)ら、他の名前が引用されるのか。

 数年後を想像しても、楽しみなドラフトでした。

 そうした新世代の活躍が期待される一方で、永川勝浩カープ)や館山昌平スワローズ)が引退し、「松坂世代」の現役選手が減り続けています。藤川球児タイガース)の今シーズンの完全復活や、和田毅ホークス)の日本シリーズでの好投など、活躍し続けている選手もいますが、なにせ名前が使われている松坂大輔自身が、来シーズンの所属先が決まっていません。

「松坂世代」は「ロスジェネ世代」

 約100人近くが在籍し大勢力を誇ったのも今は昔で、年齢にはあらがえず、これも時代の流れなのでしょうか。

 その「松坂世代」は、1980年まれの学年で、いわゆる「ロスジェネ世代」の終わりのころに当たります。1990年代後半から2000年前半の就職氷河期に社会に巣立ったこの世代は、非正規雇用者が多く、低賃金に悩まされ、未婚率が高いまま年齢を重ねています。

 40歳、フリーライターで収入は不安定、未婚で彼女なし。『ロス男』(平岡陽明)の主人公の吉井もそんな「ロスジェネ世代」の一人。

 物語は唯一の肉親だった母親を亡くした喪失感に陥りながら、先行きに閉塞感を感じていた吉井が、ある日、元同僚で大先輩のカンちゃんと再会するところから始まります。それをきっかけとして末期の癌に侵されたカンちゃんの奥さんや、アスペルガーの女性作家、LGBT男子高校生とも知り合い、心の中の何かが変わり始めます。

 恵まれない世代として、社会を責めつつ、人生のリセットを願っていたはずの吉井ですが、物語を通じて待遇の良い会社に転職するわけでもなく、結婚はおろか彼女さえできません。それでもラストにかけて、晴れ晴れとした表情になっているのはなぜでしょうか。

 ここに本書に込められたメッセージがあり、それは世代を超えてのすべての読者に対しての応援歌でもあります。読書の秋にふさわしく、しんみりとしたこの物語、ぜひ読んでみて下さい。

エッセイ? 物語?

 続いて紹介するのも、吉井と同じ40代、独身、フリーライターが著者の『私のことはほっといてください』(北大路公子)。

 同じような境遇にいながらも北大路さんは、吉井と違って閉塞感はみじんも感じてはおりません。かといって自分に何も期待していないので、あるがままのエッセイが書けるのでしょう。本書も、狭い行動範囲のなかでの、何気ないエピソードの数々にクスッとさせられます。

 例えば、どこの家庭にもあり、私も今朝食べた「納豆」。身近な食品だけに、その存在を深く考える人はいないと思いますが、著者の手にかかれば違ってきます。その納豆の食べ方が、いつの間にかSFの物語として展開してしまうなんて、いったい誰が予想するでしょうか。

 そして、どこの台所でも使っている「鍋の蓋」。万が一紛失してしまったら、ホームセンターに行って代わりの蓋を買ってきて終わりのはずですが、やはり著者は役者が違いました。その紛失した蓋をキーパーソンにして、台所内での鍋同士の人間ドラマに繋げてしまうという恐るべき想像力を発揮するのです。

 ・・・と、ここまで紹介した内容は、当然ながらすべて著者の頭の中だけで組み立てられたもの。

 エッセイは、何かを見た、食べた、誰かに会った、というような新たなトピックを切り口にすることが多いジャンルです。その中にあって、特にインプットしないままに何気ない日常生活を切り取り、調理している著者の手腕はあきらかに異質で、もはや名人芸の域に達しています。

 さらにこれまでの著作と比べ、本書は、物語的要素が濃くなっています。もしかして著者は、エッセイと物語を融合した新しいジャンルを切り開こうとしているのかもしれません。どんどん進化している名人芸のエッセイをお腹いっぱい楽しんで下さい。

 そんな北大路さんの著作を読んでいると、趣味の昼酒を楽しんでいるシーンがなんども現れ、うらやましくなってしまいます。大げさに言えば、人生を楽しむのに、お金がすべてではないことを教えてくれています。もちろん、昼酒を飲むのにも少しはお金が必要ですが・・・。

刊行から5年、今一度読まれてほしい物語

 などと考えていると、テレビロードショーで、大友啓史監督・佐藤健主演の「億男」が流れているではありませんか。思わず画面に釘付けになった後、あらためて『億男』川村元気)を手に取ってみました。

 弟の莫大な借金の肩代わりのために妻子とも別居し、働き詰めの日常を送る主人公の一男。ある日、宝くじで3億円を当ててしまったことから、物語が動き出します。

 普通であれば喜ぶべきところでしたが、逆に不安に襲われた一男は、大学時代の親友で大金持ちの九十九に相談します。しかし、その直後に九十九はなぜか3億円を持ったまま失踪し、一男は追いかけながら、お金を巡る冒険へと足を踏み入れることに・・・。

 本書は、タイトルに「億」が付いていますが、お金儲けのためのノウハウは一切扱っていません。その代わり、お金の持つ本質についていろいろと考えさせられます。

 なぜ、諭吉さんや一葉さんが財布にやって来ないのか、なぜ来た途端にすぐにいなくなってしまうのか。本書を読むと、ちょっぴりその謎が解けたような気がします。明日から、お金との向き合い方が変わり・・・とはいきませんが、少しは財布の中が賑やかになっていくかもしれません。

 消費税が10%に上がり、キャッシュレス化が進み、各紙幣の面々も交代し、と時代とともにお金を取り巻く環境は変化しています。本書は刊行されてから5年経ちますが、今一度読まれてほしい物語です。

 さて、日本シリーズもあっという間に終わってしまい、プロ野球はいよいよストーブリーグに突入しました。ファンにとってこれから気になるのは、フリーエージェント(FA)の資格を取得した選手たちの動向でしょう。

 既にこの原稿を書いている時点で、福田秀平ホークス)、美馬学イーグルス)らが権利行使を表明し、大島洋平ドラゴンズ)や秋山翔吾ライオンズ)らの動向が注目されています。より良い条件を求めるのはプロとして当然のこと。出場機会を求めるのか、はたまた夢を追いかけるのか。

 彼らが一男のように、悔いなく選手生活を送り、大切なものを見つけられるように願うばかりです。

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2014年、先発で投球するニューヨークメッツの松坂大輔(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)